第27話 追憶

 私は10代の頃、一度だけ妊娠したことがあった。誰にも言えなくて、ずっと一人で抱えていた。

 「私はこの人と生きていくんだ」

そう決めて、この子のパパに子どものことを伝えた。狼狽する彼の顔を今でも時折思い出す。

 (この人は、私のことを愛していない)

直感でそう悟った。ただただ悲しくて、ただただ寂しくて、私、布団にくるまって朝が来るまで泣き続けたんだ。

 女手ひとつで育ててくれた母に心配をかけたくないと、伝えることもできず、時間だけが過ぎていく日々だった。

 そのうち、お腹も大きくなって周囲に気づかれやしないかとヒヤヒヤしていた。でも、本当は気づいてほしかったのかもしれない。私、一人で抱えていく自信なんてなかったから。

 そんなとき、パパと出会った。頼りないパパだけど、私の変化に一番に気づいたのはパパだった。

 口数の多くないパパだから、私の話を黙って聞いてくれた。私の不安を受け止めてくれた。

 お腹の赤ちゃんに罪はない。でも、あんな男の子どもを産みたくない。私の中に天使と悪魔がいて、行ったり来たりする。私、母親になる資格なんてないよ。

 そうつぶやく私を、ただ受け止めてくれたのはパパだった。

 そんなある日、事件が起こった。急激な痛み。出血。パパは私を車に乗せて、病院まで走らせてくれた。でも、神様は冷酷だった。

 空っぽになったお腹に手を当てて、病院のベッドで一晩中泣き続けた。

 その傍らで一緒になって泣き続けてくれたのはパパだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る