僕の恋

クロバンズ

第1話

 恋を、した。

 それは昨日のことだった。

 会社で精神をすり減らしながら弁当を買おうと入ったコンビニで、僕は彼女と出会った。


 綺麗な人だった。真っ黒な黒髪でぱっちりとした大きな目。中学生のような小柄な身体だった。

 僕は彼女を一目見た瞬間、電撃のようなものが身体を貫いたような気がした。

 いわゆる、一目惚れというやつなのかもしれない。


 僕はなんとか彼女に近付きたいと思い、何度もそのコンビニに通った。

 同じ時間に、同じものを購入し続けた。

 そんなある日。


「……よく、この時間にいらっしゃいますね」


 彼女が口を開いてくれた。

 それは小さな声。だけど、しっかりした声。中性的な彼女の声が自分に向けられたことに、僕は喜びを隠せなかった。

 僅かに口元が歪む。口元を隠してが目まではごまかせなかったようだ。彼女は困ったような笑みを浮かべた。


「なにを笑っているんですか」


 彼女の笑顔は太陽のように眩しく見えた。

 嬉しかった。振り向いてくれたことが。あわよくば、友だちになりたいと思った。会計を済ませて、立ち去ろうとしたその時。


「あの」


 初めてだった。彼女が僕を引き止めたのは。


「今度きたら、連絡先、交換しませんか」


 心臓が止まるかと思った。

 これは夢かと思った。


「も、もちろん!」


 そうして僕と彼女は、距離を縮めていった。


 *


 あれから一ヶ月経った。

 今日は彼女と、初めて食事をする。

 制服姿じゃない彼女を目にできるだけで、天にも登りそうな気持ちだ。

 待ち合わせをしている今でさえ、胸のドキドキが止まらない。


「——待ちましたか?」



 少し息の弾んだ声音が聞こえた。

 背後を振り向くと彼女がいた。

 短い黒髪にグレーのパーカー。ズボンを履いた服装は美麗な少年のようにさえ見える。


「行こうか」


「はい」


 僕と彼女は近くの店に向かった。

 高級な料理店ではなく、近所のチェーン店だ。

 そんなに手持ちがないというのもあるが、やはりそういうのは性に合わないのだ。

 頼んだのは安いスパゲッティ。

 いつもと味は変わらないはずだが、その時はとても美味しく感じた。



 それから一ヶ月が過ぎて、僕たちはすっかり親密な関係になっていた。

 季節は夏。

 この時期になるとよく外へ遊びにいくようになった。

 暑い日差しを浴びながら僕は道端を歩いていた。

 時折吹く風が僅かに暑さを和らげた。

 そんな時、携帯が振動した。

 見れば彼女からのメールだった。


「明日、よければプールでも行きませんか」


 プール。

 その言葉に僕の心臓は脈打った。


 その言葉に僕の心臓は脈打った。

 彼女の水着姿が見られるというのだ。男として少しはドキドキするのではないだろうか。

 きょどりながら携帯に返事を打ち込む。

 すると了解です、と返事が返ってきた。

 僕はその日、楽しみすぎて眠れなかった。



 そして翌日。僕は先に水着に着替えて彼女を待っていた。

 すると背後からその声は聞こえた。


「待ちましたか?」


 聞き慣れたセリフ。


 背後には水着姿の彼女がいる。

 僕は心を高鳴らせながら振り返り——唖然とした。


 彼女は確かに水着だ。

 だが、それは——男用のもの。上半身が裸なのだ。

 そしてその身体は完全に男のそれだ。


 彼女は——男だったのだ。


 僕の恋はどんでん返しをくらったのだった。













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