花も恥じらう乙女と呼ばれて幾星霜、自分に恥じらっていた花も気が付いたらいなくなっていた

@GIYANA

第零話:転生先で貴族令嬢として誤発注された


 ルカンティナ公国。


 公爵の地位を叙された4大貴族が支配する専制国家。


 その四大貴族の一門、司法の頂点であり法の番人、司法王ユト公爵家、その当主タダクス公爵と妻レラーセ率いる一門。


 今日はユト公爵家にとって一大イベントの日、普段多忙な家族達だがこの日ばかりは全員が揃い、ルカンティナ聖教会へ赴いていた。


「ルイネよ」


 タダクス公爵は大聖堂で娘である私、ルイネに呼びかける。


「はい、お父様」


「お前は、今日17歳になり大人の仲間入りを果たした、そして大人になるということは名誉ある「自分の名前」を名乗ることができるようになったということだ」


 タダクス公爵はここで頭を上げて目頭を揉む。


「思えば、始めてお前を抱いた時、この世にこんなにも美しい天使がいるものかと思った、初めての女の子、これは妻に日々虐げられ、尻に敷かれた甲斐があったものだと」


「貴方」


「ビクッ! まあそれは置いておくとして、これより、聖教会において主神ルカンティナと神に仕えし教皇猊下立会いの下、命名式を行う」


 ここで教皇が中央に立ち、私以外の家族がルカンティナ神の偶像に跪く。


 命名式。


 ルカンティナ国では自分の名は自分を表すものとして神聖視されており、貴族社会では名前を決める時には全て主神ルカンティナに報告する命名式を経て名乗ることとされている。


 そして名前の名乗り方についても厳格な規定がある。


 一番初めに名乗るのは、自分を生み育み愛してくれた両親が付けてくれた名前。


 次にその育ててくれた両親の名前。


 最後に先祖に敬意を払う意味での始祖の名前を名乗る。


 だがルカンティナ公国の貴族社会の間ではまだ「子供の名前」なのだ。


 子供から大人への境界線は、17歳の迎える年の建国記念日の日とされており、その日から大人の名前を名乗れるようになる。


 大人の名前とは自分の名前を自分で付けて名乗れるというもの、両親がつけてくれた名前よりも先に、自分の名前を名乗れるようになるのだ。


 当然一生の問題であるため、様々なやり方で決めた人物がいる。運命と悟り占いで決めたり、好きな言葉や古代言語から取ったり、みんな必死で死ぬまでに誇れる名前をつけるのだ。


 既に私は、自分の名前を考えていて両親に報告し、教皇猊下から認可を受けた。


 それを主神であるルカンティナ神に報告する、それが命名式なのである。


 教皇猊下が目を閉じた私の額に手をかざし、長々と祝詞を読み上げると場が整う。


「ルイネ、貴方が決めた名前を、ルカンティナ神に報告しなさい」


 私は目を開けると、ルカンティナ神の偶像を見上げ、その名前を報告する。



「キョウコ・タチバナ」



 私の声が響き、その名前をかみしめるように教皇猊下が頷く。


「キョウコ・タチバナ、不思議な響きですね、この国の言葉でもなく、外国的な響きでもない、ですが名前として相応しい響きが確かにあります、その名前の由来をここに述べなさい」


「はい、私は5年前の大病を患った夜に不思議な感覚に包まれました、それはまるで時と場所を超越したような、そんな感覚でした、ひょっとしてそれは夢だったのかもしれません、ですがその夢に包まれた時、この名前を授かったのです」


 私の報告に教皇猊下は笑顔で答える。


「これはまさに天啓、貴方が述べた時と場所を超越した5年前の大病を患った日、治癒は不可能であったと名医が診断した中で果たした奇跡的な復活は、ルカンティナ神のお導きでしょう。さて最後にこれから名乗る、貴方の名前の名乗りを上げなさい、それをもって命名式を終了とします」


 私は再びルカンティナ神の偶像を見上げると名乗りを上げる。


「我が両親から与えられたルイネ、父の名前であるタダクス、母の名であるレラーセ、始祖様の名であるユト、そしてキョウコ・タチバナ」



「私の名前はキョウコ・タチバナ・ルイネ・タダクス・レラーセ・ユト!!」



 私の声が響き、教皇猊下の合図をもって家族全員が立ち上がる。


「これからも貴族として国家に尽くしなさい」


 教皇猊下の言葉で命名式が終わり、タダクスが教皇に礼を言うと私の頭を撫でる。


「さて、いよいよ次のお披露目会で大人として初めの社交界デビューだな、だが私は心配だよ」


「心配? 子供とはいえ社交は今まで何度も参加しましたのに?」


「それこそ子供だったからだよ、大人になれば恋愛が認められるだろう、だから私は心配だ」


「まあお父様、私はちゃんとわきまえておりますわ」


「もちろんわかっている、お前は外見は妻に似て美人に育って本当に良かった、中身は妻に似なくて本当に良かった」


「貴方」


「ビクッ! ごほん! つまり心配とは妙な虫が付かないかどうか心配なのだ! いいか愛する我が娘よ、妙な男が近づいて来たらユト公爵家当主、タダクスの名において実力行使で排除することを許可するぞ!」


「クスクス、お父様ったら、分かりました、変な虫が来たら実力行使で撃退しますわ」


 その横で母レラーセが問いかけてくる。


「それとルイネ(両親だけはそう呼ぶ)侍女はどうするの? 次回の社交までには採用しないといけないのだけど」


「侍女を誰にするかは私で決めます、1人はスカウトで、他は公募をかけるつもりです」


「分かりました、貴方なら一任してもいいでしょう、是非自らを高める侍女達を選ぶようにしなさい」


「はい、分かりました、お母さま」


「さて、これからお披露目の社交界の準備をしなければなりません、そして命名式の準備で貴方も疲れたでしょう、今日はこのまま邸宅に戻りゆっくりと休みなさい」





 そんなこんなで戻ったルカンティナ公国首都にあるルト公爵家の館にある自室。


「…………」


 設置されている鏡に映った自分の姿をじーっと見る。


 疲れた、か……。


(疲れなんて微塵もない! 10代の体半端ない! 肌も手入れもしていないのに肌もツルツル! 日本で30代女子としてOLやってた頃は疲れが溜まって肌も荒れていたし! そうだった! 10代って疲れって溜まらないものなのよね!!)


 とうんうんと頷く。


 私は日本で30代女子としてOLをやっていたとはそのとおり。


 命名式で名乗った自分の名前、これは別に外国風の名前でも古代言語でもない「キョウコ・タチバナ」は「橘京子」と変換する。


 私の「転生前の名前」だ。


 まあ、よくある、かどうかは分からないが私は異世界転生というやつをしたのだ。


【おめでとうございます、橘さん】


 突然脳内に鳴り響く男の声。


――「いきなり脳内で話しかけるなって何度も言っているでしょ」


【いやぁ、これで一つ、肩の荷が下りました】


――「相変わらずお前は何もしてないけどな、何の肩の荷が下りたんだよ」


 そう、事の始まりは、この脳内に響いてきた声の主、使えないイケメン駄天使の話をする必要がある。



――5年前のある日



 異世界転生する前は、私は中堅商社でOLをしていた、そんなとある夜のこと。


【目覚めなさい、橘京子】


「zzzzzz」


【目覚めなさい、橘京子】


「zzzzzz」


【もしもーし!!】


「だーー!! うっさい!! 明日朝早いからちゃんと寝とかないときついんだけど!!」


 と飛び起きたら、目の前に翼の生えた半裸の黒髪イケメン天使が目の前に立っていた。


「……誰アンタ」


【ごほん! そうですね、私の名はロルカム、そう、貴方の世界で表現するのなら】


【神の眷属である天使と言って差し支えないでしょう】


「ああそうなの、しかし半裸の美男子天使って、欲求不満なのかしら、私は枯れ専の筈なのに、まあいいや、おやすみなさい、えーっとアンタも、ほら、天界? そういうのに帰りなさい」


【え!?】


「zzzzzz」


【あの】


「zzzzzz」


【もしもーし!!】


「だーー!! だから明日はプレゼンが朝一であるから寝かせろ!!」


【ですから、用件が終わってません!!】


「用件って、何なのよもう、早く終わらせてよ、ってさ、夢の中なのに疲れるようなことをすると凄い損した気分になるよね」


【ならご心配には及びません、夢ではないですから】


「は?」


【橘京子さん、貴方は神に選ばれて異世界転生をすることになりました】


「…………は?」


【ですから、異世界転生をするのです】


「…………」


 そういえば、夢にしては凄いクリアというか、現実感があるというか……。


 異世界転生つったよね、うん、わかるよ、既に「ジャンル」を確立したと言っても過言ではない、あの異世界転生……。


「…………え? 本当に?」


【はい】


「…………」


 このクリアな感じは間違いなく現実だし、悪戯にしては手が込みすぎている。


 ん? まてよ、この唐突であり劇的な展開、それでいてさっきも言ったとおり私は枯れ専、ということは。



「つまり転生先でダンディオジサマとのラブラブ恋の話が始まるってことなのね!?」



【そこは個人で頑張ってください】


「頑張るのかよ! というかさ! 異世界転生ていうのならただ転生させるんじゃなくて特典として「チート」があるんじゃないの!?」


【もちろんありますよ】


「おおー! どういうチートなの?」


【その前に転生先について説明しますね、キョウコさんが転生する先は4人の公爵が統治するルカンティナ公国です。世界有数の大国で文明レベルはこの世界の歴史では中世レベルですね。政情は安定しており、国民は全般的には豊かで治安は高水準で保たれております】


「ふむふむ、基本を抑えているわね、それで?」


【キョウコさんはその中でその4大貴族のうちの一門、名君と名高い司法王の異名を取るルト公爵家の当主タダクスの令嬢に転生していただきます】


「貴族令嬢! いいわね、これでも若い時は憧れたものよ! だけどさ、貴族令嬢って響きは良いんだけど、色々しがらみがあって面倒くさそうなんだけど」


【まあ上流社会特有の面倒な部分はありますが、そこはご安心ください。キョウコさんの立場は4人兄妹の末っ子です。上の3人の兄たちは、それぞれに裁判官、検事、弁護士といった要職についており、結婚して子供もいます。つまりありがちな跡取りを生まなければいけなかったりといった政略結婚とは無縁の位置にあり自由恋愛が認められています。しかも当主から溺愛されているため好き放題できる上に、美人でスタイル抜群なのですよ】


「…………」


 なるほど、確かにありとあらゆる部分で基本を押さえているベタな転生物。



(じゃないわね、これは……)



 一発で分かった、このロルカムという男、話術が下手というか、ハッタリ下手だ。この天使の話し方は「説明義務」を果たしているような話し方をしている。


 そしてこの状況を考えればあっさりとその答えが出た。


 私が何が言いたいのか、それは簡単。



(こいつは嘘をついている……)



【橘さん? どうしたんです、急に黙って】


「それだけ?」


【そ、それだけって?】


「貴方が言ったチートの説明について、それで終わり?」


【そ、そ、それは、その、あの……】


「だよねぇ? 言ってないことがあるよね?」


【ななな、なんでデス!?】


「大人になると「方便」に敏感になるのよねぇ、まあそうよね、大人の世界だもの、方便は大事よ、私も使うし」


【べべ、べつに、その、あの、いきなりどうして、そう思うんです?】


「方便は「嘘は言っていないけど本当のことも言っていない」というところに妙があるの、だから今貴方の言っていることは「嘘」ではないのは分かった。何故なら「すぐにばれる嘘は嘘をついた側に利益が無いから」なのよ、つまり方便は「大人の嘘」なのよねぇ」


【そそ、そんなことは】


「だって、アンタが今言った事って、転生先を選んだのはそっちかもしれないけど、それ以外の事項については、元々あったものだからよ。家柄云々もちろんのこと、容姿も生まれ持ったものよね? つまりさ」



「チートを与えるとは言ったけど、そのチートの説明をしていないということよ」



【…………】


「素直に言いなさい、その口調だと「マイナス」ではなく「プラス」の意味ってのは分かったからさ」


【…………】


「だんまり? あのね、私は会社で対外交渉を担当していたの、甘いと付け込まれる世界よ。相手はあの手この手を使っての言い逃れや責任逃れは日常茶飯事、そこらの政治家も裸足で逃げ出すぐらいよ、私も何度痛い目を見たことか」


 との言葉で観念したのだろう、この天使は告げた。


【……与えるチートは二つです】


「二つね、前置きは要らないから、項目だけ言って」


【はい、その、一つ目は、あの、無敵の戦闘能力、です】


「…………無敵の戦闘能力? まあいい、次は?」


【…………ム】


「ん? なに、聞こえない、ハッキリと言いなさい」


【ハーレム、です】


「…………」


 ハーレム、ハーレムってあれだよね、冴えない男に美少女達が夢中とかいう少年誌では1つは連載されているアレのことだよね、だけど……。


「確認するけど、それって「美男子にモテモテのハーレム」って意味?」


【いえ、その「美少女にモテモテのハーレム」という意味です】


「…………」


 おさらいしよう、私の転生先は貴族令嬢、そして異世界転生の貴族令嬢ものと言えば、それこそこの天使が言った「跡継ぎ生まなきゃいけないとか政略結婚が必要ないといった、責任ない好き放題できる立場」が王道、若しくは「責任ある展開に巻き込まれたんだけど助けてくれるイケメン貴族登場」ってのはテンプレだ。


ってハーレムってスキルだったのかよ、納得したような切ないような……。


 まあそれは置いといて、今の二つのスキルは……。


「あのさ」


【……はい】


「どう考えても男向けよね、その二つのスキル」


【…………】


「貴族令嬢の生活にどう考えても必要のない能力よね? もちろん可愛い女の子は大好物よ、だけどそういう意味はちょっといらないかなぁ、それとも転生先は、貴族令嬢が戦わなければいけない世界で、女が女にモテるのがステータスなの?」


【……求められるのは社交界での振る舞いですから、特に】


「ふむ……」


 なるほど、この話を聞けば答えは一つだ。


「つまりミスしたってことね、転生させる者を」


【……はい】


「スキルの内容は知っていたんでしょ? 間違いとは思わなかったの?」


【間違いかもとは思ってました】


「そう思った理由は?」


【その、そもそも今回の転生の目的は世界を救う勇者を誕生させるはずだったんです。ですけどその為に与えるスキルがハーレムと無敵の戦闘能力って随分男っぽい餌……神の祝福だなぁって思ったんですよ】


【現実世界の男は、転生した際の神の祝福であるスキル「ハーレム」と「無敵」を与えれば大喜びして愚……勇者として転生をしてくれるけど、この二つじゃ女の人が喜ばないなよなぁとは思ってました】


「言い直しているのに暴言が直ってないからね! って疑問に思ったのなら何で上司に相談しないの?」


【何でって言われても、そもそもこの異世界転生をやれって言われたのはその上からですから】


「いや、だから疑問に思ったら命令事項を確認すればいいんじゃない?」


【ちゃんと確認しました】


「いやだから! 間違ってんじゃん! 確認したのに間違えたの!? なんで!?」


【いえ、ですから指示通りにちゃんとやっただけですよ、そもそもさっき疑問点があったら命令事項を確認しなさいって教わってないです】


「……ああ、思いだした、アンタ何度同じこと言っても分からないし、ミスを繰り返していた下を連想させるんだわ」


【下?】


「そうよ、そいつは直属の部下ではなかったのだけど、一応私にも別に3人の部下がいたの」


【凄いですね】


「あのね、報告連絡相談は社会人の基本中の基本。社会で働くってのはね、まずこの三つを出来るようにすることから始まるの。そしてその過程で三つのどれかを怠ってしまい失敗をして、みんなに迷惑をかけて、その痛みを学び一人前になっていくのよ」


【わかりました】


「……うん、その返事は絶対に分かってないよね、イケメンの癖に使えねえ、んでさ本来転生させるはずの勇者はどうするの?」


【それは教えてもらってないので知りません】


「……もう一つ分かった、私のこの転生先の貴族令嬢の設定とかさ、どう考えても貴方が組んだ段取りじゃないよね? この間違えたお詫びも含めた転生先は、つまり尻拭いで、その段取りはアンタの上司がしているんじゃない?」


【え? どうしてそれを?】


「リカバリー方法としてはオーソドックスな方法だからよ、ってなんでそれを私が説明するんだよ! アンタは自分の上司が自分の尻拭いしているのが分からないの?」


【上司から説明を受けていませんでしたから】


「……そろそろ殴っていい?」


【え!? 急に何でです!?】


「まあいいわ、異世界転生ね、まあ未練はないわけじゃないけど、育ててくれたばあちゃんも去年亡くなって家族もいないからね」


【助かりました、ありがとうございます、転籍先のサポートはそのまま私が担当になりますのでよろしくお願いします】


「担当変える方法はないの?」


【ええ!? いきなり!?】


「まあいいわ、アンタはとにかく私に指示されたことだけをやること、それと質問にはちゃんと答えること、その代わり責任はこっちになるようにするから」


【分かりました、それでスキルはどうしますか?】


「というか転生特典のチートに男性向けがあるんだったら当然女性向けがあるんでしょ? そっちを頂戴よ、イケメン貴族達にチヤホヤされるとか、あ、私はイケメン貴族よりもさっきも言ったダンディ独身オジサマがいいんだけど」


【あることはあるんですが、今回は男性の転生枠を使っている関係上使えないんですよ】


「そういう融通は利かないのか、うーーん、わかった、だったらまずハーレムは要らない、けど無敵の戦闘能力は貰うわ」


【え?】


「単純に体ってのは大事よ、強いに越したことはない、五体満足で病もなく生んでくれたことは間違いなく親に感謝をしなければいけないことだからね」


【なんか、実感こもっていますね】


「まあ、生きていくと色々と悟ることもあるのよ、まあチート云々は抜きにしても、貴族令嬢で美人でスタイル抜群みたいだから、それで納得、上司のメンツを立てましょう」


 と言い終わったその時だった。


【ご理解とご配慮感謝いたします、橘さん】


 違う声が聞こえてきたと思ったら、横に同じように翼が生えたダンディなオジサマが舞い降りた。


(やだ! 超タイプ!)


【私は上司のリストと申します。この度は本当に申し訳ありませんでした、ロルカムの非礼をお詫びします】


「とんでもないです! 私も部下のフォローをしていて、苦労が分かりますから!!」(ウルウル)


【はい、ロルカムは決して悪い奴ではないのですが、ちょっと抜けていて】


「いいえ! それを一人前にするのが仕事ですものね!」(クネクネ)


【よかった、何かあれば何でもおっしゃってください、ロルカム、今後は報告と連絡と相談をちゃんとするようにね】


【わかりました】


「あの、リストさん」(ブリブリ)


【なんですか?】


「その、ご結婚しているかどうか伺っても?」(上目遣い)


【はい、愛する妻がおりますよ】


「あ、そっすか、お疲れっした」(素)


 不倫は勘弁っす、そうなんだよな、大体売れているんだよなぁ、そこが難しいところだ、くそう、女性向けなんだから、そういうスキルこそ寄越せっての。




――現在




 そんなわけで、現在に至る。


 転生先に偽りなしで面倒な責任は一切なし、美人でスタイルは良いことも事実だった、んで今回、後の社交の開催の段取りは父親が組んでくれるから面倒なあいさつ回りぐらいだ。


 そして迎える大人になって初めてのお披露目会は、大人になれば恋愛が認められるため周りから美人だと噂されているから私のことを狙っている紳士もいるとか、おおう、転生前じゃ干物女だった自分としては気持ちいい。


 んで大人になるというのは、責任は重くなるが自立と自由を得られるようになる。


その為に自分の名前を名乗ることができる他にやることがいくつかありお披露目会もその一つだが、別に自分専属の侍女を雇うといったものがある。


 というのは貴族の女性は、侍女達と合わせて一つの活動単位として見られるからだ。私は侍女たちの上司としての立場、つまり私は部下を抱えるという意味になるのである。


 貴族の侍女として振舞う訳だから当然誰でもいいわけではない、その侍女を選定し、管理することは貴族の女性の大事な仕事の一つなのだ、これで上流での自分の裁量が問われるのだから。


 そして母親に申告したとおり、侍女たちは私の一存で採用することになった。


 結果、採用した人数は3人、期せずして転生前と一緒、なんか感慨深い。


「終わりました、とってもお綺麗ですよ、キョウコお嬢様」


 というのは侍女長、名前はリズエル・ベール。


「ありがと、本当に丁寧な着付けよね、こういったきめ細やかなことが出来るのが貴方の良い所よね」


 社交界で身に着ける貴族のドレスは1人で着れるようにわざと作られていない、それは侍女達が着させてくれる身分の証として作られているからだ。


 その横でもう一人の侍女が私に報告する。


「キョウコお嬢様、招待客のリストの件については頭に入っております、挨拶する順序については、私に聞いていただければ把握しておりますのでご安心ください」


「助かるわ、貴方は本当に有能よね」


 彼女の名前はトオシア・パルスコフィン、私の秘書及び対外折衝担当だ。


 最後の1人が慇懃に私に頭を下げる。


「荒事についてはご安心を、お嬢様の身は私が守ります」


「ふふっ、そこら辺の男よりもよっぽど頼もしいわ」


 彼女の名前はラニ・ストラドス、私のボディガード役だ。


 以上3人が私が選んだ侍女達、彼女たちの詳しい紹介はおいおいするとして。


「さて、行きましょうか、大変だろうけどよろしくね」


 と大人になって初めての社交界デビューを果たしたのであった。


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