国道50号佐野バイパス

たっくんスペシャル

〜水戸編〜 グッドバイ、幸せになれよ

この道を通れば、あの山がある。

東西を一走りできるこの国道は、海にも山にもいける。海に行きたければ右、山に行きたければ左だ。

春には周りの景色が一変し、道路の周りが一面緑色になるこの道には、人の営みが垣間見える。


関東近郊の地方都市に住む高齢者の一人、塚本には、国道を走る車の中で一人娘との生活を思い出していた。

「もう春か、あのときも春じゃったのぉ。忘れもしない4月の半ば、ばぁさんの実家大洗の海の見える病院で娘のはるかが生まれたのは。」


「あなたはいつもはるかのことばっかりですねぇ」、塚本の妻は微笑みながら話した。


「なんとも小さいまるでクラゲのような子じゃったのぉ、あのときは潰れちゃうかと思った」

「そうでしたね、はるかはよく育ちましたことね」

一人娘のはるかは、当時低体重の状態で生まれ、生まれてすぐに保育器に入れないと生きていけなかった。

「ばぁさんも苦しんだもんなぁ、あの時代」しんみりした雰囲気の中、車は一段加速した。

「よしてください、でも、どうしても子どもは欲しかったですね。」

「今ははるか一人で満足です。私に母親をやらせてくれて。」塚本の妻は泣き出していた。

「ここにはるかがおらんで良かったな、今のうちに泣いておけ。」塚本は左手で助手席に置いてあるカバンを開き、そこからタオルを放った。


「はるか、今年から結婚するんじゃと、ばぁさんと違ってあいつは見る目があるな。」塚本は笑った。

「そうですよ、私は男を見る目がなかったですねぇ」塚本の妻は涙のついた顔を微笑した。


車は市街地を抜け、高速道路の高架下を走る。

陰になった高架下は、抜ける直後が眩しい。

「ばぁさんや、俺といて楽しかったか。」塚本は後部座席の妻に問いかけた。

「えぇ、もちろん。あなたはわざわざこの道を使って大洗まで来てくれましたね。

思い出すのは大学の登山サークルで登った筑波山でしたね。」

記憶をたどり出した塚本は言った。

「筑波山か、あのときは登山なんてやったことなかったのぉ」

「なんで登山サークルなんて入ったんですか?」

塚本は言った。

「お前に会うためだよ。」

赤信号で止まった車の中で、塚本の妻は手で口を隠しながら笑った。「臭いセリフですねぇ、何年前のドラマのセリフですか。」

塚本は顔を赤らめた。

「本当はどうだったんですか?」

「だから、お前に会うためだって」

塚本の妻はびっくりした表情で聞き返した。「それは本当なんですか。私に?」

塚本はやれやれといった表情になって言った。「ちょっと冗談も入るが、実は友人に登山サークルに美人がいるって言われたからのぉ、そして入って出会ったのがばぁさんとの出会いじゃ」

「今でも美人だと言ってくれますか?」塚本の妻は塚本に尋ねた。

「そりゃ、美人じゃないやつとはドライブなんてしないからのぉ」青信号になって車は発進した。

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