姚興54 浸蝕      

乞伏乾帰きっぷくけんきが召使いに殺され、

その息子の乞伏熾磐きっぷくしばんが新たに立った。

この時姚興ようこうの配下らは

西秦せいしんを攻め滅ぼすべきと主張。


が、姚興は言う。


「乞伏乾歸は

 改めて服属を申し入れてきたのだ。

 こちらもそれに応えようとしていた。


 そんな乞伏乾帰が死んだからと、

 討伐に出向くなど、

 我が志にもとる振る舞いよ!」



一方、対赫連勃勃かくれんぼつぼつ戦線。

姚興は楊佛嵩ようふつすうを都督嶺北れいほく討虜諸軍事、

安遠將軍、雍州ようしゅう刺史とした。

ら、楊佛嵩。出撃。えっマジ!?


楊佛嵩が出撃して、数日後。

姚興は配下らに言っている。


「確かに楊佛嵩は、強い。

 だがひとたび奴が敵と戦えば、

 まるで制御が効かなくなる。

 だからこそ、五千以上は与えずにいた。


 だが、今はやつに多くの兵を持たせている。

 これでもし赫連勃勃軍にでも会えば、

 まず敗れるだろう。


 すでに奴は遠くにまで

 行ってしまっている。

 今更援軍を出したところで、

 もはや我々が到着するころには

 決着してしまっているのだろう。


 そのことが気にかかって仕方ない」


まっさかぁー!

考えすぎですって、陛下!


臣下たちはそんなノリだったのだが。

フラグは無事回収されました。


楊佛嵩、くびちょんぱになった。




乾歸為其下人所殺,子熾磐新立,群下咸勸興取之。興曰:「乾歸先已返善,吾方當懷撫,因喪伐之,非朕本志也。」以楊佛嵩都督嶺北討虜諸軍事、安遠將軍、雍州刺史,率領北見兵以討赫連勃勃。嵩發數日,興謂群臣曰:「佛嵩驍勇果銳,每臨敵對寇,不可制抑,吾常節之,配兵不過五千。今眾旅既多,遇賊必敗。今去已遠,追之無及,吾深憂之。」其下咸以為不然。佛嵩果為勃勃所執,絕亢而死。


乾歸は其の下人に殺さる所と為り、子の熾磐が新たに立つ。群下は咸な興に之を取らんことを勸む。興は曰く:「乾歸は先に已に善きを返じ、吾れ方に當に懷撫せんとす。喪に因りて之を伐ちたるは、朕が本志に非ざりたるなり」と。楊佛嵩を以て都督嶺北討虜諸軍事、安遠將軍、雍州刺史とし、領したる北の見兵を率い以て赫連勃勃を討たんとす。嵩の發せること數日、興は群臣に謂いて曰く:「佛嵩は驍勇果銳にして、敵に臨みて對寇せる每、制抑すべからざれば、吾れ常に之を節し、配したる兵は五千を過ぎず。今、眾旅は既に多かれば、賊に遇わば必ずや敗れん。今、去れること已に遠く、之を追いても及ぶ無からん。吾れ深く之を憂す」と。其の下は咸な以て然らずと為す。佛嵩は果して勃勃に執わる所と為り、絕亢し死す。


(晋書118-15_識鑒)




姚興さん、自分の判断が後手後手になっているのに気付いてる感じはありますね。あえてプライドにこだわったり、取った手立てが問題解決に足りてないことに遅まきながら気づいたり。そりゃこの状況でまともに考えてなんてらんねえだろうし、ストレスで精神蝕まれてるだろうから、病魔だって忍び寄ってきてるだろうし。


あぁ……「早く死ね」って思っちゃいますね。もうこの人救うのって、死以外ないじゃないですか……。

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