敵は王城にあり!

ムネミツ

 敵は王城にあり!

 「……あれが魔王の城か、長かった」

 赤い鱗で覆われた二本の角付き兜と黄色い鱗で覆われた胴鎧に青い鱗でできたブーツを身に纏った黒髪に碧眼で精悍な顔と体躯の美少年が街道の先に立つ黒い石造りの城を緑の剣と黒い盾を掴みながら見つめる。

 少年は勇者、十五の誕生日に国王に呼び出され短い棒一本と鍋の蓋を持たされて

魔王討伐の旅へ無一文で送り出された。

 家に帰る事は許されず、最初の村に辿り着くまでに最下級のモンスターを命懸けで倒し教会に居候しつつ己を鍛え身を立てる日々。


 パーティーを組む金など最初の村で稼げるはずもなく、村には頼れる人材もなくと

孤独な戦いと暮らしを強いられてきた。

 次の村に訪れた村では盗賊団を相手に整えた装備で夜襲をかけて壊滅させて村の財を取り返すも勇者だからと無報酬で通されて追い出されるように旅立つ羽目になった。

 勇者とは何だ? 世界を救うとは何なんだ?

 言葉を話す魔物からもお前は何の為に戦う? と問われた。

 その時何と答えたかは忘れた、今問われたらこう答えるだろう。

 「魔王を一発ぶん殴る! 魔王を倒したら、勇者なんかやめる!」

 何故か知らぬが行く先々で自分が勇者だと知られており、どこへ行っても勇者らしく聖人の如く振舞うことを要求される日々に嫌気がさしていた。

 魔王を倒して自由の身になる、その思いが勇者を支えていた。

 

 ゆく先々でギリギリ旅ができる報酬と食事と寝床程度で便利屋の如く魔物退治や探し物などをこなして己を鍛え技を磨き武具を新調してきた。

 酒場で出会いもあった。

 パーティーを組まないかと声をかけて来た者達が出て来たが、今更誰かと組んで旅などできぬ心になっていた。

 他人を信じる心という物が薄れ切っていた。

 もっと早く仲間が欲しかったが後の祭りだった、過ぎた時は戻らない。

 やがて、海辺の町から船で旅に出る事となった。

 港町の酒場で世界の全てが描かれた地図を見て、自分の世界の狭さを知った。

 魔王を倒すには竜の武具が必要と酒場の吟遊詩人の歌で聞いた。

 竜の武具は五つ、兜に鎧にブーツそして剣と盾だ。

 世界の各地にいるという五色の竜を探す船旅をした。


 南の島では炎が燃え盛る山で赤い竜出会った。

 「我は勇者に試練を与える使命を神より与えられし者、その力を見せよ!」

 竜の言葉に何が神の試練だと思いながら、火吹き攻撃や燃え盛る爪焼き場を必死に逃げつつ剣で立ち向かい赤い兜を手に入れ炎の力を手に入れた。

 西の大陸の鉱山にいた黄色い竜は雷を操り同じように試練を与えて来た、赤い兜が雷を防いでくれなければ負けていたが赤い竜と同じく鎧と力を手に入れた。

 武具と竜の力を手に入れてから世界が変わった。

 雷の如く素早く動き回り炎を纏った剣の技で北の海に潜んでいた吹雪を操る青い竜を倒した事で手に入れたブーツと力で海の上を歩き海の中でも呼吸ができて自由に身動きが取れるようになって船に乗る必要がなくなった。

 東の島で嵐を操る緑の竜はこれまでの実績から、自らの力と剣を授けてくれた。

 緑の竜の力で風を操り空を飛べるようになった、剣を軽く振るえば旋風が巻き起こり虎ほどの大きさのモンスターを軽々と切り裂いた。


 最後の黒い竜は天空を流離う浮島の塔を根城にしていた。

 「我が最後の試練だ、勇者よ!」

 最後の竜との戦い、竜が操る黑い闇を風の刃で切り払う!

 払った闇が塔の壁をくり抜いて消えた!

 雨の如く振る闇の玉を雷の速さで避け、氷の囮を生み出して身代わりし逃げ回る中で剣に灯した炎の輝きが偶然闇の玉を消し去った事から炎の光で闇を打ち消せると攻勢に出て黒い竜の額に剣を突き立てて試練を乗り越えた。

 そして勇者は魔王の闇の力に耐える盾と闇や影に潜り移動する力を身に着けた。

 五色の竜の武具と力を得た勇者は真の勇者と認められた。


 そして回想を止めた勇者は今、魔王の城へと稲妻と化して突入した!

 一直線に白の中心まで突き進んだ勇者を待ち構えていたのは、一人の見目麗しい美少女だった。

 「よくぞ来た勇者よ! その竜の力で我と共に世界を統治せぬか♪」

 春風の温もりのある美声で、山羊の角を生やしたピンク髪の美少女魔王は豊満な胸を張り両腕を広げて見せた。

 「ば、馬鹿を言うな! 俺は貴様を倒すために、これまで一人で旅を!」

 醜い化け物の姿と魔王の姿を想像していた勇者、彼の心の中で何かが砕けた。

 勇者は倒れそうになる我が身を白の床に剣を突き立てて耐えた。

 「その旅はそなたに何を報いた? そなたが救った者はそなたに報いたか?」

 勇者の心を揺さぶる魔王。

 「俺は、お前を倒せば自由になれると思ってここまでっ!」

 叫びを上げて再び剣を構える勇者、だが彼の目の前に魔王はおらず勇者の背後から甘く優しい香りと柔らかい感触が当たって来た。

 勇者は魔王に抱きしめられた! 勇者は動きが止まった!

 「勇者よ、そなたの辛い旅は終わりだ私がお前と真に世界を救おう♪」

 魔王が勇者にささやく、故郷を旅立ってから最初の村で世話になった司祭以来の

優しさが勇者を包んだ。

 勇者は魔王に懐柔された!

 「さあ、我が夫よ♪ そなた一人を刺客として責任を押し付けた人間の国王を倒そう、敵は王城にありだ♪」

 魔王の言葉に勇者は頷き後に二人は夫婦となった。

 

 そして、勇者と魔王の夫婦の新たな戦いが幕を開けるのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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敵は王城にあり! ムネミツ @yukinosita

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