9、祭りは準備が一番楽しいとか聞くけど、それは何の責任もない人の意見だよな。その3

ゴールデンウイーク明け一発目の平日、七日の放課後俺たちは再び化学室に集まっていた。

 結局、月曜日はあのあとすぐに午後から家の用事があると言って佐倉さんが帰ってしまったので、具体的な計画を詰めることなく昼前には解散してしまった。

 中途半端に切りのいいところで話を区切ってしまった場合、本題を切り出すのに取っ掛かりが無く、目を背けるように違う話題で時間を無駄にしがちだ。

おそらくみんな同じことを考えて、それでも雰囲気というものに流されて何も言えなくなってしまうのだろう。

ならいっそ、ド直球にいくのが正解ではなかろうかと考え、脳が否定意見を見出す前に本題に切り込んだ。


「そういえば、何か具体的に何がしたいとか考えてきた?」


 前に座っている女子二人の反応を背中に冷や汗をかきながら待つ。

 待つという言葉が不必要なほど、二人はすぐに女子トークを止め真剣な顔になった。

やはり、俺たち三人同じことを思っていたようだ……そう! 時には空気は読まないほうが良いことがあるんです! 時には、時には……ね。


「まぁ、少しは調べてきたけど……」

「実際に自分たちにできるかの判断が難しいですよね」


 宝生先輩は気まずそうに顔を背け、佐倉さんは机に上半身を預け答えた。

ですよね〜

 急に真剣な顔になるから何かいい案があるのかと勘違いしたわ。


「確かに、そこは顧問の斉藤先生に聞いてみないと聞いてみないとわからないな」


 宝生先輩が顔をしかめ、次に取るべき行動に対しての嫌悪感をあらわにしてきた。

 だが、ここで引き下がっては計画がいっこうに進行しない。

 男は時に非情にならなければいけないのだ!


「宝生先輩、これから……」

「いやよ」

「俺と一緒に……」

「あ〜あ〜聞こえな〜い」

「斉藤先生のところにいきましょう」


 最後は語気を強めて言い切った。

 途中、耳を塞ぎ抵抗していたが言い切ってしまえばこっちのもの。

 俺は宝生先輩の隣、我関せずとスマホをいじっている佐倉さんに目を向けた。

 こちらの視線に気づいたのかスマホから目を離し、顔を上げた。

 俺は目で佐倉さんに訴える。


 『顧問に対して興味を示して』


 目線の先の相手は表情を一切変えず、軽蔑の目線を向けてくる。

 これが俺の伝家の宝刀二本目、他力本願である。

 誰でも使える手軽さにも関わらず効果は絶大、最高の武器である。それに使いすぎると友達がいなくなり静かで落ち着いた生活がおくれるオプション付き。

友達がいなくなるまで使用回数の制限なし、これは便利!

 佐倉さんは俺から目線をはずし、宝生先輩を見る。


「雪先輩、私まだ顧問の先生に会ったことないんですよ」


 小動物のような可愛らしさと健気さが合わさった目を宝生先輩に向けながら続ける。


「挨拶したいんですけど相手は先生ですし、他に用事もないのに一人でいくのは気が引けるんです」


 次に何を言われるか悟ったのか、宝生先輩はそわそわと取り乱し始めた。

 その素振りを見て、一瞬だけ口元をニヤっと歪ませるとすぐに小動物のような雰囲気を纏い直す。


「だから、顧問の先生のところに行くのに付き合ってくれませんか?」


 最後に少し涙ぐんだ表情で顔を近づけることを忘れない。

 さすが、外面だけなら理想の後輩だ。ここまで健気さを見せつけられたら母性が刺激されて嫌なことでもやってあげたいと思ってしまうだろう。


「は〜、仕方ないわね」


 宝生先輩は何かを諦めるように大きく息を吐き、承諾してくれた。

 俺の時は話始めてすぐに否定されたのに、佐倉さんにだけ優しくないですか? 宝生先輩? 俺の方が後輩歴長いんですからね! ね!


「なら早速、職員室にいきましょうか」


 そう言って椅子から立ち上がり、職員室に向かう。


「何で、そこまでして宝生先輩を連れて行きたかったんですか?」


 歩きながら小声で佐倉さんが質問してくる。 


「男の俺だけで行っても絶対に相手してくれないからかな」


 俺の言っている意味がわからなかったのか不思議そうな目を向けてくる。

 人の性格を正確に言葉で表すのは難しい。これから会いに行くのだから実際に体感してもらう方がいいだろう。

 ただ、これだけは言っておかなければならない。


「佐倉さんも気をつけた方がいいよ。情熱の方向性を間違ったような人だから」


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