第214話 食テロ
食テロってのは、食事をテロするってことで、本来なら異世界の知識でこれまでにない食を提供して、称賛を集める行為だが、大半がご都合主義だから実際にはやれない物だ。
安易に考えて実行すればどうなるかを勇者が実際に体験したと言う。
この間帰った時にうちの嫁がいなかったのは、その解決に手を貸すために奔走したかららしい。
王都の別邸に俺が帰り着き、マウントホーク辺境伯一家が揃った日の夕食。
その場で、テーブルの上にドンっと置かれた壺。
「私からのお土産」
それを置いたユーリカは疲れた表情で、そう言うのだった。
お土産は壺自体ではなく、中身だろうと言うのは誰にでも分かる。
中を覗き込むと、淡黄色のクリームが入っているのだった。
それは日本人にはお馴染みの調味料にしか見えず……、
「……マヨネーズ?」
「ええ……」
「……大丈夫なのか?」
「これは大丈夫。
マナに浄化してもらっているわ」
「うむ。"これ"は大丈夫と言うことは大丈夫じゃなかった代物もあるのか?」
「ええ。
結構な問題になっていたわ」
お土産と言うよりは切っ掛け作りの一環のようだと思いながら、スプーンで手に掬い、懐かしい味を味わう。
「旨いな。
……さて、詳しく聞いても?」
「もちろんよ。
私が関わる発端はナカノ子爵家からの嘆願だったわ。
そこに書かれていた詳細は……」
「奥方様」
別邸を任せている執事長のリッドが、気を効かせてナカノ子爵家の手紙を持ってくる。
シュールからリッドに回ってきていると言うことは王家にも報告がいっているとみるべきだろうな。
そんなことを思いながら一瞥した手紙には、ナカノ子爵夫人達の実家やその寄子を招いてパーティーを行い、そこで出したマヨネーズが気に入られたので、レシピを渡したら、多くの家で食あたりが起きて、弁済を求められているとあった。
「異世界物の定番で食テロってのはあるが、まさか本当のテロを起こすとは……」
「日本がどれだけ恵まれていたかを分かっていなかったんでしょうね……」
呆れて呟く俺に同意する嫁。
対して、
「けど、ローラッドもマヨネーズで他の貴族と仲良くなって、他国との戦争で庇ってもらっていたよ?」
マナは中野に同情的だった。
勇者達が読んでいたと思われる、転移前に人気のあったマンガはマナも、ついでに俺も好きだった物だけにフォローしたいと思ったのだろう。
しかし、
「マナ。
現実とマンガを混同すると痛い目を被ることになるぞ?」
娘への忠告を兼ねて強めに否定する。
「……」
「……マナちゃん。
生の卵って言うのは、たくさんの病気の元がくっついてるの。
それを取り込まないようにする技術がないのにやってはダメなのよ?
物語にはそこまでのことは書かれていないでしょ?
マンガやアニメの真似をするのは構わないけど、その影響まで考えないとダメでしょ?」
「今回は、特にレシピを渡したって言うのが問題なんだ。
現物を用意して、作るところを見せればどうにかなったんじゃないか?」
「?」
「料理の前に~、手を洗うことすら知らな~い料理人も~、いたよ~?」
首を傾げるマナにレナが説明をいれる。
中世レベルの文化圏で田舎の料理人じゃあ、手を洗わないくらいは普通かもしれない。
……明らかに泥塗れなら別だが。
「……起こるべくして、起こっただけじゃないか?」
「それでもマヨネーズで大規模な食中毒が発生したのは事実だから……」
「口実に利用されたな」
この場合に必要なのは、本当にマヨネーズが原因かどうかではない。
作ったマヨネーズを食べて食中毒になった人間とそのレシピが異世界人から大範囲に一斉拡散した事実。
この2つがあればそれでよかったんだろう。
それだけでナカノ子爵家に貸しを作ることが出来るのだから……。
「大まかな事情は分かった。
あらましと結果が聞きたいな」
「私も!」
……マナも聞いていなかったのか?
レナが一緒だったからお互いに相手が言ったと思ったのかね?
「そうね。
あれは……」
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