第243話 ハンマーズ・フェスティバル
前世の姉妹との再会から3日。
今日は、レッドサンド領のお祭りである。
レッドサンド中の鍛冶師が鍛えた武具を検閲し、優れた作品は竜気を与えて竜錬昇を受ける名誉を賜る。
その為の品評会だったのだが、ドワーフ達も他人の造った武具をじっくり見聞出来る機会だし、どうせなら騒ごうと言うわけで祭りになった。
祭りの名は俺命名で、『ハンマーズ・フェスティバル』。
最初はブラックスミス・パーティーだったのだが、大匠の1人に包丁やフライパンを造っている奴がいたので、彼の派閥にも参加権限がないのは不味いと、武具以外を認め、名前もブラックスミスからハンマーズへ変更した。
審査員は俺とミフィアにテイファ達3人の妹。
それぞれが気に入った代物を2つ以上選び竜気を流すと言う形のお祭りとなる。
これで10以上の作品が集まるはずなので、少なくとも大匠の作品があぶれると言う事態にはならないはずだ。
称号持ちが本当に優れているとは限らないが、そこまで責任は持てん。
大通りには様々な武器や防具、宝飾品。
変わり種では農具や調理道具もある。
鍛冶で造るものなら何でも良いけど、普通竜の目に止まると思うか?
ふざけるなと言いたかったのだが、
「この包丁達は素晴らしいですね。
私はこれに致しますわ」
「何でだよ!!」
メイド服に伊達眼鏡を掛けたロッティに突っ込みを入れる。
彼女は5本セットになった包丁を選んだのだ。
さすがに大匠の者が包丁を出すとは思えない。
……こういうのを得意としている連中も初回くらいはまともな武具を出してくるはずだろうし。
「そこはせめて武器にしようぜ?
そんな小さな包丁に竜気を込めるのは難しいだろうが!」
「包丁はメイドの主武装ですわ!
400年前にメイドで働いたとある子爵家のメイド長もそう言っていましたので!」
「どう考えても例えだろ……。
つうか何でメイドを?」
「やったことがなかったので!」
屁理屈に呆れながら疑問を呈すれば、堂々と胸を張る妹その3。
「……はあ。
もういいわ。
お前の分は俺が選ぶ」
「いえ、これで良いと思いませんか?」
一番大きい包丁をスッと前に出すロッティ。
確かに業物だけど……。
「さすがに今回の趣旨に反するだろう。
匿名での展示にしているのも、ひとえに大匠の純粋な技術の高さを知らしめるためだ」
今回の展示は俺達には各作品の作成者が伏せられ、番号で品評して最後に公表する流れになっている。
事前に裏で談合しても良いんじゃないか? と思わなくもないが、下手にバレると反乱とかになりかねないので危ない橋を渡るのはやめた。
けれど、この妹の行動を見るに鑑定くらいはしても良いんじゃないかと不安になる。
「全く!
我が妹ながら、為政者の目線が分かっていないな。
困ったものだ!」
「……で、お前は何を持っている?」
俺に同調してくれる心強いテイファだが、その手には見事な細工のブレスレット。
「うむ!
この技術の高さは名のある細工師の仕事に違いない!
ロッティもこういう優れた作品をだな……」
「バカだろ! お前! 本当のバカだろ!
何で鍛冶の大会で彫金物を選んでるんだよ!」
「全くよ! 私は……
ええっと…………」
ふざけているとしか思えないテイファに突っ込みを入れる。
それに同調したリッテは、周囲をキョロキョロと探し続ける。
……嫌な予感がした。
「リッテは何を探しているんだ?」
自分でも驚くほどの優しい声が出た。
それを聞いたリッテは冷や汗を掻きながら、
「木刀とかないかな? って……」
「何でだよ!」
観念して答える妹に更に突っ込みを入れる。
「うん。このノリでこそ、我々だ!」
「ええ! やはり大姉様はこうでないと!」
「帰ってきたって気がするっすね! ……っとと、いたしますわ」
テイファ、リッテ、ロッティの順で良い笑顔で言い放つ。
……どうやら俺をからかっていたらしい。
前世のノリだと確かにこんな感じだった気もしないでもないが。
マジで勘弁してくれよ!
そんなことを繰り返しながら3日間。
ひたすら俺が疲れる選定も終了して、結果の発表となったのだが、
「さすが
大匠達の遊び心を看破して、全て大匠の作品を選ばれております!」
司会の声が響く。
彼の後ろには、ロッティが選んだ包丁やフライパン。
テイファの選んだ細工に。
リッテが選んだキワモノ武器。
何で鉄扇とか
後は俺が選んだ真っ当な武器達が並ぶのだが、
「ただ……。その……、ゼファート様は……。
まあ経験が浅いと言うことで……」
司会の歯切れが段々悪くなる。
……まさか。
「匠級の物は選ばれてみえますが、大匠の物は1つもありません」
「マジか!」
「……と言いますか。
大匠達は真っ当な武器での登録がないので……」
「おい!!」
司会に突っ込みを入れ、周囲のドワーフ達を見渡せば、どいつもこいつも親指をたてて、ウインクをしている。
「髭面親父のウインクなんぞ見たかないわ!」
盛大な負け惜しみを言う俺の叫びだけが夕暮れの街に響き渡った。
なお、仕掛人はトルシェであり、彼女曰く、
「姉上もといゼファートは抜けているので、常識の穴を付けば意外と引っ掛かる」
「あれで度量があるのでイタズラ程度なら、口で文句を言うが手を出すような怒りを買うことはない」
と難色を示す大匠達を説得したことが分かった。
怒鳴り込みに行きたいが、やつのいる西大陸の旧天帝宮まで、今の俺の能力では片道3ヶ月以上の長旅が予想され、とてもそんな暇がないのだった。
…………ちくしょう。
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