苻丕9 苻登立つ
西部戦線の話の続きである。
だが
と考えていた。
とはいえその勢力は強大であり、
うかつに退いてほしい、などといえば
どうなるか分かったものではない。
日が経っても、誰も決意できずにいた。
立ち上がったのが、
彼は諸将に向けて言う。
「我々はどの大義のもと、姚萇を
倒そうとしているのだ?
いつまでもウジウジと
迷っている場合ではないだろう!
ひとたび動き出せば
所詮人を殺めねばならんのだ。
ならば、決意をするしかなかろう!
諸侯らは、ただ衛平殿の前に赴かれよ!
そうしたら、この俺が、諸将の前で
声を上げて差し上げよう!」
人々は啖青の言葉を受け入れた。
そして人々が集まって盛大に
宴会を催す中、すっくと立つ啖青、
剣を抜き、高らかに、叫ぶ。
「今、天下は大いに乱れ、
卑劣なる狼どもは
我らが進むべき道を妨げている!
ここにいらっしゃる皆々様も
お考えのことであろう!
この窮地、賢主でなくば
打開し得まい、と!
その点衛公は、大事をなすには
いささか老いてしまわれた!
あるいは背き、あるいは服する!
のらりくらりとしておるのは、
決して賢きふるまいとはいえまい!
対して、狄道をすべられるお方、
かれは王室の傍流とはいえ、
大いなる志をいだいておられる!
我らは彼を立て、
馳せ参じるべきなのだ!
さて、おのおのがた!
俺に異議あるのであれば、
速やかに名乗り出られよ!」
名乗り挙げられよ、などと言いながら、
思い切り剣を振り回すわけである。
自分の意に沿わないものは
斬り殺しかねない勢い。
誰もがうつむき、声を上げずにいた。
こうして旧毛興系勢力は苻登を推戴し、
苻丕のもとで戦う旨を伝える
使者を飛ばした。
苻丕もその名乗りに応じ、
苻登を征西大將軍、開府儀同三司、
南安王、持節及州郡督とする。
合わせて、
枹罕諸氐以衛平年老,不可以成事業,議廢之,而憚其宗強,連日不決。氐有啖青者,謂諸將曰:「大事宜定,東討姚萇,不可沈吟猶豫。一旦事發,反為人害。諸軍但請衛公會儲眾將,青為諸軍決之。」眾以為然。於是大饗諸將,青抽劍而前曰:「今天下大亂,豺狼塞路,吾曹今日可謂休戚是同,非賢明之主莫可濟艱難也。衛公朽耄,不足以成大事,宜反初服,以避賢路,狄道長苻登雖王室疏屬,而志略雄明,請共立之,以赴大駕。諸君若有不同者,便下異議。」乃奮劍攘袂,將斬貳己者,眾皆從之,莫敢仰視。於是推登為帥,遣使於丕請命。丕以登為征西大將軍、開府儀同三司、南安王、持節及州郡督因其所稱而授之。又以徐義為右丞相。
枹罕の諸氐は衛平の年老なるを以て、以て事業を成したるべからざるとし、之を廢さんと議せど、其の宗の強きを憚り、連日決さず。氐に啖青なる者有り、諸將に謂いて曰く:「大事を宜しく定め、東に姚萇を討たんとせるに、沈吟猶豫したるべからず。一旦事の發さるに、反りて人の害と為らん。諸軍は但だ衛公に請いて眾將に會儲し、青は諸軍に之を決さんと為さん」と。眾は以て然りと為す。是に於いて諸將は大饗し、青は劍を抽きて前みて曰く:「今、天下は大いに亂れ、豺狼は路を塞ぎ、吾曹は今日、休戚も是れ同じきと謂いたらん、賢明の主に非ざらば艱難を濟たるべく莫かりたるなり、と。衛公は朽耄し、以て大事を成すに足らざらば、宜しく初に服せるに反き、以て賢路を避け、狄道の長の苻登は王室の疏屬たりと雖ど、志略雄明なれば、請うて共に之を立ち、以て大駕に赴かん。諸君に若し同じからざる者有らば、便ち異議を下したるべし」と。乃ち劍を奮いて攘袂し、將に己に貳かんとせる者を斬らんとせば、眾は皆な之に從い、敢えて仰ぎ視る莫し。是に於いて登を推して帥と為し、使を丕に遣りて命を請ぜしむ。丕は登を以て征西大將軍、開府儀同三司、南安王、持節及州郡督と為し、因りて其の稱せる所を之に授く。又た徐義を以て右丞相と為す。
(晋書115-9_仇隟)
この感じだと苻登、苻氏の中でもそんなに目立ってなかったけど、その腕っ節だ指揮力だで周りの奴らを黙り込ませた感じでしょうか。あるいは長安周辺に残る苻氏が苻登くらいしかいなかった? やや後者の気配を感じずにいられないわけですが。
なお十六国春秋によれば、ここで衛平は殺されています。いや書いてあげようよそこはさぁ……。
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