決意

yurihana

第1話

僕のクラスでは、今いじめが起きている。

クラスの一番大人しい女子の佐藤さんがいじめられている。

もちろん、僕はいじめていない。

でも無視をするように言われている。

逆らえば、次は僕がいじめられることは目に見えている。だから僕は今日も傍観者でいるしかない。


現実はこうだ。だが僕はそれで割りきれるような人間じゃなかった。

いじめられているのを見る度に、静止の言葉を飲み込む度に、僕は心を殴られた気持ちになる。

家に帰っても、学校のことを思い出せば自己嫌悪を陥る。

いじめを止める勇気が欲しい。

止めるまででなくても、先生に告発する勇気が欲しい。

僕はいつも失敗したときの不利益を考えてしまう。

しょうがないんだ。みんなもそうしてる。

周りのせいにして、自分の弱さを正当化してしまう。

なんでこんなに弱いんだろう、僕は。


ご飯を食べるために一階へ降りる。

テレビでニュースが流れている。

「○○中学校○○さんが自殺。警察はいじめが原因と考え、捜査をしています……」

事情も知らないアナウンサーが、無感情にニュースを読み上げている。


僕は佐藤さんが自殺をしても、「しょうがない」で済ます気なのだろうか。

そうしたら僕は、学校の立場以上のナニカを失っていることになるんじゃないだろうか。

いや、心から悲しんだとしても、何もしなかった僕は、死んでから悲しむ資格はないんじゃないのか。

もし……もし佐藤さんが死んでしまったら、僕は……。


目を閉じる。様々な思いが脳内を飛び交った。

最悪の状況になってからでは遅い。

決めた。明日、いじめを告発しよう。


僕は朝登校してから、教室に向かわずに職員室を訪れた。

先生にいじめのことを話す。

なかなか信じてもらえなかったが、昔から万が一の時のために撮っておいた証拠の写真を先生に見せると、なんとか信じてもらえた。

先生は佐藤さんを呼んで話をした。

だが、佐藤さんは頑なに「いいえ」と答えた。

その他に色々と調べたが、決定的なものは見つからなかった。

最後に、先生はクラス全体にいじめがあるのかを聞くことにした。

「みんな机に伏せて。ある生徒から、このクラスでいじめがあるというのを聞いた。もしそうなら、手を挙げてくれ」

僕はちらりとクラスを見た。僕以外誰もあげていない。

僕は悔しくて歯を食い縛った。

「みんな顔を挙げてくれ。今の結果を見て、とりあえずこのクラスにはいじめはなかったということに」

「待って!」

僕は思わず立ち上がってしまった。

いじめの主犯達が僕を睨み付ける。きっと明日からは僕が標的だ。

どうせいじめられるなら……!

「なんでみんな黙ってるんだ!

苦しんでいる人がいるのに!」

クラスの反応はない。

「みんなは誰かが自殺してもかまわないのか!」

つい過激な言葉が出てしまった。

クラス中は沈黙に包まれる。

いじめの主犯が口を開いた。

「どうしたんだよー一体。とりあえず落ち着けよ。いじめなんてないんだから。

きっと勘違いしてるんだよ。な?」

「違うよ」

誰かの声が聞こえた。

「私いじめ見たよ」

さっきとは違う声だ。

「そうだ。いじめはあった」

「佐藤さんがいじめられてた」

「うん。そうだよ。僕も見た」

声は段々と増え、クラス中から聞こえるようになった。

僕は驚くと同時に、みんなの勇気を嬉しく感じた。

先生はクラスの反応を見て、佐藤に詳しく話を聞き、いじめ問題は急速に解決へ向かった。



リリリリリリリリリリ

なんだこの音は。目覚まし時計?

じゃあ……もしかして今のは……夢!?

僕は飛び起きた。窓から朝日が差し込んでいる。

そんな……。やっぱり僕は夢でしか勇気を持てないのか?

……いや!

不可能なことを夢見るはずがないんだ!

僕は急いで支度する。


見てろよ。夢を現実にしてやる。

僕は玄関を飛び出した。




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決意 yurihana @maronsuteki123

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