第8話 吊るされた男

 夫を亡くした和賀蘭は、仕事が見つかるまでという条件で弁護士の上杉夫妻に引き取られて東京に来た。

 4月25日、職探しをする蘭は、地下鉄銀座線・溜池山王駅ホームの端でナフタリンの臭いをオーバーから発散させた男が、蘭の背後にいた人物に驚き恐れたかのように顔を引きつらせて後ずさりし、線路上に転落して感電死するのを目撃した。

 男の死を確認した医者を名乗る黒色の服を着た男が立ち去る際、紙切れを落としていった。ナフタリンの臭いが染みついたその紙切れには『THE END』と暗号のようなものが記されていた。


 蘭は翌朝、死んだ男(後日、司法解剖で久我傑という名前が判明する。傑でスグルと読む)のポケットから議員の津田沼男の持ち家である渋谷にある屋敷への紹介状が入っていたこと、その家の2階の1室で中国人と思われる若い美人の絞殺死体が発見されたこと、その家には『黒色の服を着た男』も見に来ていたことをNHKニュースで知る。


 興味にかられた蘭は、暗号の手紙に記されていた『THE END』が中国女の死を予期していたと推理。

 中国女の身元がフー・ムーラン(福 花木蘭)と判明し、花木蘭が伊豆大島に向かおうとしたことが明らかになる。

 

 蘭は竹芝桟橋から伊豆大島行きの客船『アンフィビアン』に乗り込んだ。「なんとしてでも事件の謎を解いてやる」とつぶやいた。アンフィビアンは英語で両生類を意味する。陸を走ることもできる、水陸両用客船だ。 

 偶然にもその船には津田沼男も乗船していた。

 湯川瑠璃子と瓜生英介は近寄らないように立ちはだかるが、沼男は「若いのに政治に興味があるなんて大したもんだ」と笑った。

 螺旋階段で3階の315号室に向かってみた。すると1時に「助けてくれ!追われている!」と言いながら肩を刺された男がやって来た。陽焼けした顔の頬に傷跡を走らせ、危険な香りのするその男は、蘭に介抱されたあと、今夜のことは誰にも言わないようにと口止めして立ち去る。

 蘭は315号室の宿泊者をひとまず除外して、監視の必要がある人物を3人に絞る。1人は津田沼男、秘書の湯川瑠璃子と瓜生英介が残る2人で、前者は顔の左頬に青痣があり、後者はゴリラのようだった。


 あと数分で伊豆大島に着こうという頃、蘭たちは諜報機関の所属ではないかと噂されている派遣会社の社長、剣持誠司から、コロナウィルス発生の直前に中国で起きたダイヤモンド盗難事件の話を聞く。IT企業の社長、鄭音林(テイ・ネリン)の息子の鄭経林(テイ・ヘリン)とその友人のメル・エレーナが、香港でかなり大きなダイヤモンドの原石を見つけ、鑑定のために横浜を訪れたところ、ちょうどその頃起きたダイヤモンド盗難事件の嫌疑がかけられ、経林は逮捕される。

 その方法とは香港と中国の間にワイヤーを引っ張り、ドローンで密輸するというものだ。

 音林が盗まれたダイヤに相当する金額を払ったため、ダイヤの行方が分からぬままジョン経林は釈放され、コロナウィルスが原因で横浜の病院で病死する。そして音林は遺言状を残さずに心臓発作で死に、莫大な遺産が最も近い血縁者、すなわち剣持に譲られたという。そのとき蘭は、頬に傷跡のある男が青ざめた表情をしているのを見かけ、津田沼男から船に乗る直前に新しく雇った秘書の連城英二だと聞く。


 大島についた最初の晩、『優子🍸』ってクラブで蘭は親しくなったセレブの織田香美にこれまでの経緯をすべて打ち明け、例の『THE END』は『315号室(サイゴ)』に何かヒントがあるのだと確信する。

「そういえば昨夜、三井ウサギがここに来たのよ」と、織田香美が赤ら顔で言った。酒に弱いようだ。どことなく山口百恵に似てる。天海祐希に似てなくもない。

 偶然にも『横須賀ストリート』が流れ出したので苦笑した。『これっきり これっきり も〜う これっきり〜で〜すか〜♪』

「あの歌手の?」

「そう、何か思い悩んでるようだったわ」


 織田香美の正体は強力な国際犯罪組織の手先の1人で、組織の首謀は悪魔のようにずるがしこい人物で『社長』と呼ばれているらしい。


 その話を聞いた蘭は、渋谷の津田邸で殺された花木蘭が潜入捜査官であることを突き止める。さらに花木蘭は自由自在に鍵を開ける魔法を操れたことを翌朝、三井ウサギが宿泊した『孔雀荘』の3号室のテーブルの上にあった魔法リストから知る。

 三井ウサギも魔法を使え、『ブラック』と言う名の黒魔術を操れることを知る。さらに部屋の押入れの戸袋を調べるとフィルムの容器が隠されてあり、中にはダイヤモンドの原石が入っていた。💎

 蘭は、それが剣持の話に出ていた行方不明のダイヤモンドの一部だと思い至る。


 織田香美は、『黒色の服を着た男』が連城で、駅で死んだ久我が花木蘭にダイヤモンドを渡そうとしていた、それを連城がダイヤを手に入れようとして久我から暗号の紙切れを手に入れ、そのあと花木蘭を殺し、津田沼男に働きかけて秘書として船に乗り込んで本土を脱出し、船の中で偽のボディーガードの瓜生に刺されたのだと推理する。しかし、連城に惹かれていた蘭は、『黒色の服を着た男』が連城であることは認めるものの、殺人については無実を主張する。

「長谷川博己に似てカッコいいアナタが悪いことを出来るはずがない」

 

 翌朝、蘭は剣持からメル・エレーナが香港のホテル街で何者かに襲われ負傷し行方不明になっていることを聞く。さらに久我傑がハッカーであることを知った。

 久我はインターネット規制に抗議する形でオーストラリア政府にサイバー攻撃とデモなどの合法的な抗議活動を行っている。


 それから数時間後、東京に戻る船の中で蘭は湯川瑠璃子にかまをかけ、彼女が花木蘭殺しの事件があったときに津田邸にいたことを知る。蘭は今後の作戦として、織田香美に霞が関に向かう津田沼男に付いて行き彼と湯川瑠璃子を見張っているように頼み、蘭は瓜生が密かに乗船してることを知る。機関室に隠れていたのだ。 

 真夜中、シューシューと蒸気が上がるなか、瓜生と蘭はステゴロで対峙する。蘭は瓜生に首を絞められ、三途の川を渡りそうになったとき連城が駆けつけて、瓜生を素手で殴り倒して彼女を救った。逃げる瓜生を追う連城の後を追って蘭が駆けつけたところ、食堂の入口に何者かに殴られた湯川瑠璃子が倒れていた。蘭は側にいた連城に、本当の名前は五藤了であり、また『黒色の服を着た男』で、さらに花木蘭を殺したのだろう?と指摘すると、彼は女を殺す気持ちがあったことを認め、湯川瑠璃子をそのままにしてその場は別れる。


 翌早朝、竹芝の街並みを目前に甲板に立つ蘭に五藤は、連中は蘭が何かを知っていると思い込んでおり、前夜の襲撃もあり既に危険にさらされており、常に危険に目を光らせるよう警告する。そして2度と会うことはないだろうと言って別れる。竹芝桟橋に上陸後、織田香美の宿泊するホテルで彼女に会った蘭は、香美から湯川瑠璃子を倒したのが彼女で会ったことを知らされる。


 赤羽は五藤了とよくカラオケで遊んだ。五藤は尾崎豊が好きで『17歳の地図』がうまくて精密採点で85点だった。

 彼は無事だろうか?

『吊された男』のカード『正位置』が出た。吊し人、吊られた男、死刑囚、刑死者とも呼ばれる。


 カードの意味は、正位置の場合は修行、忍耐、奉仕、努力、試練、着実、抑制、妥協。

 逆位置の場合は徒労、痩せ我慢、投げやり、自暴自棄、欲望に負ける。

 

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