先読み!委員長
詩月みれん
先読み!委員長
うちの学校の図書館は、生徒からの本の寄贈を受け付けている。
ただし、受け入れるかどうかには審査があって、図書委員長もその権限を持っている。
今日は、どうしても置いてほしい本があって、図書委員長に渡しに来た。
図書委員長は才色兼備の読書家で、密かに校内の人気を集めている人だ。
「このミステリー、すっごく面白かったので是非入れてください! もしダメそうでもちょっと読むだけでもいいんで!」
「ええ」
図書委員長は本を受け取るとすぐ裏返して、裏表紙からめくり始めた。
「ええっと、委員長ってあとがきから読むタイプですか? でもその本、あとがきは無くってですね……」
「いえ、犯人が誰か知りたいと思って」
「いやいやいや! やめてくださいよ!」
「どうして? 犯人が分かってからの方が楽しいじゃない」
「誰が犯人か予想するのが楽しみなんじゃないですか?」
「名探偵より先に犯人が分かっている優越感を感じながら、高みの見物をするが楽しいのよ。あーあ、こいつ探偵のくせにミスリードに引っかかってやんのwwwwって」
「委員長性格悪い! あ、でも、そういう楽しみ方が出来るミステリーはあるんです。ドラマの古畑任三郎とか刑事コロンボなんかは、犯人を最初に提示してから始まる作品で……」
「あら、テレビには詳しくないから知らなかったわ。でも、そうなら他の視聴者よりも早く知っておきたいから、早送りして最後のシーンを見てから最初に戻ることにするわよ」
「うーん! 古畑任三郎の犯人連行にエンドロールが重なるシーンは毎回いいんだけど! そこだけ最初に取り出して見られましても!」
「何もミステリーだけに限ったことではないわ。最後から読むのは」
「そうなんですね……」
「どんでん返しが売りの作品だったら、その『どんでん返し』こそが作品の肝なんだから、まず確認しなくっちゃね。『最後の一行にあなたは涙する』なんて帯に書いてあったら、私は最後の一行を最初に読んで、泣けるかどうか確認するわね」
「絶対泣けないでしょ、それ……」
「でも、オチだけ最後に知っておいた方が効率がいいでしょ。それに私みたいな、本を入れるかどうか確かめる立場の人間だと、一冊ずつ読むわけにはいかないもの。どんな本なのか、ざっくりとでも先に知っておく必要があるし」
それはそうだった。図書館にはたくさんの本がやってくるし、大量のリクエストが来るのだ。一冊ずつ目を通すわけにはいかない。
そっか。そうだな。この本だってそうかもしれない。最初の一行だけでも読んでもらえると思った自分が、甘かった。
「でも、この本はうちの学校の生徒が書いた本だから受け入れる予定だけどね」
「ええっ!?」
「この本、あなたが書いたんでしょ?」
「そ、そうです。その通りです。でも……」
「どうしてかって? あなたの期待に満ち溢れた顔を見れば、想像がつくわ。ただの面白い本なんじゃなくって、作者の渾身の作だってね。それに、この本の発行日が随分先だから、こんなに早く来ているのなんて、見本誌なんじゃないかと思ったわ」
委員長は本の奥付を指さした。やられた……。本を読まれたら、ひょっとしたら自分が作者だということに気付かれるかもしれないと思ったけど、まさか本を読む前に気付かれるなんて。
でも、このまま委員長に読まれないまま本が置かれることになって良かったのかもしれない……。この、駄文を。
「ペンネームが使ってあるということは、あなたが作者だってことは伏せた方がいいかしらね」
委員長が確認した。
「……そうしてください」
「分かったわ。そうよね、私への公開恋文が書かれているなんて、恥ずかしいものね」
「がはああああっ?」
バレた。前書きに「美しき委員長に捧ぐ」とか書いちゃってたり、主人公の探偵のモデルを委員長にしちゃってたり、そういう恥ずかしい文を読まれる前に――!
「どこまで先読みするんですか、委員長……!」
「そうねぇ。この小説、『先読み!委員長』の語り手であるあなたが、一人称をこれまで使っていなくて、実は女の子でしたーっていう百合オチまで分かっているわ」
委員長は突然おかしな話をした。確かに、ここは女子高だし、わたしは委員長に恋する女子だけども。
「そこまで先読みするなー!」
という怒った声が天から聞こえたような気がした――。
先読み!委員長 詩月みれん @shituren
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