第7話 力

 正位置の意味

 力量の大きさ、強固な意志、不撓不屈、理性、自制、実行力、知恵、勇気、冷静、持久戦、潜在能力の引き出し、成熟。


 逆位置の意味

 甘え、引っ込み思案、無気力、人任せ、優柔不断、権勢を振るう、卑下。


 全体の構図としては、女性がライオンの口を押さえ(ロマンス語諸語で、「力」は女性名詞である)、女性の頭上には1番の「魔術師」と同じく「∞」のマーク(マルセイユ版では「∞」を象った帽子)が描かれている等、マルセイユ版もウェイト版も大きな違いは無い。


 マルセイユ版の数列では1~9までの精神世界の領域が10番の「運命の輪」によって一度区切られ、11~20の現実世界の領域に入ったことを表している。故に1と11にそれぞれ始まりにして未知の可能性を暗示する∞が一つずつ、21番の「世界」にはその2つの世界の統合を表すように2つの∞が描かれている。


 カードに描かれる人物は「人間の女性」である。特にマルセイユ版に描かれる女性は、玉座に鎮座する女神や神的イメージでないことが、女性の服装が中世ヨーロッパの一般的な庶民の衣服であることに示されている。しかし、この女性がただ者でないことは頭部の帽子(∞)に表されている。同様の帽子をかぶる「魔術師(奇術師)」が、両手にコインやステッキを持っているのに対し、この女性は素手である。つまり「魔術師」が備えていた奇跡的な“力”は、「力」ではステッキ等の道具を用いるのではなくこの女性の「手」に備えられていることを表し、「魔術師」のそれに比べ、より人間的、直接的であることを示している。


 また、カードに描かれるライオンは「本能」(特に人間の動物的本能)と結びつけて解釈される。「愚者」のカードにも犬が登場したが、この「力」ではより凶暴なライオンとして登場し無視できない存在として描かれている。このことは象徴学的に、精神における人間的な本性が自身の動物的な本性と直面することが出来るようになったことを示し、同時に心理学的に、無意識として手なずけられない状態にある力を自我意識が直接取り扱うことは出来ず、二つの側面を関係づけるのは女性による仲介が必要であることを表している。


 ちなみに女性がライオンの“口”に手を向けていることに関しては、様々な説があり統一が成されていない。口を開けようとしている、閉じようとしている、或いはその両方であり見る者の状況に応じてどちらとも採れるように描かれている、単純にライオンの肝(或いは“何か”)を取り出しエリクサーの材料にしようとしている等、多岐にわたる。


 標的は内藤勇だ。カードは正位置に出た。

 戦国時代にタイムスリップし明智軍との戦いで負傷し、令和2年4月に帰還した内藤は旧友、和賀勲の招きで名古屋市にある朱雀荘を訪れる。「それにしても斎藤利三ってのは強いんだな?」

 内藤の左肩の刀傷が疼いた。

 ある夜、20歳年下の男と再婚した和賀の義母、喜久子は突然発作を起こし、一時は持ち直したが再び発作に襲われた彼女は息絶えてしまう。喜久子の死に疑問を抱いた内藤勇は、スマホで旧友の獅子島力に事件の捜査を依頼する。獅子島は刑事だったが、犯罪者に力を貸して愛知県警を追われた。

 獅子島は今は私立探偵をしてる。

《コロナになりたくないから街に出たくねぇ〜》

「使えねーな」

 

 久々の再会を果たした内藤と獅子島は、2人して報酬を獲得すべく話し合った直後、早速依頼人の和賀勲にコーチン専門店で出会う。

 幸運に味方されているかに思われた2人だったが、翌日和賀の事務所で内藤がどこかで聞き覚えのある『ニシナ』という名前がファイルにあるのを見つけた。

 実はその名前、2015年に謎の潜水艦の攻撃を受け沈没寸前の中国の青龍号において、極秘条約文書を諜報員から託された行方不明の日本人の名前であった。

 浪花の協力を得て『ニシナ』の捜索と文書の確保に乗り出す2人の前に、条約草案の入手を狙う組織の首領『一条敦』とその配下が立ちはだかる。


 和賀からの依頼を受けて、獅子島と共に、軽井沢の別荘地を訪れた内藤。

 だが、彼らを出迎えたのは、依頼人の和賀が殺害されたという報せだった。

 夫人の蘭は、2人組の暴漢が夫を拉致したと証言するが、犯人たちは、わざわざ拉致した被害者を屋敷のすぐ隣にあるゴルフ場予定地で殺し、墓穴まで掘りながら死体を埋めずに放置するという、不可解な行動をしていた。

 蘭の証言が真っ赤なウソだと見抜いた内藤は、同時に「彼女は、夫殺しの下手人ではない」とも結論付ける。

 一方の獅子島は、事件の翌日、以前函館行きのブルートレインで同乗した女性歌手と、思わぬ再会を果たす。

 物見高い彼女に請われるまま死体の安置場所を案内した獅子島だが、後でその場に保管されていた遺体の解体に使った斧が紛失していることが発覚。

 さらにその翌日、紛失したはずの斧で頭をかち割られたホームレスの死体が、敷地内の物置小屋から見つかった。

「飯島さん?」

 井川ってゴマ塩頭の長野県警の警部が眉間に皺を寄せた。

「知り合いですか?」と、内藤。

「捜査のイロハを教えてくれた飯島竜さんです」

 井川によると飯島は2011年3月に定年退職してるらしい。


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