恐怖とは人間の心理を縛り上げ、冷静な判断を失わせるものである――といえば大勢が頷くことでしょう。しかし人間というのは同時に、非科学的な、一見すると非合理的な選択に捉われる者を外部から嘲笑する生き物でもあります。「あんなインチキに騙される奴の気が知れない」というわけです。
水に「ありがとう」と言い続ければ美味しくなる、などという話はその典型で、信じていると口にすれば滅多打ちにされるに違いありません。どこからどう見ても似非科学、単なる出鱈目に過ぎないのですから。
口裂け女、都市伝説という題材は、それに比べれば多少なりロマンがあって、面白半分に信じたくなる気持ちは理解できなくはありません。しかしこの物語において、両者は並列されています。人間の心を縛り上げ、自由を奪い去るものの象徴として。
現代における呪いの恐ろしさはここにあると思います。呪縛され、健全さを見失った精神が立ち直るのは、容易なことではありません。「私」と「妹」にかけられた呪いは、ふたりの一生を支配しても有り余るような、強大なものでした。
呪術者を撃退すれば解ける、といった明確な仕組みを、現代の呪いは有していません。だから姉妹は、自分たちを縛る「嘘」と向き合わざるを得なくなります。決して届かない願望と、歪な想像力と、恐怖による思考停止の結晶体を打ち破って、自分たちの現実へと脱出しなければならなくなるのです。
苦痛をぶっちぎり、残酷な真実を見据えてなお、先に進もうとする者たちの勇気が、ここにはあります。傷だらけの、しかし美しく力強い物語です。