恋のライバルが優しくて困るんですけど!

卯野ましろ

恋のライバルが優しくて困るんですけど!

「リリィちゃん、ちょっと良い?」

「は、はい……」


 あたしは百子ももこ。今日はクラスメートのリリィちゃんに絶対に言ってやります。

 ……ビシッ!


「うわっ、何あれ……」

「リリィちゃん大丈夫かな」


 教室がザワついた。無理もない。今あたしはクラス……いや、それどころか学校のマドンナのリリィちゃんに指を差しているのだから。

 でも……そんなことぐらいで、あたしは怯まない!


「あたし、リリィちゃんには負けないから! 合川あいかわくんは渡さないわっ!」


 合川くんは、あたしが恋しているクラスの男子。リリィちゃんは、やたらと合川くんと一緒にいる。お似合いカップルと騒がれるくらいだ。でも、それは噂。あくまでも噂。

 だから、あたしは宣戦布告したのよ!

 絶対に負けないわ!

 合川くんと結ばれてみせる!


「プッ……アハハハハハ!」

「な……」


 あたしの宣戦布告が済んだ直後、教室が笑い声で溢れた。


「それ何という無理ゲー!」

「無謀だよ、この身の程知らず!」

「リリィちゃんたち、超お似合いなのにね!」

「バーカ!」

「後で合川にチクっとこ!」

「っ……!」


 あたしに向かって次から次へと投げられる暴言の数々。

 さすがに泣きそうになった。

 せっかく堂々と振る舞った結果こんなことになるなんて。

 嗚呼、あたしって何というバカな奴……。


「みんな、やめて」

「えっ……」


 クラス内の笑い声がピタッと止まった。


「百子ちゃんは、一生懸命に私に気持ちを伝えてくれたのよ」


 ……は?


「そんな百子ちゃんを悪く言うのはダメ。謝って」


 え、何これ?

 どゆこと?


「……ごめんなさい……」

「は、はあ……」


 笑った生徒たちが、一斉に謝ってきた。


「それじゃ百子ちゃん!」

「は、はいっ?」


 ガシッと右手を掴まれた。あたしは驚いて隣を見る。そこには笑顔のリリィちゃん。


「よろしくね!」

「……は?」


 それから、あたしの日常は激変した。


「百子ちゃん、おはよう!」

「お昼、一緒に食べましょ百子ちゃん!」

「宿題、忘れたの? じゃあ私が見せるから早く写して!」


 リリィちゃんが以前にも増して、あたしに対して友好的だ。思いっきり敵意を剥き出しにした相手なのに。

 ……なぜだ。


「それでね、それで~」

「ちょっとリリィちゃん!」

「あらっ、なあに百子ちゃん?」


 あたしは二人きりで歩いているとき、とうとう爆発してしまった。


「どうしてリリィちゃんは、あたしに優しいのよ!」

「へ?」

「あたし宣戦布告したんだよ!」

「……はい、されました」

「それなのに! あたしに親切にしないで!」

「嫌!」

「えっ……」


 リリィちゃんが真っ直ぐな目で、あたしを見ている。

 うわぁ、やっぱり美少女……。

 って、そうじゃない!


「あの百子ちゃんが、せっかく私に近い存在となってくれたのに……!」

「……は?」

「私、気づいていたんだから! いつも百子ちゃんが私に熱い視線を送ってくれていたことを!」


 い、いや……それは……。

 合川くんと仲良しなリリィちゃんを睨んでしまっていたからで……。

 あと、あたしが合川くんをついつい眺めてしまっていたのと勘違いしているとか。


「私、ずうっ~と百子ちゃんと仲良くなりたかったんだから! ね、合川くん!」

「うん!」


 リリィちゃんが名前を出すと、合川くんがパッと姿を現した。今まで隠れていたらしい。


「あ、合川くんっ?」

「百子ちゃん。いつか君たち二人が、こうなってくれることを……ずっと僕は望んでいたんだよ」

「え……?」


 それは、一体どういうこと?


「百子ちゃん、僕はね」

「きゃっ!」


 あ、あの合川くんが……あたしの手を握っている!

 やっぱり、かっこいい……!

 やだ、あたしを見つめないで!

 ますます好きになっちゃうじゃない!


「僕は、女の子が仲良くしているのを見るのが大好きなんだ!」

「……はい?」


 え、何ですか。その告白。


「百子ちゃん。合川くんはね、実は百合好きなの。」

「……百合好き? 百合?」

「百合は女の子同士の恋愛。合川くんは、それを見て喜ぶ人よ。合川くんは私たちが仲良くしている様子に興奮しているの!」


 ……はあぁああぁあぁぁあぁっ?

 ちょっと、何それ!


「合川くん、あれで結構オタクなんだから! 今まで幼馴染みの私しか知らなかったけど……」


 ……えぇえええぇぇえぇぇっ!

 初耳だよ、そんなの!


「そんな私は百子ちゃんとのことを、これまで合川くんに相談していたんだけどね。どうしたら親友になれるかって。そしたら合川くん、こう言うのよ! 君たち二人は、お似合いだから僕のためにも仲良くなってくれ! 強気×清楚をくださいって!」


 隣で合川くんが、うんうん! と頷いている。

 ……かわいい……。

 いや確かに、かわいいけれども!


「……」


 一度に色々な情報が入ってきて、あたしはポカンとすることしかできなかった。




 そして、その後……。


「百子ちゃん、一緒に帰りましょ!」

「あ、うん!」


 あれから、リリィちゃんとあたしは無事に(?)親友同士となった。リリィちゃんが合川くんに特別な感情を抱いていないことが判明したので、あたしたちはライバルではない。

 それに、あたしは嬉しかった。あの美少女が、こんな気が強くて全然かわいくないあたしと仲良くしてくれるなんて。実は性格が原因で、あたしには友だちがいなかった。

 だから、あたしはリリィちゃんの好意を本当は喜んでいたのだ。


「お~い、僕も一緒に帰らせてくれよっ!」

「あ、合川くん!」

「ダメよ!」

「ひゃあっ」


 リリィちゃんが、あたしに抱きついてきた。


「うおっ、おお……!」


 それを見て合川くんは興奮している。それでも、あたしは別に引かない。もうすっかり、この光景にも見慣れてしまった。


「親友同士、水入らず! 男は邪魔よ!」

「えー……それはやめてよリリィちゃん。だって合川くんは」

「そうだぞリリィ! 百子ちゃんと僕は恋人同士なんだからっ!」


 はい、そうです。

 あたしは合川くんの彼女になれました。

 あの二人のカミングアウトの後、あたしも合川くんに告白しました。そしたら見事にOKをいただき、今に至ります。


「いくら彼氏でも束縛やストーカー行為は禁止よ!」

「そっちだって親友だからって調子に乗るなよ!」


 あのときはリリィちゃんとあたしがライバルだったのに、現在は合川くんとリリィちゃんが、あたしを巡って敵対している。


「……ハハハ……」


 少し特殊な関係の三人ですが、一応あたしは楽しくて幸せです。

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