苻登8  慟哭合戦    

苻登ふとうが一時寄寓した胡空こくうの砦には、

長安ちょうあん周辺から苻登を頼って帰順するものが

十万人以上押し寄せた。


一方の姚萇ようちょうは配下将の姚方成ようほうせい

徐嵩じょこうが守る砦に向かわせ、攻め落とす。

徐嵩は殺され、兵士らは穴埋めにされた。


苻登は兵士を率いて朝那ちょうなに陣を布く。

対する姚萇は武都ぶとにて待ち構える。

幾度かの戦いで、その結果は

勝ったり負けたり、と言った装い。


だが、戦況は苻登が不利。

というのも頼ってくる人々の数が多く、

兵糧にに事欠くようになったのだ。

ついには桑の花、おそらく普段では

食用には到底向かないものまで

兵士らに食事として出すようになった。


この頃苻丕ふひの息子、苻懿ふいが死亡。

そのため苻登は息子の苻崇ふすうを皇太子に、

苻弁ふべん南安なんあん王に、苻尚ふしょう北海ほっかい王にした。

しかたがないので。しかたがないので。


決着を諦めた姚萇は安定あんていに撤収。

苻登は新平しんぺいに進んで拠点とし、

十万余の新規軍勢は胡空の砦に残し、

一万余の騎兵隊で姚萇の陣を包囲。


ついに姚萇を追い詰めた。

ここで苻登、苻堅ふけんを殺した姚萇に対し

周囲から慟哭を浴びせてやる。

これを聞いた姚萇軍内の動揺は

あなどれないものだった。


が、姚萇。ここで奇策に打って出る。

なんと、自軍にも慟哭をさせたのだ。


謎の慟哭合戦。よくわからない。

気味が悪くなったのか、

苻登は包囲を解き、撤収した。




登進所胡空堡,戎夏歸之者十有餘萬。姚萇遣其將軍姚方成攻陷徐嵩堡,嵩被殺,悉坑戎士。登率眾下隴入朝那,姚萇據武都相持,累戰互有勝負。登軍中大饑,收葚以供兵士。立其子崇為皇太子,弁為南安王,尚為北海王。姚萇退還安定。登就食新平,留其大軍于胡空堡,率騎萬餘圍萇營,四面大哭,哀聲動人。萇惡之,乃命三軍哭以應登,登乃引退。


登が進みたる所の胡空が堡にては、戎夏の之に歸せる者が十有餘萬たり。姚萇は其の將軍の姚方成を遣り徐嵩が堡を攻陷せしめ、、嵩は殺さるを被らば、悉く戎士は坑とさる。登は眾を率い隴を下り朝那に入り、姚萇は武都に據し相い持し、戰を累ね互いに勝負有り。登が軍中は大いに饑え、葚を收め以て兵士に供す。其の子の崇を立て皇太子と為し、弁を南安王と為し、尚を北海王と為す。姚萇は退きて安定に還ず。登は新平に就食し、其の大軍を胡空が堡に留め、騎萬餘を率い萇が營を圍まば、四面にて大いに哭し、哀聲は人を動かす。萇は之を惡み、乃ち三軍に命じ哭を以て登に應ざば、登は乃ち引退す。


(晋書115-19_仇隟)




いやちょっと意味が分かんないですね?


苻登が「苻堅様を殺されてオレは悔しい! 悲しい!」と主張したところに、姚萇が「なにおーふざくんな! オレだってめっちゃ悲しいわ!」って返した感じでしょうか。いや殺したのお前さんやん。


以下十六国春秋に記載されてる追加情報です。


・姚方成、徐嵩を味方に引き入れようとしたが、口汚く罵られたのでムカついて殺し、穴埋めにした兵士らの妻子については部下への褒美にしたそーです(數之嵩罵不絕口方成怒斬之悉坑戎士以妻子賞軍)。うーん蛮族!


・苻懿死亡は十六国春秋に書かれている情報(太弟懿卒謚曰獻哀)。いや一応書こうよこう言うこと?


・この頃の情勢は明らかに苻登に分があったらしく、十万余の軍勢というのは義ではなく情勢に賭けたものであったらしい、ということ(至是各解圍歸關西豪傑以萇久無成功多來附登)。そうすると苻登がここで包囲解いちゃったのって割と致命的な判断のような気もしないではない、のだけれども。まぁ包囲を解かざるを得ない事情が起こったと考えるのが妥当なんでしょう。


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