私の敵

絶耐糖度

私の敵

 映像に映っているお母さんは、血まみれでした。

 

 〜

 

 私があの子に残したのは──

 

 〜

 

 私が、娘に託したものは──

 

 〜


 映像が途切れてからしばらく黙っていた私に、榊さんが話しかけてきました。

 

 「希望ちゃん、実はお話しなくてはならないことがあります。」

 

 突然、榊さんが深刻な顔で言いました。

 

 「どうしたの?顔が怖いよ?」


 なんなのでしょうか、この胸のざわつきは。なにか良くないことが起こっている、そんな予感がします。


 「本当はもう少し後で、言おうと思ってたのですが、この映像を見られたからには今伝えるしかありません。」

 

 「え、ちょっと、榊さん?何言ってるの?」


 「あなたのお母さんは、ある組織によって殺害されました。それから先輩は、あなたのお父さんは、これからその組織と戦おうとしています。お母さんの仇をとるために、組織と戦い命を散らす気で、先日あなたに最後の別れを伝えに地上に来たんです。」


 なによそれ、信じられるわけがないじゃないですか。お母さんからの暗号を解いて何があるのか楽しみにしていたら、急に現れた映像のお母さんは傷だらけで、研究施設を壊してといわれました。

 

 「ちょっとまって、なにいってるの?この前はお母さんの死因は何もわからないっていってたじゃない!それにお父さんが仇をとるために組織と戦う?どうしてそれを信じられるというのよ。」


 「落ち着いてください、希望ちゃん。まだお話は終わっていません。わたしはご両親からあなたを守るように言われています。安心して──」


 もう耐えられない。いきなりそんなこと言われたって、私は......。


 「何をどう安心したらいいのよ!だって、それじゃあ、私のお母さんはよくわからない人たちに、いきなり殺されてお父さんはそいつらを倒しに行って、じゃあ私は一人残されたっていうの?そんなの、......。」


 「.......。希望ちゃん、もう一つの話というのはですね、実は組織というものは存在しません、ということです。生前、あなたのお母さんが研究していたものは何か知っていますか?」


 私のお母さんは存在しない組織とやらに殺されたんですって。それにお父さんはそのいない敵を倒しにまた宇宙に行ってしまいました。榊さんは何か隠しています。今だって、なんでそんな重要なことを知っていて今まで隠す必要があったのでしょう。


 「お母さんは、宇宙開発の為の機械を作っているって聞いたわ。お父さんがいつも話してくれたの。お母さんはすごいんだぞって、天才な数学者で、この宇宙の歴史を変えるほどのものを、今作っているって、お父さんはいつも自慢げに聞かせてくれて。でも....。」

 

 「そうです、希望ちゃんの推測通り、全てうそです。残酷なことですが、しっかり聞いてください。」


 そのあと、榊さんの口から出た言葉は、信じがたくも信じなければならない物でした。


 「希さん、あなたのお母さんは、先輩に操られていたんです。────」


 ~


 榊さんは、顔をしかめながら話してくれました。榊さんが尊敬していた私のお父さんは、ずっと悪いことをしていました。榊さんは、お母さんと同じく脅されて逆らえなかったようです。


 お母さんは、お父さんに操作されながらも自我を持ち続け、反乱する機会をうかがっていたそうです。でも、気づかれた。だからお父さんの部下に口封じを受けたんです。


 でも、それならなぜ、私にメッセージを飛ばすことは止められなかったのか気になります。お母さんは、お父さんに作らされていた機械を、研究室ごと私に壊してとたのんだのに。


 お父さんが、私にこれを伝えるためにわざと見逃したような違和感を、私は感じました。


 ~


 「はぁ、これで大体は終わりましたかね。希望ちゃん。...?」


 「ねえ、榊さん。これ。」


 私は研究室の機械を壊しました。お母さんに言われたとおりに。その床に、物置の扉を見つけ、開けてみました。全ての研究資料を破壊し、捨てるために。すると、中にあったのは何かの説明書と、周りの機械とは違い滑かなデザインをした...。


 「これ、他のとは特徴が違う。お母さんが作りたくて作ったものよ、私にはわかるわ。」


 「見せていただけますか?」


 「はい。でもそれ、なんか銃みたいだよね。こっちにはエネルギー缶みたいなのもあるし。」


 暫くそれを観察して、いろいろ触っていた榊さんが、うなずいた。


 「そうですね。これは銃だと思います。」

 

 「なんでこんなところに、それもお母さんが意図して作ったの?お父さんと戦うために?」


 「どうでしょうか。あの希さんが、自分で戦えるとはあまり思えませんが。」


 お母さんは私と違って、運動は出来ません。私はあまり動かない割に運動能力が高く、よくお父さんに褒められました。


 「若しくは、あなたに、戦ってもらうために。ですかね。」


 「でもお母さん、映像ではお父さんにそんなことされてるなんて話してなかった。誰かわからないけど、命を狙われているって。」


 「希望ちゃんに悟らせないために思えますね。たしかにそれならあなたに戦わせようという意思はない。ですが、見つけてしまったからには、壊すか使うか、それしかありませんね。」


 榊さんがなぜか笑みを浮かべる。


 「ねえ、榊さん。でも、お母さんは、悪い人じゃないんだよね。殺されるようなことはしてないんだよね。お父さんにうまく使われて、最後には捨てられた。組織はお父さんの仲間で、榊さんはお父さんの計画を知って言る。私には、お母さんの残した、この銃がある。私はお父さんを、悪い人たちを止めて、ここと、お母さんの名誉を守る!」


 がっ、!


 「え?」


 そんなことってありますか。初めから、いろいろあっててんてこまいだったけど、最後の最後にこんな......。私が戦うべきは。一番の敵は。

 

 「本当に悪い人は、わたしなんですよ、希望ちゃん。ごめんなさい。ですがもう、隠し事はなくなりました。あなたは宇宙へは行かせませんし、誰とも戦うことはできません。」


 あ、立たなくちゃいけないのに。もっとよく聞かなきゃいけないのに。意識が、かすれる......。


 「まって...、榊さんが、それなら私のお母さんとお父さんは......。」


 

 暗い部屋にノイズが乗った声が響く。聞き取りにくい。


 「こちら***、任務完了しまシた。早急に、***へ伝えてください。わたしが直接、そちらへ連れていきます。オーバー。」


 「.................................................。」


 

 「待っていてくださいね。希望ちゃん。すぐに、わたしが......。」


 小さくつぶやかれたその声は、誰にも聞こえなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の敵 絶耐糖度 @AbsSugar-C

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ