だから天使が嫌いなんだ

第1話 天使が嫌いになった日

自分が生まれてきた意味を考えてみる。


単純に生物が子孫を残したという自然なことなのに、生まれてきた意味を考えてしまう。ダメ?


自分の名前の意味を考えてみる。


偲(シノブ)という俺の名前は、その字の通り人を思うという意味なんだろうけど、名前に合った自分になりたいなんて思うこともなかったし、これからもそんな人間になろうなんて思うこともない。


表に出している感情はいつも自分の本心ではなく、その場にいる人や環境に合わせてコントロールしているものだし、本心をぶちまける事や理想とされる良い言動や行動が、他人評価の「素直」という表現になる意味もよくわからない。


小さい時の自分。


ボロッボロのアパートに母と父と住んでた。弟と妹も生まれたあとは、家族5人で暮らしてた。あまり覚えてないが、借金取りが差押さえに来たり、父が重度の精神障害だったから、おかしくなって殺されかける人を見たり、兄弟が風呂の水に顔を押し付けられてたり、車で出掛けてる時に狂ったようにスピード出して車から煙出たり、真冬の雪山の旅館で、俺と妹と父で泊まりに行ったら、後に聞くと心中しようとしてたり色々あった。


そんなこともあって当然のように、アパートの他住人や上っ面での付き合いをしている知人からは、あそこの家と関わるな的な雰囲気を感じていた。アパートでみんな集まって田舎によくあるイベント的なものも、形では参加していることもあったが、違う視点で見られてるのもわかってた。逆にこっちが気を遣ってた。


でも、俺にとって全ては普通の事で、悲しい事はたくさんあったけど、幸せになりたいとはあまり思わなかった。むしろそんなの考えてる暇もなかったのかもしれない。だから、父の事を恨んだりもしてなかったし、母さんが大変だとも思ってなかった。


思い出すと不思議な感覚が今でも蘇る。自分の中での黒い過去でも何でもなく、ただの普通の幼少期の思い出。


大人になるにつれて普通じゃないという事には、もちろん気づいた。神様が本当にいるなら、自分はなにかの罰でも受けて生きてかなきゃならない人間なのかな?とも思った。


俺にとっての良い日は、一瞬だけでもあった小さい頃の家族で笑い合える瞬間だったのかもしれない。それは、天使が一瞬だけ間違ってくれちゃった時間だったのかな。


きっと天使は、いつも幸せな場所にやってくるんだろう。反対に悪魔がいるなら、絶望や不幸をたくさん見ている分、俺を理解してくれる存在なのではないかと思っていた。


自分の本音を言わない事や、人の顔色や言動、視線などをみながら読み取ろうとする癖も、小さい頃から今でも変わらない。


天使の話をはじめて聞いたのは、父がカトリック教会に行くようになって、聖書の話を聞かされた時だ。まだ小学生になったばかりくらいだったと思う。


そして、日曜に教会に連れて行かれた。そこで子供だけ集められたとこで、みんな箱を渡された。この箱の中を見ちゃいけないけどできるかな?的な内容だったと記憶してる。


そこで、俺は箱を落としちゃって、中身ひっくり返した。中に何が入ってたかは今も覚えてない。でも、その後に先生役みたいな人から、箱の中は見ずにちゃんと持っていられましたか?と1人ずつ聞かれて、俺は下を向きながら「見てない」と答えた。それ以降、教会には行かなかった。


どうしてそう答えたのか。あの時、落とした瞬間に、あーっというみんなの声と、気まずい雰囲気をすごく感じて、1人ずつ聞かれたときにめんどくさい流れにしないようにしようと思ったんだ。見てないと流したほうが、この場の大人も子供も、まぁいいやとなるだろうと。今でも覚えていて気持ち悪い感じで残ってる。自分も、もういいやって思ってた。


天使なんて嫌いだし。

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