第4話 頭痛のする現実

 宰相ロッドは病床の国王に代わって、午前中は政務を回し、午後から屋敷に戻って、自分の領地への差配を行う激務に明け暮れていた。

 そのせいで第1王子への監視が弛んだと言い訳をすることはしない。

 しかし、その現実が自らの激務を更に過熱させるはめになった。

 それは屋敷に戻ったすぐのこと。


「失礼します。閣下!」


 近衛隊所属の騎士が執務室を訪ねてきたのだ。

 胸に付けた騎章は赤。…第1王子の担当と言う時点で嫌な予感しかしない。


「何も言わずに帰って欲しいな…」

「すみません。私も隊長には逆らえませんので…」

「冗談だ。今度は何をやらかした」

「ロランド様が宮廷魔術師の一部と結託し、勇者召喚を行いました!」

「行いましたぁ?

 何故誰も察知できなかった!」

「第1王子派の貴族や騎士に邪魔されたようです」

「…近衛隊にも第1王子派がいるからな」

「アイザック分隊長も預かり知らなかったらしく頭を抱えております」

「若手の暴走か。

 それで? 召喚された勇者達の様子は?」

「現在は召喚の後遺症で寝ております。医師の見立てでは目覚めは早くて3日後くらいだと…」

「そうか…。

 下手に取り上げてまたおかしなことを始められては困るな…。

 あちらには関わる必要はないと伝えよ」

「よろしいので?」

「ふん。現状を打開出来るような高価な財宝を持ち帰ろうと思えば、最低でも低層まで潜る必要がある。

 勇者がそのレベルに達するより早くレンター様が王位を継ぐじゃろう」

「無理をなさるのでは?」

「その時はそれで構わん」


 国王陛下は今年の冬は恐らく越せない。ならばロランド王子が王位を手に入れるには、今年の秋までに勇者を低層に潜れる実力まで育て、自らも共に低層に辿り着いて活躍する必要がある。

 半年で最低でもレベル40まで引き上げる等相当な無茶が必要。

 何処かで無理をしてお隠れすることだろうと言うのがロッドの考えだ。


「しかし、騎士にも被害が出るのでは?」

「安心せい。ダンジョンに潜る以上は王族ではなく一介の冒険者として扱われる。

 それに国庫から予算は出ん」


 第1王子派の貴族が支援するのは勝手だが。と続ける侯爵に騎士は安堵の表情を浮かべ、次いで、


「閣下。もう一つご報告があります。

 勇者召喚に巻き込まれたと思われる中年の夫婦と幼い子がいるのですが…」

「馬鹿者!

 そっちの方が重要ではないか!

 その者達はどうした?」

「召喚の間に置かれたままです。

 ロランド様達は勇者の称号がないので興味がなかったらしく…。

 かといって、ロランド様が行われた儀式である以上、中級以下の貴族が庇護も…」

「分かった。儂の庇護だと…。

 いや直接会いに行こう。下手な貴族に騒がれるわけにもいくまい」

「感謝いたします」


 こうして鷹山一家の面談を望んだ宰相は勇者より早く目覚めた3人の素養が高いことを想定し、それとなくダンジョン攻略へ誘うのだった。

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