姚興12 覇を示す    

うまく進捗が出ない洛陽らくよう攻略に対し、

姚興ようこう楊佛嵩ようふつすうを増援として派遣。


一方で各地に指令を出し、

人々のうち天災等による困窮がもとで

その身を奴隷に落としたものの債務を救済、

地位を良人へと引き上げた。


自らについては、日蝕の発生や

たびたびする災害などを理由に

皇帝より降り、王位を称することとした。

あわせて公卿、将軍、地方官らに

おのおの一等級の降下を命じる。


これに対し姚旻ようみんをはじめとした五十三人が

諫めの文書を出す。


「伏して申し上げます、陛下の功績は

 天にも及び、全土をも覆っておられます。

 その威徳は内外にも広く響き渡り、

 湯王とうおういんを興したことも、

 武王ぶおうしゅうを盛んにしたことも、

 陛下の功績をたたえるには足りません。


 江南こうなんの地を平らげ、天に向け

 天下統一を報告されるべきでこそあれ、

 今ここで謙譲のお心を示され、

 天命に違えることが

 あってはなりますまい!」


姚興は答える。


「殷の湯王、禹王うおうの德は

 あらゆる王に勝っていたが、

 それでもなお謙譲の心を忘れず、

 その身を宮殿に置くこともなかった。


 そこに比べれば朕の愚昧さで、

 どうしてのうのうと極位になぞ

 ついておれると思う?」


そうして姚旻らに社稷宗廟への報告をさせ、

大赦し、弘始こうしと改元した。

孤児や寡婦らには、

立場に応じた食べ物や衣服を与え、

七十歳以上の老人にも衣服や杖を与えた。


いっぽうで始平しへい太守の周班しゅうはん

槐里かいり令の李𩇕りせいらが

収賄をなしていたため処刑。

これによって国内は粛然とした。


やがて洛陽が陥落。

淮水わいすい漢水かんすいより北の多くの城から

降伏の書状が寄せられてきた。




興遣將鎮東楊佛嵩攻陷洛陽。班命郡國,百姓因荒自賣為奴婢者,悉免為良人。興以日月薄蝕,災眚屢見,降號稱王,下書令群公卿士將牧守宰各降一等。於是其太尉趙公旻等五十三人上疏諫曰:「伏惟陛下勳格皇天,功濟四海,威靈振於殊域,聲教暨于遐方,雖成湯之隆殷基,武王之崇周業,未足比喻。方當廓靖江、吳,告成中嶽,豈宜過垂沖損,違皇天之眷命乎!」興曰:「殷湯、夏禹德冠百王,然猶順守謙沖,未居崇極,況朕寡昧,安可以處之哉!」乃遣旻告於社稷宗廟,大赦,改元弘始。賜孤獨鰥寡栗帛有差,年七十已上加衣杖。始平太守周班、槐里令李青彡皆以黷貨誅,於是郡國肅然矣。洛陽既陷,自淮、漢已北諸城,多請降送任。


興は將の鎮東の楊佛嵩を遣りて洛陽を攻陷せしむ。郡國を班命し、百姓の荒に因りて自ら賣りて奴婢為る者を悉く免じ良人と為す。興は日月の薄蝕し、災眚の屢しば見えらるを以て降號し王を稱し、書を下し群公卿士將牧守宰に令し各おの一等を降ぜしめんとす。是に於いて其の太尉・趙公の旻ら五十三人は上疏して諫めて曰く:「伏して惟う、陛下が勳は皇天に格し功は四海を濟う、威は殊域に靈振し、聲は遐方を教暨す。成湯の殷の基の隆、武王の周業の崇たりと雖ど、未だ比喻せるに足らず。方に當に江、吳を廓靖し、中嶽を告成し、豈に宜しく沖損を過垂し、皇天の眷命に違わんか!」と。興は曰く:「殷湯、夏禹が德は百王に冠ぜど、然して猶おも順守謙沖し、未だ崇極に居せず。況や朕が寡昧にて、安んぞを以て之に處したるべからんか!」と。乃ち旻を遣りて社稷宗廟に告がしめ、大赦し、弘始と改元す。孤獨鰥寡栗帛を賜うに差有り、年七十已上に衣杖を加す。始平太守の周班、槐里令の李青彡は皆な黷貨を以て誅され、是に於いて郡國は肅然とす。洛陽は既に陷ち、淮、漢より已北の諸城の多きは降を請いて任を送る。


(晋書117-11_王度)




この辺の姚興の王としてのカッチョ良さ異常過ぎませんかね……。

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