第20話:ハズレる剣
突然、降ってわいた仮面の2人に、フォルチュナはきょとんとしてしまう。
わけがわからないと呆然とする彼女の視界にインフォメーションを知らせる【!】マークが点滅する。
(パーティー参加依頼? ……シニスタから!?)
驚いているとさらに2つの影がフォルチュナの横に降り立った。
まさに天から使わされたように白い羽を広げたデクスタと、堕天したかのように黒い羽に包まれたシニスタである。
羽の力で静かに降りた2人が、すぐにフォルチュナに駆けよってくる。
「シニスタ! デクスタ! どうして……」
「フォルチュナさん!」
デクスタがフォルチュナにしがみつく。
一方でシニスタは真横で片膝をつくと、フォルチュナの様子を確認してから、ほっとため息をつく。
「フォルちゃん……大丈夫みたいで、よかったよぉ。とにかく、パーティーにはいって」
「で、でも……」
「話はあとでですわ! いいから早くですわ!」
デクスタに急かされて、フォルチュナはフローティング・コンソールを表示させ、パーティー参加依頼を承諾する。
すると表示される、パーティーメンバー一覧。
そこにあったのは、自分にシニスタ、デクスタの名前。
さらに2名。
1人はWSDのVSダンジョン・エクスプロレーション――通称【
そして残りのもう1人は、この世界に転生する直前まで話していた相手だった。
フォルチュナ≫ ロストさん、どうしてここに!?
ロスト≫ それはあと。
ロスト≫ 私の【ムーブ・ホームポイント】でパーティーごと転送しますよ。
フォルチュナ≫ ま、待ってください。カティアさん……この人が死にそうなんです!
ロスト≫ ならば彼女を回復してパーティーに……ってあれ? その方って……。
フォルチュナ≫ はい。冒険者じゃありません……。
デクスタ≫ え? それではパーティーに加えられませんですわ!
シニスタ≫ フォ、フォルちゃん、そ、それは私たちでは助けられない……。
フォルチュナ≫ 私は彼女に助けられたの! だから見捨てることはできない……。
フォルチュナは、思わずロストの方を見る。
彼もこちらを見ているが、その表情は白い仮面に隠れてうかがえない。
困惑を感じているのか、迷惑に思っているのか、呆れているのか。
フォルチュナとて、無茶を言っていることはわかっている。
カティアを助けるには、この包囲網を突破して街にいる医者のところまで連れて行かなければならない。
しかも、彼女の傷はかなり深かった。
回復魔術スキルで悪化をギリギリ抑えているが、このままでは長くもたないだろう。
今すぐ、ここから逃げなくては間にあわないかもしれない。
だが、ムーブ系スキルはパーティーメンバーにしか効果がない。
そしてパーティーメンバーになれるのは、もちろん冒険者だけである。
冒険者ではないカティアをパーティーにいれることはできないのだ。
「て……てめー……」
ラジオンが呻くような声をあげて体を起こす。
だが、かるい
たぶん、ロストに顔面をもろに殴られたのだろう。
その顔は赤く腫れあがり、唇と鼻から少し流血していた。
フォルチュナ≫ あなたたちは逃げて! 私は彼女を助け――。
レア≫ ロスト、加護を使うわ!
レアが叫ぶように告げた。
だが、フォルチュナにはレアの言っていることが、何のことだかわからない。
たぶん、シニスタとデクスタもわからないのだろう。
2人は顔を見合わせて小首をかしげる。
ロスト≫ しかし、まだ試していないですよ。
レア≫ 大丈夫。成功するから!
ロスト≫ あなたのその自信が気になりますが、今はそれしかありませんね。そっちは頼めますか。
ロスト≫ それなら経験値のため、僕は彼の相手をすることにします。
レア≫ 任せなさい。
レアは、近寄ってきてカティアの傍らに膝をつく。
そして白い仮面をとった。
琥珀の明眸がきらりと光り、桃色に染まった唇がプルンと揺れる。
噂で美人だとは聞いていた。
しかし目の前で見た実物は、噂以上の美しさだ。
同じ女性だというのに、フォルチュナはつい見とれてしまう。
「カティアと言ったわね」
レアの言葉に、カティアがなんとかうなずいた。
それを確認してから、レアはカティアの耳元に口を近づけて小声でつぶやく。
「助かりたかったら、言うことを聞いて。今から、あなたをユニオンに誘うわ。あなたに選択肢がでたら承諾してちょうだいね」
「なっ!? それは――」
フォルチュナが無理だと言おうとすると、レアが口元に人差し指を当てて黙れと示してくる。
だが、レアが言っていることはメチャクチャだ。
(元NPCの人がユニオンにはいれるわけ……あ。でも、そうか! 今、プレイヤーもNPCも同じ人間扱いされているから、もしかしていけるの? でも……)
たとえユニオンに入ることができたとしても、それで冒険者と同じ資質が得られるわけではない。
「きっ貴様……なにしやがる。なんだなんだ、テメーは。仮面野郎め……」
「仮面野郎ですか。確かに、いい歳をしてヒーローごっこでもありませんしね」
ロストも仮面をはずす。
とたん、ラジオンが虚ろな目をクッキリさせてロストを睨んだ。
「ど、どうして貴様がここに……」
「ハズレの中にある、見捨てられた希望をお見せするという約束を思いだしましてね。今は、ご都合が悪かったでしょうか?」
「……いやいや、都合がいいぜ。ちょうどむしゃくしゃしてたところだ!」
「ならば、あなたに僕のハズレスキルをお見せしましょうか」
「やってみろよ、ハズレ野郎!」
ラジオンの雄叫びを合図に、ロストが剣を抜きながら横に向かって走りだす。
ラジオンは目で追うだけで動かない。
路地横の建物の壁を蹴って駆けのぼるロスト。
プレイヤーキャラクターは、リアルの人間より運動性能が高い。
そのため、まるでアニメに出てくる忍者のように、ロストは壁を蹴ると中空に跳びあがる。
「【ファイヤー・ボール
ロストが叫ぶように唱える。
魔術スキルは、思考操作するより音声操作した方が威力が上がる。
空中から炎の弾。
楽々と避けるラジオン。
「
ラジオンのかざした魔紋から、5つの火の弾が飛びだす。
空中にいるロストに散開しながら迫っていく。
ロストはそれをギリギリまで引きよせる。
そして5つの火の弾が並んだところで、ロストは剣の一振りで打ちはらう。
「――ちっ!」
【ファイヤー・ボール】は
しかし、散開して迫るものの発射時の狙った位置に集約する軌道を描く。
そのため、標的が距離をとると1つに集約してしまう特性があった。
(やっぱりプレイヤースキルはすごい。でも、威力は5倍。魔力耐性があるわけでもないプラチナ・ロングソードでは……)
WSDには、武器にも耐久力が存在する。
魔力攻撃を武器に接触させて誘爆させることはできるが、そのダメージは武器に蓄積されてしまう。
フォルチュナはレベル50クラスの武器に対する知識をあまりもってはいないが、ロストが持つプラチナ・ロングソードがなにも特性のない剣であることぐらいは知っていた。
ならば、そうそう耐久力がもつわけがない。
空中を渡るロストは、そのまま10メートルは離れている反対の壁に足をかける。
と、すぐにまた空中に躍りでる。
「おまえはサルですか! いい
ロストがラジオンの言葉を遮るように剣を投げようとする。
ロストの剣は耐久力がもうあまりないのだろう。
だから敵に投げつけて、新しい武器を取りだすのかとフォルチュナは考えた。
しかし、ロストが投げた剣は、ラジオンに向かっていなかった。
誰もいない、ロストの正面の地面に向けて投げられたのだ。
「――なっ!?」
「【エイム・ウィークポイント
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【エイム・ウィークポイント
レア度:★2/必要SP:5/発動時間:0/使用間隔:60/効果時間:10
説明:投げた武器、発射した弾丸・矢などが、敵の弱点に向かって自律的に飛ぶ。1度の使用で誘導されるのは、1つの攻撃のみ。敵の弱点以外に攻撃が当たった場合は、その時点で停止する。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ロストはこれを絶妙なタイミングで使用する。
地面に刺さりそうになった剣は急激に地面手前で軌道を変えて、ラジオンの心臓を目指して上昇する。
「たかがエイム1で!」
【エイム・ウィークポイント】はそれだけ見るとアタリスキルに見えるが、これは【アサルト・ウィークポイント】というスキルの劣化版と言われている。
エイムは弾かれたら終わりだが、アサルトは1回までは弾かれても、再び空中で軌道を変えて敵の弱点を襲う。
だから誰も、相対的なハズレスキルであるエイム、しかも
なにしろ、アサルトは
そしてフォルチュナは、ラジオンが【アサルト・ウィークポイント
「あまいですよ!」
エイムを使った、つまり心臓に向かってきていることがわかれば、避けることは難しくない。
飛んできたロストの剣が、ラジオンの剣で上方へ弾かれる。
クルクルと高く空中を舞う、ロストの剣。
すぐにラジオンは、左手で右胸に装備していた4本のナイフを指の間に挟んで抜く。
「スキルはこう使うんだよ!」
そして4本のナイフをロストに投げる。
まるで放り投げられただけのようなナイフは、すぐに軌道を正してロストの心臓に向かう。
ナイフが刺さるのは、ロストの着地にほぼピッタリのタイミング。
さらにラジオンが突進し、
(えっ!? ロストさん……予備の剣は!?)
壁を2回蹴って、空中から着地したロストの手に武器はない。
そこに4本のナイフが襲いかかった。
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