29.アークサンド攻防戦?
「たっだいまー、 ほへー凄い部屋だねー」
「おかえりなさいカロンちゃん。無事で安心したわ。大丈夫?疲れてない?」
「お姉ちゃんありがと。大丈夫だったし中々楽しかったよ」
「そう、それは良かったわ」
「カロンおかえり。どうじゃった?」
「うん、もう大丈夫かな」
「そうかご苦労じゃったの」
夕食前にカロンは帰ってきた。
1人でいることが辛くなったアーティアはジジの部屋を訪ねていた。
そしてジジの旅の疲れを癒やすべく、足のマッサージをしていたところだ。
非力な上、マッサージの経験のないアーティアのマッサージは気持ち良さとは無縁だったが、ジジにはそんなことは関係ない。
本気で疲労回復を望むならアーティアの光系魔法でいくらでも回復できる。
実際アーティアが今回の旅についてこれたのも自身の光系魔法があればこそだった。
乙女に足をさすって貰える。
それだけでジジは大満足なのである。
「てめぇジジイ、お姉ちゃんになにさせてるのさ」
状況を理解したカロンが大激怒した。
ジジはベッドに寝っ転がり、ふくらはぎをアーティアにマッサージしてもらっている。
アーティアからは死角になり見えないのだがジジのメガネが光源不明の謎の光による反射で光っている。
カロンからみた視点でジジィがエロい想像をしているのは間違い無かった。
「カロンちゃん有難う。でもいいのよ。ジジ様に何か日頃の感謝を示したくて」
「そ、そうじゃぞカロン」
「むー、お姉ちゃんがそう言うなら」
カロンが渋々ながら納得した様子。
ジジは内心ホッと胸を撫で下ろした。
一方のアーティアは冒頭の二人の会話が気になったがカロンの激怒でそれどころでは無くなり聞きそびれてしまった。
◇◆◇
豪華な夕食がジジの部屋に運ばれてきた。3人ともジジの部屋にいたので運ばれてきたのは3人分。
宿側で気を遣ってくれたのだろう。
豪華な食事の後、アーティアとカロンは自分たちの部屋に戻った。
さて、これからが勝負だとジジは自分に言い聞かせる。
この部屋の隣の部屋がアーティアとカロンの部屋になっている。
しかしここも向こうもロイヤルスイートルーム。
この様な部屋は魔法による盗聴や覗き見対策がきっちりと取られている。
貴族、王族達はこのような場所で密談する事も多いからだ。
そういった対策もジジから見れば児戯に等しい。
ちょいちょいと部屋に施された結界をすり抜け隣の部屋との情報伝達ラインを構築していく。
(完璧じゃ、隣の部屋の風呂もこの部屋と変わりあるまい。ならバスルームを出て直ぐに置かれた姿見をアーティアも見るじゃろうて。ぐふふふふ)
今回も性懲りもなくジジは覗き見をしようとしている。
しかし今回のジジは一味違った。
今回のターゲットは入浴シーンでは無い。
今回はぐっと抑えて?湯上がり後の脱衣所に狙いを定めたのだ。
アーティアは自分の顔を見たがらない。
呪われた自分を再認識してしまうから。
でもしかし、姿見はどうだろうか。
ジジはアーティアが体型の維持に気を遣っていることを知っていた。
ならば、湯上がりの一糸纏わぬ姿を確認するに違いない、そう結論づけた。
ジジは急ぎ隣の部屋の脱衣所に置かれた姿見にリンクする。
その姿身の正面に写ったものがそのままジジの持つ水晶に映されるようにしたのだ。
(さすがのカロンも姿見は撤去しまいて。乙女には必要なアイテムじゃからのう。ぐふふふふ)
今日の覗きに、全神経を集中する。
ジジは今度こそ成功すると確信したのだった。
◇◆◇
「お姉ちゃん、とりあえずお風呂にしようよ。 シーツ汚しちゃうのもなんだしさ」
「そうね。そうしましょう」
カロンは先ず身を清めたいと言った。
てっきりベッドに即ダイブすると思ったけどなんだかんだでカロンちゃんも女の子なのね、とアーティアは思う。
カロンといるとアーティアは自分の顔に掛けられた呪いを忘れることができる。
カロンはアーティアを変に気遣うこと無く、無邪気に甘えてくれる。
それはアーティアにとってとても大きな救いだったのだ。
・
・
・
「お姉ちゃん相変わらずスタイルいいなー羨ましい」
「カロンちゃんはこれからよ」
「そうだといいだけどねー」
カロンとアーティアは豪華な入浴を楽しんだ。
さすがロイヤルスイート、バスタブは大人5人が入れる広さがある。
お湯は蛇口にあるレバーを倒すだけで出てくるのだ。
勿論魔力制御でお湯を出す事もどちらにも対応している。
アーティアには魔力制御の方が楽だったので制御球に触れて水量と温度を調整したのだった。
さて、今、シーンは入浴後の脱衣所。
ジジの待ちに待ったシーンだ。
二人は水気を拭き取ってバスタオルを体に巻いていたのだが、
アーティアは姿見の前に立つとバスタオルを外し、一糸纏わぬ姿になった。
体型チェックのためである。
そして先程のカロンの台詞に繋がるのだが。
今後こそ、ジジの野望は達成されてしまったのだろうか……
◇◆◇
ジジの部屋に戻る。
ジジは…
またも真っ白に燃え尽きて、机に突っ伏していた。
ジジの前に置かれた水晶は確かに隣の部屋の脱衣所に置かれた姿見の正面の映像を写している。
しかし水晶に写っているのは黒一色。
そう、真っ黒な闇を写しているである。
こうなったのには勿論理由があるので、少々時を遡ろう。
・
・
・
「アーティア様、カロン様」
アーティアがジジの部屋に訪れた時、確かに隣の部屋はアーティアとカロンの部屋だった。
夕食後、部屋に戻ろうと廊下に出た2人は、ジジの部屋の扉を閉め、部屋に向かおうとして彼女達の部屋のドアの前に立つ宿の従業員に気づく。
従業員は2人が自分に気づくのを待ってから2人に話しかけた。
ここはロイヤルスイートの部屋が並ぶエリア。
ジジのいる室内に廊下で交わされた会話が届くことは無い。
更にジジは隣の部屋への魔術的侵入を試み始めた所なので意識は当然廊下には向いていなかった。
だからジジが廊下での会話に気づくはずも無いのだった。
「実はこちらの手違いで浴室設備が故障中の部屋をご案内してしまいました。誠に申し訳ありませんでした」
授業員はそう言って深々と頭を下げる。
「そうなのですね。頭を上げて下さい。別に気ならずに、この様な部屋を使わせて頂けるだけで十分です」
「寛大なお言葉ありがとうございます。しかしそのままという訳には参りません。別の部屋をご用意してありますのでご案内致します」
「あ、そうだ。かっこいいお兄さん。一つ頼まれてよ」
「なんで御座いましょう」
カロンは手招きして、従業員を屈ませると耳もとにゴニョゴニョとアーティアに聞こえないよう頼み事をした。
「カロンちゃんどうしたの?」
「えへへ。ちょっとね」
「お伺いしたとおりに致します」
「うん。頼んだよ」
「では、先に新しい部屋をご案内致します」
こうしてアーティアとカロンは更に隣の部屋に移動したのだった。
そんな事になっているとは知らずにワクワクしながら水晶に映る映像を凝視しているジジ。
(グフフ、なかなか焦らすのう)
そんなジジの期待に応えて姿見の前に立ったのは……
宿の従業員だった。
従業員は姿見の正面に姿勢正しく立つと何かを言った。
ジジは音声までは拾っていないので実際に聞こえた訳では無いが、読唇術でその内容が判ってしまった。
そして従業員とても美しくお辞儀をした。
お辞儀をした後、従業員は姿見の前から立ち去ったのだが、その際に魔力調光式の脱衣所照明を落としたのだった。
かくして水晶の映像は黒一色となった。
今回もやはりジジは真っ白に燃え尽きた。
その最大の理由は従業員の言葉にあった。
彼がカロンの頼みを忠実に守り、姿見に向かって言ったのは『ジジイ様 残念で御座いました』だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます