第7話 癒やしの奇跡
「いただきまーす!」
オーイツもいつの間にか席につき、ナッツの元気な発声と共に、スプーンでスープを飲みはじめる。
スープとパン。
えらくシンプルな朝食だが、田舎(レージが勝手にそう思ってる)にしては整った食事なのだと思う。
野菜の甘みが出た優しい味のスープだ。
肉の脂がスープに溶け出してまろやかさを表現している。
肉自体も香草によって臭みがなく、絶品とまでは言えないがとてもおいしい。
対照的にパンはとても固く、単体ではとてもおいしいとは言えない。ただ、スープに染み込ませることで柔らかくなり、おいしく食べれた。
「ナッツ、魔法合宿はどうだったんだ?」
オーイツがナッツに聞く。
どうやらナッツが昨日牧場におらず、今朝帰ってきたのは魔法合宿というものに行っていたかららしい。
魔法合宿は、近くの村の魔法協会が主催している魔法強化を目的とした合宿で、同年代の子たちで寝食を共にし、魔法を切磋琢磨させることで人間としての育成も兼ねているそうだ。
「楽しかったよ!」
年齢相応の受け答えに、ヘンタイさん呼ばわりされたことも忘れてレージは和む。
「火と土属性はDで、風と水属性がEだった!」
そうかそうかとオーイツが頷く。
「じゃあナッツは火か土が得意な属性なのかもしれないな。火属性なら俺とテルと一緒だな!」
「うん! あたし火がいいなぁ」
「えー、みんな一緒じゃつまらないよ」
「あたしはお姉ちゃんと一緒がいい!」
家族の会話が弾む。
その雰囲気にレージも優しい気持ちになれた。
「そういえばね、あたしね、癒し魔法の適正あるって!」
オーイツとテルが同時にスプーンを落とした。
カランカランと木と木がぶつかる音が木霊する。
異様な沈黙が食卓を支配する。
「お、お父さん、今の聞いた?」
「お、おう。まさか、うちの家系から癒し魔法の適正者が出るとは……」
二人とも驚きすぎて呆けている。
「ねーねー、すごいでしょ?」
オーイツとテルは同時に勢いよく立ち上がり、そして同時にナッツを抱きしめた。
「すごいなんてもんじゃねーぞ! こりゃ、今夜は盛大に祝わなきゃな!」
「ナッツ! 本当にすごいよ!」
そこまでのことなのだろうか? そんな人生勝ち組決定! みたいな雰囲気になるほどのことなのか?
唖然とその光景を見ていたレージは、先ほど説明を受けた癒し魔法が使えることのすごさにちょっとした疑問がわく。
「癒し魔法が使えるっていうのは、そこまですごいことなんだ?」
水を差すようで悪いかなと思いつつ、聞かずにはいられなかった。
「うん、さっきもちょっと説明したけど、癒し魔法が使えるのは限られた人だけなの。具体的には100人に1人って言われてるんだよ。癒し魔法が使えると医者にもなれるし、軍医として国に仕えることもできる!」
「俺たちみたいな貧乏牧場は、牧場の運営だけじゃ裕福な暮らしはできねぇ。もちろん稼ぎが入るのはまだまだ先だが、将来安泰って考えりゃ祝わずにはいられねぇってこった!」
興奮したテルとオーイツが乗り出して来て説明してくれる。
それに対してレージは改めて、この世界が生まれ持った才能によって人生を変えてしまうものなのかと、ちょっと冷静に考えてしまう。
癒し魔法は特別な一握りの人間にしか使えない奇跡だと言う。
すぐそこにいる奇跡がえへへと無邪気に笑い、でもそこにいるのはただの少女であることを思い出す。
「ナッツ、おめでとう」
レージの口からも素直な言葉が出た。恵まれた人間への祝福だ。
ナッツもまんざらではない様子で、嬉しそうにはにかんでいた。
なんとなく本当に漠然と、この剣と魔法の世界において、レージはこの癒しの奇跡の世話になるんだろうなと思った。
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