今さら天使とかやる気ないんで。

篠由

ーーー



「――いいえ、人違いですよ」


 一瞬の溜めもなく、眸の揺らぎも声の震えもなくそう言い放った少女は、平淡な声で退室の挨拶を述べて踵を返した。

 動作に合わせて空気に膨らんだ髪は艶やかなダークブラウン。日本人にはごくありふれた髪色だが、手入れが行き届いているのか美しい。

 顔立ちは美少女と言って差し支えない。

 くっきりとふたえの線が通ったアーモンド型の大きな眸や、薄くて形もよく

薄紅に色づく唇。

 線は細いが身長は意外にある。

 真新しい制服に包まれた肢体はまだ発展途上、と言ったところ。

 少女の名を、緋上杏樹ひのえあんじゅと言う。

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