悪役令嬢に転生したから好感度を上げて生き延びます!
数打屋 的
レッツ断罪回避!
普通のOLだった私は気づいたら乙女ゲームの世界に悪役令嬢アポニーヌとして転生していた。
アポニーヌの結末は、良くて貴族位剥奪の上に修道院行きという名の島流し。悪くて召喚した悪魔に乗っ取られて死亡。
どっちのエンディングも願い下げだ!
ヒロインと攻略対象全員の好感度を上げて生き抜こう!!
そうして過ごした学園生活は悪くないどころか良いものだった。
ヒロインを囲む攻略対象たちのお茶会、の中に紛れ込む私。
ヒロインの恋路を邪魔しないギリギリまで好感度を上げた。
ゲーム知識を活かしたツボをついたプレゼント。
あなたのことは理解してますよムーブ。
ゲーム内の好感度アップアイテムである手作りクッキーを携えることを忘れない。ヒロインも持ってくるから、ハーブを入れてちょっとした差はつけてあるけどね。
もちろんヒロインをいじめたりなんかしない。
悪魔も呼ばない。
フラグは全部折ったはず。
あとは悪役令嬢断罪イベントが起きる卒業パーティーが何事もなく終わるのを待つだけだ。
大丈夫。私は何も悪いことをしていないのだからーー。
「アポニーヌ! この場でその罪を明らかにし、お前との婚約を破棄する!」
パーティの参加者全員に聞こえるように通告する王子。
その背中に守られながら、緊張と決意を感じさせる表情で私を見ているヒロイン。
両脇を固める宰相の息子と天才魔導少年。
私を取り押さえる騎士団の息子。
逃げ道を塞ぐ薬学講師。
ゲームのスチルそのままの布陣だ。
どうして? 昨日まで仲良くお茶をしていたのに。さっきまで普通に会話していたのに。
「リナ男爵令嬢への執拗な嫌がらせは聞き及んでいる。王族の婚約者にふさわしい行為ではない。取り巻きを使って悪口を広める、制服をわざと汚す、ダンスシューズを隠す、あげく階段から突き落とすなど!」
「そんなことはしていません!」
本当にしていない!
「黙れ! 往生際が悪いぞ! 何の証拠もなく言っていると思うか!」
むしろ私は悪口を諌め、いじめが起こらないように心がけてきた。
それを知っているはずの級友はザワザワと遠巻きに見ているだけで、助けに来ようとはしない。
まさか、ヒロイン周りに構い過ぎて、周囲の好感度を上げそびれた?
「最も重い罪は、王族への毒殺未遂である」
「え?」
周囲のざわめきが大きくなる。
「そうだな、リナ?」
王子が背後のヒロインに発言を促す。
「はい。私たちに持ってくるクッキーにはバヂルを入れてある、このくらいなら味が壊れないと、アポニーヌ様は確かに言いました」
そこかしこから悲鳴が聞こえた。
何が悪いのか全く分からない。庭のバジルを摘んで手作りクッキーにいれただけだ。前世で作り慣れたものだし、皆もおいしいって普通に食べていたじゃないか。
「よもや、バヂルが指定禁止毒草だと知らないわけがあるまい。8歳の子供でも知っていることだ」
あっ、と声が漏れそうになった。
私がアポニーヌとして目覚めたのは10歳のとき。怪我のショックによる記憶喪失として処理され、貴族の常識を一から学び直した。
一般的な常識まで忘れているとは思われてなかったのだろう。
私も、前世のバジルと同じだと思い込んで人に確認しようともしなかった。
こんなところに落とし穴があったなんて。
「私のクッキーは……」
「無論、皿に盛るときに入れ替えていた」
食べられてもいなかったのか。
何もなくて良かったと安堵すると同時に、私の気持ちは届いていなかったことが悲しくなった。
「でもヴィクトル王子を殺す気なんてなかったと思います! 結果として誰も被害を受けていないし、いじめだって気にしてません。どうかアポニーヌ様を助けてください」
「リナは優しいな。俺はお前こそ王妃の器だと思う」
こんな時に熱っぽく見つめ合う二人。これもスチル通りだ。
その後のことはあまり覚えていない。
結局、私は婚約を破棄され、ワケあり令嬢として貴族位剥奪の上修道院行きになった。
未遂に終わったこと、ヒロインへの説明が自白に相当するとされたこと、何よりヒロインの必死の嘆願が効いて、投獄やお家お取り潰しはなんとか免れた。
嫉妬から婚約者を薬物中毒で虜にしようとしたアホニーヌ、と噂されている。
私は今、修道院行きの馬車に乗り込んだところだ。
王子とヒロインの婚約が発表され商人の出入りが旺盛になったために、道が混雑して常より時間がかかっていた。
ぼんやりとこの一年間を思い出す。
好感度を上げようとして空回りし続けていたなんて、あげく避けたかったエンドをなぞるなんて、本当に馬鹿みたいだ。
でもそんなことよりーー皆の笑顔が嘘だったのが辛い。
バッドエンド回避のための打算から始まった関わりだけれど、普通に楽しい時間を過ごせていると思っていた。
「仲良くしたかっただけなのにな……」
ぽつりと言葉がこぼれた。
「アポニーヌ様ーーー!!!」
聞き覚えのある声がすごい勢いで近づいて来たかと思うと、開けていた窓に頭から突っ込んできた。
「アポニーヌ様! よかった出発前に間に合って!!」
「あ、あなた、淑女がスカートの中を見せちゃダメ!!」
慌てて馬車内に引っ張り込むと、ヒロインは悪びれずに笑った。
いまや王族関係者となった彼女を御者も止められなかったようだ。
「ふふ、アポニーヌ様平民落ちしましたね! ああ、今はただのアポニーヌ、でしたね」
わざわざ馬鹿にしにきたのかと思ったが、彼女の表情は決して嘲笑ではなかった。
単純に嬉しそうだ。普段通りすぎて懐かしささえ感じる。
それはそれで馬鹿にしていると思うけど。
「これであなたを妾にできます」
「はい?」
結婚もまだなのにもう第二王妃の話をするのかと、問う隙も無くヒロインがぐいぐい距離を詰めてくる。
「いいじゃないですか妾。王宮で貴族並みの生活ですよ。わたし一目見た時からあなたのことを気に入ってたんです。美しくて賢くて優しくて気さくで、さすが王子様の婚約者だなって! 世界で一番お城が似合います、だからお城に来てください!」
「あ、ありがとう。光栄だわ」
勢いが良すぎて言葉に詰まってしまった。
とはいえ一理ある。
修道院よりは暮らし向きもいいだろうし、王子とヒロインも略奪愛と言われなくなるだろう。
これは一発逆転で没落エンド回避か? ヒロインの好感度も上げといてよかった!
「わたし、欲しいものは絶対に手に入れる主義なんです」
「知ってるわ」
逆ハーレムの主なんだから。
「だから頑張っちゃいました。王妃より地位の高い妾なんて許されませんからね」
ん?
確かに、男爵令嬢より下なんて平民しかいないけれど……まさかそのために。
「王妃教育は厳しいけれど、代われないわよ? リナさんが自分で身につけないと」
言いかけた唇をヒロインが指でそっと抑えた。
「アポニーヌ。わたしの妾になりなさい」
するりと手が伸びてきて、私の髪をすくい取った。
「リナさん、何を」
「だめよアポニーヌ、リナと呼んで」
リナの指が絡まってくる。
逃げようにも、平民が貴族に逆らえるはずがないのだった。
悪役令嬢に転生したから好感度を上げて生き延びます! 数打屋 的 @kazuutiya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます