姚萇20 姚興デビューす 

病状がやや回復してきた、姚萇ようちょう

一度ここで本陣に詰めていた

兵士らの再編を図った。

これまで家族もろとも

本陣周りに詰めていた者たちを解散、

もと住んでいた一族のもとに返した。



苻登ふとう戦線では、大きな動きがあった。

苻登サイドの大幹部とすら呼べる武将、

竇衝とうしょうが、ついに苻登より離反。


苻登を討ち果たす、

またとないチャンスの到来である。

やつを倒すぞ、号令をかける姚萇。

そこに尹緯いんいが進み出て、言う。


姚興ようこう様のその器の大きさは、

 すでに誰もが知るところ。

 しかし英雄の資質をも

 兼ねておられることを、

 未だ多くのものは知りません。


 此度の戦いには、姚興様おんみずからに

 お出ましいただき、英雄姚興ここにありを

 大いに知らしめるべきでありましょう」


なるほど、もっともだ。

姚萇はこの進言に従い、

姚興に司令を言い渡す。


「苻登がお前の接近に感づいたところで、

 すぐに進軍先を胡空堡こくうほに切り替えろ。

 そして、速やかに包囲しろ。


 そうすれば、まず苻登を破れるだろう」


姚興、その言葉通り、一旦動き出したあと、

苻登に勘付かれたのを見計らい、

胡空堡に急行。


苻登と対峙していた竇衝は布陣を緩め、

苻登が胡空堡に向かえるよう仕向ける。


この苻登の動きを逆手に取り、

姚興は平涼へいりょうを強襲。

奴隷、兵糧、武器防具などを獲得した。

すべてが姚萇の見立て通りであった。


姚興が帰還すると、姚萇は

長安ちょうあんの守りを姚興に任せるのだった。




萇下書,兵吏從征伐,戶在大營者,世世復其家,無所豫。苻登與竇沖相持,萇議擊之,尹緯言於萇曰:「太子純厚之稱,著于遐邇,將領英略,未為遠近所知。宜遣太子親行,可以漸廣威武,防窺窬之原。」萇從之,戎興曰:「賊徒知汝轉近,必相驅入堡,聚而掩之,無不克矣。」比至胡空堡,沖圍自解。登聞興向胡空堡,引還,興因襲平涼,大獲而歸,咸如萇策。使興還鎮長安。


萇は書を下し、兵吏の征伐に從い、戶の大營に在りたる者は世よ其の家に復し、豫る所無からしむ。苻登と竇沖の相い持せるに、萇は之を擊たんと議さば、尹緯は萇に言いて曰く:「太子の純厚の稱、遐邇に著わなり。將に英略を領せんとせるも、未だ遠近に知らる所為らず。宜しく太子を遣りて親しく行かしめ、以て威武

を漸廣し、窺窬の原を防ぎたるべし」と。萇は之に從い、興に戎して曰く:「賊徒の汝が轉近せるを知らば、必ず相い驅りて堡に入り、聚め之を掩ざば、克せざる無かりき」と。比にて胡空堡に至り、沖が圍みを自ら解く。登は興の胡空堡に向えるを聞き、引還せば、興は因りて平涼を襲い、大いに獲て歸す。咸な萇が策の如し。興をして還じ長安に鎮ぜしむ。


(晋書116-20_識鑒)




苻登伝を読むと、これより前に姚萇の別働隊が散々に苻登軍のケツの穴掘りまくっている様子が描かれています。もうなにがなんだか分かんなくなっちゃってたんでしょうね、当時の苻登さん。そりゃまあまわりから愛想つかされても仕方ないわな。


とはいえ、一番恐ろしいのはやっぱり、苻登さんをノイローゼに陥れた姚萇の手腕でしょう。マジでこの人怖い……。

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