広がる壁のシミ

田島絵里子

第1話 おらこんな田舎いやだー

「歓迎会をしよう」

 と、言い出したのは、花森高校演劇部部長の高田であった。おれは気が進まなかった。新入生を歓迎するのはわかるが、転校生まで歓迎する必要があるのだろうか? 途中で入ってきたやつらが大きなツラをするだけじゃないか。

「転校生の三田村秀二くんは、成績優秀でイケメンなんでしょう?」

 増山は、夢見るように言った。

「まえの学校での演劇部では、脚本を担当していたそうじゃないの」

「おれは気に入らないね。図に乗らせるだけだ」

 おれは意見を述べた。

「近くのJRは無人駅。もよりの郵便局まで2キロはあるような田舎なんだぜ、ここは。来たとたん、バカにされるのがオチだ」

「どうやって、もてなそうかな」

 増山は、おれの反対を完璧にスルーして、顔を紅潮させている。のぼせてやがる。おれは、胸がムカムカしてきた。いや、べつに増山に気があったわけじゃない。単に、イケメンというだけでうっとりするような女子たちに、不信感があるだけだ。

「せっかくこんな田舎に来てくれるんだから、それにふさわしい歓迎が必要だろうね」

 高田そう言うと、座っていた椅子から立ち上がり、部室に置かれている黒板に板書をはじめた。

「ここにはカラオケもないし、喫茶店はさびれかけてるし、マクドナルドも、ケンタッキーもない。あるのは廃屋だけだ」

 おれは、なんとかこの企画をやめさせようとしているのだが、部長の高田は目を輝かせた。

「廃屋? そこは、どんなところだ?」

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