小さな出来事

今村広樹

本編

 その小さな出来事がパーマストン・パークで起こった年のニューラグーン市は、異常気象の影響からか、恐ろしく肌寒かった。

 最高気温が25度を越えること自体まれで、いわゆる真夏日などまず越えることはなかったのである。

 天気にあわせて人も行動が異常になったのか、その年はニューラグーン市で大小さまざまな事件が起こっている。

 いくつか挙げると

『ニューラグーン市長、長年にわたって行われていた贈収賄疑惑で辞任』

『街の名物おじさん、またの名をニューラグーン皇帝氏登場』

『動物園に、ナンキョクグマのタータンが来た!』

 といった具合にである。


 さて、ニューラグーン市の郊外には元々貴族や一代で財をなした成金の別荘が点在しているのだが、その中に冒頭で名前だけ出したパーマストン・パークというお屋敷があった。

 元々は、チャーモンド家という旧家の別荘だったのだが、現在ではその親戚筋のガルドというお大尽が買い取って、ニューラグーンに来る際の別宅やゲストハウスとして使っている。

 また、その由緒ふるさのわりに、プライバシー保護などの観点でもいいところらしい。つまりは、いろいろ隠し事が出来る、ということである。今回の話もをぼかしているので、なんか察してほしい。

「さて」

と、膝小僧をパン、パンと叩くのはビリーという庭師ガーデナーでパーマストン・パークの庭園をほぼ一人で管理している。それほど広い訳ではない庭園なので、ビリーは庭園に咲くバラやヒマワリ、ライラックと言った花を丁寧に育てたり、キュウリやカボチャを育てるうちにパーマストン・パークの名物の1つになったりしている。

「うん?」

 さて話を戻すと、パーマストン・パークのゲストハウスの方が騒がしいので、ビリーはそちらを見る。

「なんか、うるさいなあ……」

と、しばらくして、ラディスローがこちらにやってきた。彼は、パーマストン・パークのオーナーから管理を任されている侍従フッドマンである。

「よう、どうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもありませんよ、泥棒が出てゲストの皆様が大騒ぎなのです」

「なんだい、そんなことか?」

「そんなことじゃないです……」

と、ラディスローは話始めた。

 話によると、さる夫人の大事な手紙が盗まれたという。確かに、部屋のテーブルに置いたのに、なくなったと。犯人もわかっていて、留守中に室内にいた旦那であると夫人は訴えていたが、旦那は旦那でふざけるなと大喧嘩になって、今にいたるという。

「確かに旦那の言う通り部屋にかくすような場所はない。じゃあどこに隠したのかと」

「ふうん、旦那の体は調べたのかい?」

「当たり前です、いの一番に」

「肌着の中も?」

「あっ!」

「まあ、ゲストにそんなことしないとたかをくくってるんだろう。確かに一番の隠し場所だね」

「さっそく調べてみます」


と、言うわけで急転直下、旦那は皆に平謝りをすることになった。

 いわく、夫人の浮気が云々と言い訳していたが、当然のように土下座&その他もろもろ。

 ともあれ、この小さなどんでん返しは、しばらく語り草になったとか。

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小さな出来事 今村広樹 @yono

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