私が何度も見る夢のお話。

橘はいで

水の立方体

私は今、水に満たされた巨大な立方体の中にいる。

なぜ立方体の中にいると知っているのか、何をしていたのか、何のためにここにいるのか、さっぱり思い出せない。初めて来たような気がするのに、生まれた時から知っているような温かく包まれる懐かしさも感じる。

私はこの中では呼吸の不自由さも感じず、何の不便さを抱くこともないようだった。

確かいつかは、二本の足で地面に立って、上から重い力を浴びながら生きていたような気がするのに、まるで前世のことのようにぼんやりとしか思い出せないでいる。その記憶はあまりにもふやけた輪郭で私の脳の隅っこに鎮座していた。

無彩色のその立方体の中では、私の喉から溢れる空気の玉のコポコポというこそばゆい音以外には何も聞こえてこなかった。

私の体はうすぼんやりと残る記憶の通り、黒く長い髪、何の変哲もない胴体と四肢で出来ているようだ。

腹と背に力を入れて下半身を波打たせる。そのうねりによって、揃えた両足が水を押し出して推進力を得る。そうして私はするりと箱の上部にたどり着いた。誰に教わらずとも、この中を移動するための体の使い方を知っていることに、我ながら驚きを覚える。

たどり着いた場所でそっと手を伸ばすと、硬く冷たいこの箱の終わりがあるようだった。何か見えるかと目を凝らしてみるが、水の中のぼやけた視界では何を捉えることも叶わない。ただ薄明るいということだけが分かった。

上へ上へと思いながら進んできたその場所からは特に沈むことも流されることもなく留まり続けるようだった。(厳密にはどちらが上で下なのかもよくわからなかったのだが。)

次は横へ横へと思いながら、先ほどと同じように体をくねらせて端を目指す。動き出して間もなく、その場所へたどり着いた。硬い壁のようなところに耳を押し当てるも、やはり自分から溢れては消えていく白く丸い玉が弾ける音しか聞こえない。

しばらくの間、端やら角やらを確認して回って気付いたことがある。

この箱の中ではほとんど何も見えない、何も聞こえないにも関わらず、私は一度も体をぶつけることがなかったのだ。

もしかすると私はとんでもなく長い時間をここで過ごしていたのかもしれない。目も耳も使わなくとも、感覚だけでこの箱の隅を捉えることができる程に。

ならばきっと、生きているとも死んでいるとも分からないこのまま、退屈だけを友人として永遠の時間を過ごし続けるのだろうか。得体の知れない感情を抱いて茫然と水の中を漂い続けた。

それからどれほどの時間が経ったのか。

突然、立方体の周囲が光に包まれた。あまりにも白く鋭い凶器のような光だった。

退屈を手放してこれから訪れる変化に心を躍らせていると、光に突き破られるかのようにして立方体が砕け散った。一瞬の出来事だった。

私の体も、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた水も、何もかもが散り散りになって白い光の中に溶けていく。

痛みもない。苦しみも、何も。

すると、もうどこへ行ってしまったかわからない私の耳につんざくような高音が流れ込む。うるさい。うるさいうるさいうるさい。

ああ、私の体を溶かした白い光が消えていく。その中で私は意識と重力を手に取った。

ゆっくり目をあけると、カーテンの隙間からまっすぐ、スポットライトのような光が私を照らしていた。

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