姚興18 北魏襲来    

姚興ようこうは書面にて命令を下す。内容は、

将軍、司令官らの父母が亡くなった時、

よほど重要な任地にいない場合に限り、

家に帰還することを許可した。

その喪が済んでから、

また改めて公役に復帰せよ、とした。


また出征したものでも、

父母の死に遭えば、百日の休暇を認可。

ただし地方指令が代任の到着を待たずに

任地を離れるようなことがあれば、

任務独断放棄の罪で罰した。


またこのころ、捕虜としていたしんの将軍、

劉嵩りゅうすうら二百三十七人を建康けんこうに帰還させた。



北魏ほくぎ高平こうへいにいた沒奕于ぼつえきうを襲撃。

沒奕于は任地を放棄、赫連勃勃かくれんぼつぼつをはじめとした

数千騎と共に秦州に逃げ込んだ。


北魏軍はさらに進み、瓦亭がていに駐屯。

この知らせに長安ちょうあん城内は震え上がる。

城門という城門は、固く閉ざされた。


北魏将の貳塵じじん河東かとうに侵入。

この事態を受けて姚興は

自ら兵卒らの訓練を実施、

長安城の西部で閲兵式を執り行った。

そこで特に勇壮であった者らを抜擢、

城内に引き入れる。


そして東堂にて臣下らと会合を開き、

北魏討つべしを高らかに提議する。

臣下の答えはみなノーであったが、

姚興に従うそぶりはない。


その中に、姚顯ようけんが進み出てきて、言う。


「陛下は天下の文鎮であらせられる。

 文鎮は妄りに動くものではございませぬ。

 ここは諸将に必勝の策をお授けになり、

 迎撃に出すべきでありましょう」


姚興は答える。


「王たる者、おのが領土の乱を安んじることが

 重要な務めである!


 だというのに、どうして余がおめおめと

 奴らめにしっぽを巻いておれようか!」




興下書,將帥遭大喪,非在疆埸險要之所,皆聽奔赴,及期,乃從王役。臨戎遭喪,聽假百日。若身為邊將,家有大變,交代未至,敢輒去者,以擅去官罪罪之。遣晉將軍劉嵩等二百三十七人歸於建鄴。魏人襲沒奕于,於棄其部眾,率數千騎與赫連勃勃奔于秦州。魏軍進次瓦亭,長安大震,諸城閉門固守。魏平陽太守貳塵入侵河東。興於是練兵講武,大閱於城西,於勇壯異者召入殿中。引見群臣於東堂,大議伐魏。群臣咸諫以為不可,興不從。司隸姚顯進曰:「陛下天下之鎮,不宜親行,可使諸將分討,授以廟勝之策。」興曰:「王者正以廓土靖亂為務,吾焉得而辭之!」


興は書を下し、將帥の大喪に遭い、疆埸嶮要の所に在るに非ざれば、皆な奔赴するを聽し、朞に及びて、乃ち王役に從わしむ。戎に臨みて喪に遭わば、百日の假せるを聽す。若し身にて邊將為りて、家に大變有るに、交代の未だ至らず、敢えて輒ち去らんとせる者は、擅に官を去るの罪を以て之に罪す。晉の將軍劉嵩ら二百三十七人を遣わせ建鄴に歸らしむ。魏人は沒奕于を襲う。于は其の部眾を棄て、數千騎を率い赫連勃勃と秦州に奔る。魏軍は進みて瓦亭に次さば、長安は大いに震え、諸城は閉門し固守す。魏の平陽太守の貳塵は河東に入侵す。興は是に於いて練兵講武し、城西にて大いに閱し、勇に於いて壯異なる者を召し殿中に入れ、引きて羣臣と東堂にて見え、大いに伐魏を議す。羣臣は咸な諫めて以て不可と為すも、興は從わず。司隸の姚顯は進みて曰く:「陛下は天下の鎮にして、宜しく親しく行くべからず。諸將をして分ちて討たしめ、廟勝の策を以て授くべし」と。興は曰く:「王者は正に廓土の靖亂を以て務めと為さん。吾、焉ぞを得て之に辭さんか!」と。


(晋書117-16_王度)




うーん、姚興の考え方がやや硬い。北魏軍の侵攻って事態に対して、王自らが妄りに動いてはならないってのはまさしくなんですよねえ。


にしてもここで出てくる劉嵩は間もなく後秦に攻めてくるし、ついに赫連勃勃の名前は上がってしまうしで、ここからくる後秦の凋落の芽が見え始めた感じで、なんというか、切ないですね。

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