一攫千金、夢を叶えろ!

まとあし

第1話 嵌められたのか?

 20XX年、突然ダンジョンが出現した。

 時を同じくして魔法も使えるようになっていた。時代の変わり目、一括千金、大きな夢を見ることができる世界が生まれた。


 ダンジョンで魔物を狩ると魔力の質量が増え更に強くなる。

 当初は秩序が守られていたが、個人が強大な力を得るに従い、秩序は崩れていった。


 国家は崩壊し、群雄割拠の様相を呈していた。

 旧国家勢力は分裂をしたものの、警察組織や自衛隊を中心で組織立って個人の強化に努め、群雄割拠の中でも上位に存在する勢力をいくつも作った。

 大手企業は中小企業を傘下に治め、アイテム開発や最新技術の導入と創意工夫で人を引きつけ旧国家勢に対抗している。

 そして、アウトローの勢力。力ずくで物事を進める者たち。彼らが最も彼ららしく生き、小ぶりながらも勢力を維持している。


 法治国家で無くなったため、犯罪者を厳しく労働させるために奴隷制度が復活していた。また、個人が強大な力をもった結果、それを抑えるアイテムが開発された。


 奴隷用首輪だ。


 犯罪を犯すと労働奴隷に落とされる。奴隷が逃げないようにするためのものだ。主人の意思一つで、苦痛、動けなくなる程の衝撃、そして死を与えたりできる奴隷用アイテムだ。

 そしてさらに奴隷用5人組首輪が開発された。5人一組で使用し、体力やダメージを共有する機能を持つ。誰かが無くられると、1/5のダメージを一人一人が受ける。尤もこの5人組首輪は、犯罪者に利用されるより、利用価値の高い個人を家族ごとさらい、強制的に働かせることに多く利用された。


 世の中は、大きく変化したが、時代にマッチした力の有るものが牛耳ることになった。



 そしていつの時代な大きな権威に靡かず、我が道を行く若者たちが居る。彼らはいつも一括千金を目指して夢を見る。ダンジョンの前にもそんな5人組が居た。


「俺たち結局、今も高校の時と同じメンバーで蔓んでるな」

「達也さぁ、お前、いつもそう言うけど一緒で嬉しいんだろ?」

「直人、達也はいつまでたってもお子様だから」

「康夫、おれは子供じゃね~よ」

「そんなことより、これからどうする? 康弘? 聞いてる?」

「そんなことって、なんだよ、武夫」


 幼馴染の彼ら5人は高校から蔓んでいろいろ活動してた。悪いことはしていないつもりだが、多少はしたかもって程度の普通の高校生だった。

 達也、直人、康夫はどちらかと言えば体育会系のノリの若者だ。康弘、武夫は頭脳はタイプのインテリ系の若者だ。


 彼らは高校を卒業して、いったんはそれぞれの道に進んだが、達也、直人、康夫の3人が冒険者になると言い出し、康弘、武夫がお前ら3人だと歯止めが効かずに死んじまうからと熱い友情劇の末に5人でパーティを組んだ。


 しかし、世に中は甘くなく、命がけで潜るダンジョンから得たアイテムは、安値で買い叩かれてしまう始末で、喰うのがやっとの5人だった。


「あぁ、すまん。考え事をしていた」

「康弘、考え事は後にして、とりあえず潜ろう。稼いで借金地獄を抜け出さないと、な」直人の言葉に達也と康夫も同意する。

「そうだな、直人の言うとおりだ。今日も頑張ろう」


 ダンジョンに潜ると金が掛かる。装備の購入やメンテナンスに少なくない金が必要だ。それにいざと言う時のためにポーション類も馬鹿にならない経費になる。

 喰うのでやっとの5人は、それらの費用を手持ちがない時は、借金をして工面していた。最近は利子分のみを払って元本が減っていない。このままのじり貧ではいつか経済奴隷に落とされることになる。


 ダンジョンで魔物を狩ると魔力の質量が増えて強くなる。なるのだが、命がけの戦いは無理が効かない。彼らには先頭に立って導いてくれる教官が居なかったため、なかなか成長ができずに伸び悩んで居た。


 月末、借金を返す日。

「今月は調子が良かったな。特に達也の成長が目立ったよな。今月は元本の返済もできるな」と、直人が笑いながら言う。

「あぁ、そう言う直人も達也に負けないくらい力が付いて来たともう。みんな怪我を

 しなくなったし、返済の目途も付きそうだな」康弘も笑顔で答える。



 しかし、やはり世間は甘くなかった。

 彼らを借金漬けにしようとしていた金貸しは、何の通告もなく利率を上げると言い出した。

「ふざけるな!そんな勝手な話が通用するもんか!」

 皆を代表して金を返しに来た康弘が柄にもなく吠える。

「おやおや、困りますね。しかも、そもそも勝手なのはあなた方だ。返済期限は遠の昔に切れてるんですよ。それを私どもの恩情で期限を延ばして差し上げていたのに。そうまで言うなら即刻返済してもらいましょうか? それとも奴隷落ちしますか? どちらでも構いませんよ!」

 勝ち誇ったようなせせら笑ったような表情で金貸しが言い放つ。


「それは……」

「でしょ。今月の分では利子分にもなりませんが、今回は私どももお伝えするのが遅かったので、これで今回は利子分とします。来月からは、ちゃんとお願いしますよ。利子額に届かなければ、元本が増えますよ。そうならないように頑張ってください」

 一方的に告げられ、康弘は部屋を追い出された。


 皆で済むアパートで、報告を行い垂れる康弘。

「皆、すまない……」


「康弘が悪い訳じゃない。それになんだょ……。俺たちをなんだと思ってるんだ」

 いつもはクールな康夫も行く末を思うと心配顔になる。


「なぁ、康弘。俺たちは嵌められたんじゃないか? ……いや、お前の対応が悪いと言ってる訳じゃない。最初から元本が減らないように、いやむしろ元本を増やして、利子だけを永遠に払い続けるに俺らはされようとしている」

 武夫が自分なりの分析した考えを冷静に述べる。


「そっか、俺たちの成長を感じたから、それに合わせて利率を上げて、借金地獄から抜け出させない心算なのか……くっそ!」

 達也が悔しさを吐き出すように言う。



 力が付きダンジョンでの稼ぎも上がったものの、相変わらず借金地獄を送る彼ら。

 そんなある日。武夫がおもむろに鞄の中の5を取り出した。

「なぁ、お前らこれ知ってるよな?」


「そんな物騒なものどこで手に入れたんだ?」

 武夫が真剣な顔で聞いてくる。

「ちょっとした伝手つてでね。それに設定はされてないからそんなに危険じゃない」

「伝手ってなんだよ? やばい所から盗んで来たのか?」

「いや。正規に奴隷商登録をして、金貸しの紹介で安く買ってきた」

「買って来たって? お前、金は?」

「俺個人が金貸しに借りた」

「「お前……」」

 口ごもる4人。


「で、それをどうするつもりなんだ?」

 武夫が睨みつけるような目で聞いてくる。

「あぁ、俺たち5人で使う。奴隷も買った」


「「5人で使う?!」」

「「おまぁ! 奴隷まで!」」

 混乱する4人。


「騒ぐな。おれが責任を全て取る。それよりも冷静になって、おれの話を聞け」

 康弘も怖いくらい真剣な顔で4人に言い聞かせる。


 康弘は計画を話した。

 手足を失ったなるべく屈強な奴隷を20人タダ同然で買ってきた。手足を失った奴隷は使い道が余り無いわりに食い扶持が必要なため、厄介払いとばかり、安く買える。

 俺たち1人とその奴隷4人を一組にして、俺たちはダンジョンに潜る。奴隷たちは安全な場所で待機だ。

 おれたちが受けたダメージや体力消耗は5分の1になる。いや、最初のころは屈強な奴隷の方が俺たちより強靭なため、10分の1くらいになるだろう。即死しなければ生き残れる算段だ。

 奴隷も生きるのに必死な者を選んだつもりだ。もし、奴隷に不都合が生じたら交代させるし、より強い安い奴隷が居たらその時も交代させる。

 食費は掛かるが、10倍のダメージ耐性ができたと思えば採算が取れると判断した。


 彼らは、アグレッシブにダンジョンに臨んだ。普通は3日に1日しか潜れなかったのが、奴隷と体力を共有しているので消耗が少なく、回復も早い。毎日でも体力が持つ。そして毎日ダンジョンに通うと腕も上がる。魔力の質量もどんどん上がる。


 ひと月経った時点で彼らは一つ上の冒険者のステージに上がっていた。一流にはまだまだ届かないが、二流には何とか喰い込んでいた。

「また、生きの良い奴隷を仕入れてきた。ガンガン行くぞ!」

 康弘は同じ奴隷を酷使せず、使用・休憩・使用・休憩と奴隷の体力温存を採用した。もちろんこのことは世間に、ひた隠しに隠している。彼らが居ない時に襲撃されたら最悪だ。


 彼らは、人の3倍ダンジョンに潜る。その上、ダメージ軽減から多少の無茶もする。結果、3倍以上の速さで彼らは成長する。


 一年経つ頃には、押しも押されもせぬ一流の冒険家になっていた。借金は5人で金貸しの事務所に出向き、耳を揃えて叩き返した。

「「「「「ざまぁ!」」」」」

 彼らは金貸しに言い放ち、すっきりとした気分で事務所を後にした。


 それから五年後。

 達也、直人、康夫の3人はトップ冒険者として、世界一のダンジョンに今も潜っている。康弘、武夫は自分たちが成長したノウハウを生かして冒険者アカデミーを立ち上げると共に、悲惨な若者被害者を生み出さないために、新興冒険者ギルドを立ち上げていた。


 さらに十年後。

 達也、直人、康夫の3人は冒険者の顔と言われるほどの活躍をして居る。武夫は引き続き冒険者支援のビジネスを邁進して一流と言われる企業に育てている。康弘は、金融界に乗り出し、自分たちを嵌めた金貸しを追い込んでいる最中だ。


 彼らは康弘の機転と度胸で苦境を脱することができた。

 しかし、成功の一番の要因は嵌められ追い詰められた人生を逆転してやろうと言う意志の強さだったのだろう。死に物狂いで魔物に向かう彼らに余裕は無かった。そんな追い詰められながらも諦めない意思が、どんぞこ人生を覆す力なのだろう。


 二十年後。

 ある日、ダンジョンの前に佇む中年男性が5人。良い顔をして立っている。


 終わり。

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