現代日本はウィルスに負けて崩壊してしまいました
駆威命『かけい みこと』(元・駆逐ライフ
2022年10月
「なんだよ……これ……」
テレビ画面に映し出されていたのは、一面の赤だった。
先ほどまでは、確かに人が映っていたのに。
それは、感染爆発が起きている東京から歩いて地方に逃げようとしている人々の様子をテレビカメラが映している、なんの変哲もない普通のニュースだった……はずだ。
しかし今映し出されているのは、トラックに轢きつぶされ、撥ねとばされ、壊れてバラバラになってしまったマネキンの様に体がぶつぎりにされた人間の死体。
あまりにも突然に起きたこの地獄を前にして、放送局やカメラマンは思考停止してしまっているのだろう。
映像を切り替えることすらしていなかった。
『戻って来るぞ!』
恐らくレポーターのものだろうと思しき悲鳴があがる。
その言葉を肯定するかのように、トラクターのあげる咆哮がだんだんと近づいてきていた。
『逃げろ逃げろ逃げろ!』
『馬鹿、カメラ捨てろ! 邪魔だ!』
『押すんじゃねぇっ!!』
映像が四方八方に跳ね回り、やがて一際大きく揺れ動いたところで停止する。
恐らくは言われた通りにカメラ本体を投げ捨てたのだろう。
そのカメラはちょうど猛スピードで迫りくる、血まみれのトラックを正面から映し出していた。
迫りくるトラックのフロントガラスは血とヒビで運転手の姿を覆い隠してしまっている。
いったい何人の命を奪ったのだろう。
いや、何十人だろうか。
確実に片手ではおさまらないだけの命を奪っておきながら、まだ足りないとばかりにカメラへと迫って来て――。
その後の報道によれば、死者32名、負傷者は数えきれないほど出たという。
そんな大事件を引き起こした男は、テレビに向かってこう言い放っていた。
『あいつらが悪いんだ! 死病を振りまく連中だぞ!? あいつらを殺さなけりゃ俺や俺の家族が病気で殺されてたんだ! 正当防衛だ! 俺は悪くない、あいつらが悪いんだ!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます