君の名前が片時も胸から離れない

彩時

序章 はじまり 【君の名前】

記憶を探っても、電話帳をスライドしても、君の名前は何処にも無いのに……

君の名前が片時も胸から離れない。


なんだか僕は、いつも君の事を考えている。君と言っても、ぼんやりと浮かんでいる君の名前のことを考えている。

君は、いつも僕のそばにいる。僕が知っているのは、君の名前だけなのに、それでも君はそばにいる。そばにいる気がしている。

そんな、ぼんやりした時間が僕を支配している。


何時のことだったかは全く思い出せないけど、初めて君と出逢ったのは、バイト帰りに何気なく覗き込んだ服屋のディスプレイ――


「………?」


急に君は、僕の中に居た。


「………あれ?」


君の名前……僕は振り向いた。

そこに君は居なかった。

振り向いた先には、見知らぬ人達が行き交ういつもの光景が、ただただ雑に流れていた。誰とも合うことのない視線。無言で行き交う人々。


「………?」


僕は、またディスプレイを覗き込んだ。


ディスプレイの中には、張り切った感じの水色を基調としたワンピースを着込んで、白い大きな帽子までかぶったマネキンが立っているだけ。

いや、何故かマネキンの足下には、ちいさなテディベアが、ちょこんと添えられて


「………君の名前……?」


君の名前は僕の胸の中にあった。

君の名前は僕の胸の中に居た。


なんだか場違いさを感じて、僕はまた歩き出した。何度か振り返ったけど、やっぱり君は居なかった。

振り返った向こう側には、夕陽に変わりかけた丸い光が見えた。

君は、眩しそうな目で丸い光を見ていた気がする。感覚だけが、君を写していた。君の姿は格好はわからないけど、感覚だけで君と出逢った。


――これが、君と初めて出逢った記憶なのかな……?――


これは、僕が君の名前を手掛かりに、君を探す物語の始まりだったのかな?


『ねぇ、、、』


そうなのかな…。

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