第17話加奈子ちゃん
ーー翌朝。久しぶりに誰とも会わないまま校門に到着した。
いや、久しぶりどころか、こうして静かに登校できるのは初めてのことかもしれない。
私って、本当に騒々しい日々を送ってるのね。
こんなことでいいのだろうか・・・
歩いていると、見たことのある人がいた。
あれ?あの子は・・・
「ごきげんようです、みなさん!今日も一日頑張りましょう!」
この子は確か、水純のクラスメイトの加奈子ちゃん。
朝から元気に挨拶して、たくさんの生徒に囲まれている。
なるほど。水純の言うとおり、人気者だというのは確かみたいね。
加奈子ちゃんの周りに集まった生徒は、みんな一様に笑顔で楽しそうにしている。
いいな、こういうの。水純もこの輪の中に入れたら素敵なのに・・・
「私にはそんな熱い視線送ってくれないのに、やっぱり若い子の方がいいのね」
「え!?」
突然背後から声をかけられた。
振り返ると、麗華さまとみかさんがいた。
「ごきげんよう雅子」
「ご、ごきげんよう・・・雅子」
「麗華さま!それにみかさんまで!」
何故かとっても楽しそうな麗華さまに比べて、ぐったりとしているみかさん。
か、可哀想に。きっとここに来るまでの間、麗華さまの相手をして疲れちゃったんだろうな。
「あら?あなたさっきから何を見てるのかと思えば、あれって加奈子よね?」
「え?加奈子ちゃんをご存知なんですか?」
「ええ、茶道の大家、高柳流家元のお孫さんでしょう?みかも知ってるわよね」
「はい。確かにあの子は加奈子ちゃんですね。私、家元にはお世話になりましたから、間違いないと思います」
「そうなんですか、茶道の家元の・・・」
加奈子ちゃん、あんまりお淑やかな印象じゃなかったけど、実家が茶道なんてやってるんだ。
ちょっと意外だな。
でも・・・それ以上にみかさんが家元のお世話になってた方が意外だった。
普段がさつだからそうは見えないけど、茶道なんて習ってたんだ。
やっぱり、お嬢様なんだな・・・
「なに見てるのかしら?」
「えっ!す、すみません。別に変なことはーー」
「違うわよ。加奈子ちゃん」
「え・・・」
みかさんに指摘され、加奈子ちゃんを見ると・・・
「むぅ〜ッ!」
何故か、加奈子ちゃんが私を睨んでいた。
「ふんっ!」
加奈子ちゃんは怒ってるような態度のまま走り去った。
「あら、行ってしまったわね」
「なんだったのかしら?雅子、あなた何かしたの?」
「とんでもない!私、話したこともないし、理由は私が聞きたいくらいですよ」
なのに・・・どうして睨まれたのだろう?
しばらく考えてみたけど、結局理由は思いつかず、私はもやもやしたまま朝を過ごした。
お昼になって、私は水純が待つ中庭へ向かおうとしたが、気になることがあって思い直した。
「そういえば今朝、加奈子ちゃんに睨まれたけど・・・あれってなんだったんだろう?」
朝からずっと理由を考えてみたけど、やっぱり原因は思い浮かばない。
私の勘違い・・・ってことはないわよね?
みかさんや麗華さまだって見てたんだし、それに明らかに私を意識して睨みつけていた。
うーん、気になるなぁ。一度水純のクラスに行って、様子を確かめてみよう。
私は水純のクラスにつくと、なるべく目立たないように階段近くで待機した。
私って下級生にまで顔を知られちゃってるから、近づきすぎると騒ぎになって気づかれちゃうのよね。
水純に聞いた限りだと、優しい子だから大丈夫だと思うけど・・・
それでも加奈子ちゃんが、実は天音さんタイプで、いきなり襲いかかられるのは困る。
まずは遠くから様子を見て、それから判断しよう。
「あ、あれは・・・」
水純の姿が見えた。
「今日はお弁当の話をして・・・それから雅子さまの好きなお話を・・・」
小さくて聞き取れないが何やら一人でつぶやきながら歩いていた。
多分、私に会いに中庭へ向かってるんだ。
どうしよう?水純にも協力してもらって、朝のこと聞いてみようかな?
そんなことを考えていると、もう一人教室から出てきた。
えっ、加奈子ちゃん!?
水純に会おうとしていた私は、慌てて柱に身を隠した。
加奈子ちゃんは、何故か真剣な眼差しで水純と同じ方向へ進んでいく。
あの子、何してるんだろう?
「お弁当の話・・・雅子さまの好きなお話・・・」
水純は相変わらず、何かつぶやきながら中庭へ向かって歩いている。
それを少し離れて後ろから追う加奈子ちゃん。
「水純の後をつけてる?どういうこと?」
そして中庭に到着した。
「はぁ・・・雅子さま・・・」
水純はいつも通りの行動で、その様子に不審なとこはない。
しかし、その水純を草陰で見守る加奈子ちゃんは、かなり怪しかった。
鋭い目つきで水純を監視していて、その姿はまるで犯人を見張る刑事のようだ。
な、なにやってるんだろうこの子?
もしかしてストーカー?
でもこの前は普通におしゃべりしてたし、今朝の様子ではそんな異常性はなかった。
真後ろにいる私にも気づかないくらい集中してるから、お遊びで監視してるわけじゃなさそうだし・・・
しばらく様子を見るしかないか・・・
ーー何の進展もないまま、5分が過ぎた。
相変わらず加奈子ちゃんは微動だにせず監視を続けているが、水純の方は私が来なくて不安なのか、せわしなく周囲を見回しだした。
「遅いな、雅子さま・・・」
う・・・
そ、そういえばいつもならもう来てる時間よね。
水純、不安で泣きそうになってるし、そろそろ限界かな。
相変わらず加奈子ちゃんは何かする気配を見せない。
しかし、これ以上水純を待たせることは出来なかったので、私は思い切って話しかけてみた。
「ねえ、ちょっといい?」
「しーっ!静かにしてください、敵に見つかります!」
「て、敵ぃ!?」
加奈子ちゃんは振り返らないままそう答えた。
「そうです。最近、水純さんが敵に弄ばれてると聞いて、加奈子が助けに来たんです!」
「えっ!そ、そうだったの!?」
し、知らなかった・・・
私の知らない間に、水純がそんな危険な状況に陥っていたなんて!
「それで、敵って誰!?弄ばれてるって、水純は何をされてるの!?」
「知らないんですか?敵は今話題の、桜陵最強の遊び人、斎藤雅子です!」
「・・・・・・え?」
「あの九条麗華さまと白井みかさまをたぶらかし、次期会長の座を手に入れた伝説の悪女、斎藤雅子が・・・今度は水純さんを狙って動いてるんです!」
「あ、あの・・・私、そんなことしてないんだけど・・・」
「してますよ!だって加奈子は噂でーー」
そしてようやく加奈子ちゃんはこちらを振り返る。
「え・・・・ええええっ!?」
加奈子ちゃんは私の顔を見るなり目を広げて驚いた。
「あの、加奈子ちゃん?」
「わ、わっ・・・うわあああああっ!?」
バシッ!
「ちょ、痛い!何で殴るの!?」
「で、でましたね斎藤雅子!水純さんは加奈子が守ります!悪者には絶対わたしません!えいっ!えいっ!」
バシッ!バシッ!
加奈子ちゃんは私を叩いてくる。
「いたっ!ま、待って、落ち着いて!多分何か誤解してるから、私の話を聞いて!」
バシッ!
「き、ききません!加奈子は騙されないですよ!えいっ!えいっ!えーーーいっ!」
バシッバシッバシ!
「や、やめて、痛いっ!ご、誤解だってばっ!」
「雅子さま!?それに加奈子さん・・・こ、こんなところで何をやってるんですか!?」
こちらに気づいた水純がやってきた。
「み、水純・・・」
「水純さん、危険ですからさがってください!」
「えっ?」
わけがわからず、きょとんとする水純。
「これでとどめですッ!加奈子フライングスプラーッシュ!!」
「きゃあああああーっ!」
この後・・・水純の必死の説得により、何とか加奈子ちゃんの誤解を解くことに成功した。
私は事態に気づいて平謝りする加奈子ちゃんを見ながら、今朝のことについてようやく納得できた。
そっか、加奈子ちゃんにとって私は、水純を弄ぶ悪魔のような存在だったのね。
だから私を睨んでいたんだ。
でも・・・それだけ怒ったってことは、やっぱり加奈子ちゃんは水純のこと・・・
「も、申し訳ありませんでした!!加奈子、あんな噂に踊らされて、雅子さまになんてことを・・・」
「もういいわ、気にしないで。誤解だってわかってくれたんだし、幸い怪我もなかったんだから」
「で、でも加奈子がドジだからーー」
「でもはダメ。私がいいって言ったんだから、もうこのお話は終わりにしましょう。ね?」
「雅子さま・・・」
「ねえ、その代わり一つ聞きたいんだけど、どうして加奈子ちゃんは水純を助けようとしたの?」
「そ、それはもちろん、水純さんはお友達だからです!」
「やっぱりそうか・・・」
私はパズルのピースが合わさった時のような、すっきりした気分になった。
だけど、隣にいた水純は、驚きで目を丸くしている。
「えっ!?加奈子さんって私のお友達だったんですか?」
「ええっ!?違うんですか水純さんっ!?」
「は、はい。だって加奈子さんはクラスの人気者で、私に話しかけてくれるのも、加奈子さんは誰とでも仲良くできる人だからで・・・」
「ち、違いますよ!加奈子が水純さんとお話するのは、水純さんは大切なお友達だからです!それなのに水純さんはそうじゃなかったなんて・・・加奈子、正直ショックで倒れちゃいそうですよ・・・」
「え?で、でも私は加奈子さんとお話しても、あまり会話が続きませんから、だからまだお友達ではないと思います」
「え?そ、そうなんですか?でもお友達って、そんなことじゃないと思うんですけど・・・」
「ではお友達とはどういうものでしょうか?」
「うっ・・・それはその、えーと・・・」
二人はしばらく考え込んでいたが、結局答えを出すことはできず、同時に私に助けを求めるような視線を向けた。
私はそれを見て、おかしくて笑いそうになる。
だって二人とも息ぴったりで、もう答えが出てたから。
「ねえ、水純。水純にとってお友達の条件って、おしゃべりが続くこと?」
「え?」
「私がもし水純とおしゃべりできなくなったら、そのときはお友達じゃなくなるかしら?」
「そ、そんなことありません!雅子さまはおしゃべりなんてできなくても、ずっと私のお友達です」
「そう。それじゃあ加奈子ちゃんは?加奈子ちゃんとはおしゃべりが続かなかったら、お友達じゃない?」
「あっ!」
水純がハッとする。
「うん。そうだよね。多分、お友達っていうのはお互いがそう感じたら、それで成立なのよ。おしゃべりができるとか、いつも一緒だとか、そういうのは後からついてくることで、一番大切なのはお互いの気持ちだと思うの。そういうことだよね加奈子ちゃん?」
「は、はい!そうです。だから加奈子は水純さんとお友達でーーあ、でも水純さんは加奈子のこと・・・」
「わ、私も加奈子さんとお友達になれたらいいなって、ずっと思ってて!い、いえ。私も加奈子さんのこと、お友達だと思ってます。だ、だからこれからも・・・よろしくお願いします!」
「水純さん・・・こ、こちらこそお願いします!高柳加奈子ですっ!」
加奈子ちゃんは水純の手をとると、お互い見つめ合って、固く握りしめた。
お互いの存在を確かめ合うような、固い固い握手。見ている私が羨ましくなるような光景だった。
良かった・・・これでようやく、本当のお友達同士になれたわね。
これで私もお役御免かな。
「さて、それじゃあ私の役目はこれで終わりね」
「え?どうしてーー」
「約束したでしょ?会話練習は他にお友達ができるまでだって。それにお友達作りはもう、加奈子ちゃんがいれば大丈夫よ」
「で、でもっ!私まだ雅子さまに教えていただきたいことが、沢山あるのに!」
「ごめんね。慕ってくれるのは嬉しいけど、私も次期生徒会長のこととかあって忙しいの。だから、しばらくお別れ」
「あ・・・そうだったんですか。雅子さまの事情も考えず、すみません。今日までお急がしい中付き合っていただいて、本当にありがとうございました」
「うん」
本当は・・・お昼休みは暇だったけど、嘘をついた。
だって私といると変な噂が流れちゃうみたいだし、そのせいで誰かに迷惑をかけたくない。
だから寂しいけど、私は二人から距離をとらなくちゃいけないんだ。
「あの、雅子さま。もしかして加奈子のせいで・・・」
「違うわ。さっき言ったように私の勝手。だから二人ともそんな顔しないで。ずっと会え無くなるわけじゃないんだから、また今度3人で会いましょう。それではごきげんよう。私も桜花祭頑張るから、応援してね!」
「は、はい!ごきげんよう雅子さま」
私はそう言い残して中庭を後にした。
「あぁ、雅子さま・・・さわやかで凛々しくて、カッコいい・・・噂なんて本当、全然当てになりませんね・・・」
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