第241話 西の姉妹

 サザーラント側のトラブル終息の目処が立たないらしい。

 キリオンからその情報を受け取り、レッドサンド領に滞在するようになって1週間。

 レッドサンドの上空に巨大なドラゴン3体が姿を現した。

 額に一角獣のような鋭い衝角を持つ赤い竜、頭から背中に掛けて2列に数十本の角を持つオレンジ色の竜。

 最後にスタンダードな2本角の青い竜。

 彼女らの姿を確認した俺は、


「いきなりだな!」


 竜化して空に上がった俺は開口一番に文句を言う。


「?

 トージェン姉から連絡は来ているだろう?」

「そのうち、行くはずとは聞いたがな!

 普通竜のままやって来るか?

 すごい目立つぞ!」


 一角赤竜テイファの返答に改めて文句を言う俺に、妹達はしまった! と言う顔で互いを見合わせる。


「……お姉様、じゃなかった。

 ゼファート殿。あなたはそれなりに高位の地位でしょう?

 人の姿で訪れても門前払いの可能性があったのよ」

「嘘付け!

 思いっきり、しまった! と顔に書いてあるぞ!」


 多角橙竜ロッティの言い訳をさっさと否定する。


「「……」」

「……ゼファート殿。

 ひとまず、人目の少ない所へ移りませんか?」


 青竜リッテの言葉に、地上のドワーフ達がてんやわんやしている様を思い出す。


「付いてきてくれ」


 俺の前世の扱いが今一分からないので、情報は少しでも秘匿すべきと考えて、彼女らを借り受けている私室へ招くことにした。





「テイファ、ロテッシオ、リースリッテ。

 帰ったらお話がありますので、速やかに私の部屋に出頭しなさい」


 ネミア越しににっこりと笑うトルシェ。

 だが、目は一切笑ってない上に"出頭"である。

 ここは下手なことを言うべきでないと判断した俺は、


「一応、3人が来ると言うのはトルシェから聞いていたんだが、今や多少前世の記憶を持つ他人だぞ?

 会う価値はないと思うんだが……」


 彼女らの救援を求める視線を全力で無視する。

 姉妹の中で一番怒らせてはいけない相手が誰かはよく分かっているのだ。


「寂しいことを言わないで!

 転生したとは言え、大切な姉に会いたいと思うのは当然でしょ」

『だから取り成して』


 と赤いショートヘアのテイファ。


「そうですよ!

 たった5人しかいない血族ですよ?」

『お願いっす。姉さんだけが頼りなんです』


 続けて、明るい赤色の髪をポニーテールにしているロッティ。


「数千年ぶりの再会にいてもたってもいられなかったんです」

『トージェンはなんだかんだで大姉様には甘いから』


 青い髪を腰まで伸ばしたリッテも続く。

 ……副音声で心の声が丸聞こえだが。

 美少女達の救援要請だが、あいにくと俺はノーが言える男である。


「さてトルシェも揃ったし、前世の俺がいなくなってからとこれからについて相談しようか?」

『飛び火するから絶対ヤ!』


 あっさりスルーして話を進める。


「そうですね……。

 何処まで姉上の記憶が戻っているのかは分かりませんが、その辺はリースリッテに話してもらいましょう。

 ……私達も封印されていたので」

「封印! テイファもか?!」

「いや、やったの私だし」


 他の姉妹も十分一筋縄ではいかない能力と性格だが、その中でも頭1つ飛び出ているのがテイファである。

 そんな彼女を封印したことに驚いた俺だが、それまで黙っていたミフィアが突っ込みをいれてくる。

 ……うむ。セフィアの能力なら可能だな。


「……やっぱり覚えていなかったんですね。

 素振りがなかったのでもしかしてとは思いましたが」

「ええっと……。ごめんなさい?」

「いえ、こちらも姉上の業を着せようとは思いませんので……。

 ましてや私達は文明を滅ぼそうとする姉上の足止めに挑み、敗れただけですので。

 それに……」

「トージェン達が大姉様の足止めをしたお陰で、人族へ大姉様の脅威を伝える時間が生まれました。

 姉達の犠牲は無駄ではなかったです」

「嫌な言い方をするな」

「そうですよ。まるで私達が死んだようじゃないですか!」


 トルシェの言葉を引き継いだリッテが意義を伝えるが、封印された姉達からしたら文句も言いたくなる言い方だろう。


「古代文明は滅亡しなかったのか。

 ……良かったような悪かったような」


 文明破壊の大罪はなかったが、セフィアの恥ずかしい情報が残ったことが心のしこりとなる。


「いえ、大姉様の怒りを知った彼らは、自らの文明の破棄を選択しました。

 便利すぎる世の中が誰かを知らずに傷付けると気付いたのです」

「……え?」

「彼らがネットワーク技術を封印し、都市の放棄を行った結果。

 わずか100年で文明はなくなり、剣と魔術の時代が再来したのです」


 どうやら間接的に文明を滅ぼしていたらしい。


「……私達が解放された時には今と変わらぬ文明レベルだったからな。

 今の人々も意外と過ぎた力を持つことを恐れているかもしれん」


 トルシェが染々と呟く様子に若干頬をひきつらせるリッテ。

 見た感じ何か言えない事実があるだろうが、今は突っ込まない方が懸命かと留まることにする。


「それでは今後のことだが……」


 どういう風に関わっていくか訊いたつもりだったが、


「姉上の護衛に1人置きます。

 好きな妹を選んでください」


 嫌な言い方で返された。


「訊き方が嫌なんだけど……」


 誰を選んでも角が立つじゃないか!


「……交代制ってのはどうだろうか?」


 一番、安全牌と思われる提案をするしかなかった。

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