012

ガロスとネメリーの2人は冒険者ギルドを出て少し歩くと、大通りを曲がって細道に沿って進んでいく。そしてある建物の前に立つと、ネメリーは扉に手をかざした。




『我を読め』




 パァっと淡い光が一瞬浮かび、ガシャっと鍵の回る音がする。


 中に入ると家具の少ない部屋が出迎えてくれた。十畳ほどの広さを持ち、清掃はしているものの、あちこちに砂埃が混じる床。木製で飾り気のない簡素な大テーブルひとつと椅子が四脚あるだけのさっぱりとした部屋だった。奥にもうひとつ扉があり、そちらは寝室になっている。


 ガロスとネメリーは適当に椅子に腰かけ、そして互いに顔を見合わせると沈黙を破るかのように笑った。




「あーあ、あいつら大物だな」


「まあ、無知であることは知っていたけれど、あなたを見て怯えない人たちを久しぶりに見たわ」


「ほんと、見た目まだガキだが面白いやつらだ。あいつが気にかけるのも納得だ」


「あれだけ落ち着いて考えられれば充分でしょ」


「ああ、あのマコトとかいうヒョロいガキ。初めはビビってたが、お前がそこそこと言った瞬間に周りの反応を見てたぜ。それからは俺らがまともでないこと気づいたうえで接してきたし、ほかの奴らも抜けてるようでそうじゃねえ。マコトの反応から一瞬にして切り替えた」


「あれなら、私たち必要なかったかもね」




 彼ら『白牙』はこのベトナーゼ皇国の中でもSに近いAランクのパーティーだった。世界にSランクは両手で数えられる程度しかいないなか、このパーティーにもひとり所属している凄腕集団だった。先ほど面識のある騎士からそれとなく様子を見てくれないかと頼まれたのだ。彼が気にかけているという時点で、2人は興味が湧き、マコトたちに声を掛けたわけだ。




「ところで、お爺さんたちはまだのようだけど……」


「どうせチビに付き合ってんだろうさ。帰ってきたばかりで腹が減ってんだろうから」


「そうね。しばらくはゆっくりしたいわ」




 ネメリーはため息をついた。




「まったく、大暴走なんて滅多に起きないってのに……」


「奴さんらがほとんどもってっちまったからなぁ。俺らは稼ぎギリギリだったからまだいいが、他の連中は赤字もいいとこだろうさ」




 黒い集団を思い浮かべながら、2人は重い息を吐いたのだった。




    *




 白牙の2人が離れていったところで、マコトたちは受付に並ぶ。


 ほどなくして、マコトたちの番がやってきた。




「お待ちしておりました」




 驚いたことに、窓口にはにこりと微笑んだミンスさんがいた。


 受付嬢はそれぞれ固定じゃないんだなと思い、マコトはお礼から入った。




「先ほどはありがとうございました。それでミンスさん、さっそくですが10番、22番、37番の依頼を受けたいのですが、大丈夫ですか?」




 マコトの問いに笑顔で頷いた。




「問題ございません。どれも無期限の依頼ですし、むやみに狩りに出るより安全です。ところで皆さま、先ほど説明しておりませんでしたがパーティーを組まれてはいかがでしょうか? パーティーは6人まで組むことができます。同じ依頼を達成してもらった場合、全員にランクポイントを贈呈いたします。その代わりに報酬が分配されますが、安全性を考慮するとひとりよりはるかに安全です。そして、パーティーに所属していてもひとり、もしくは複数で依頼を受けることも可能です」




 確かに、その話はしていなかった。


 マコトは3人に目配せすると、全員頷いてくれたのでミンスさんに向き直る。




「はい、僕ら4人でパーティーを組もうと思います」




 もし彰がいたとしたら、受け入れられるように空けておかなければ。




「畏まりました。では、パーティーを作るうえで、どなたがリーダーを務めますか?」




 振り返るも、じっと見つめる視線が3つ出迎えてくれた。


 はあ、とため息を吐くと、マコトはしぶしぶ手を挙げた。


 それにミンスさんはくすりと笑い、大変ですねと励ましてくれた。




「はい、マコトさまですね。では、一度皆さんのギルドカードをお預かりいたします」




 各自カードを取り出し、ミンスさんに手渡した。


 少々お待ちください、と言ってミンスさんは机の下にもぐっていく。


 そしてすぐに戻ってきた。




「お待たせをいたしました。皆さまをパーティーとして登録いたしました。併せて依頼も受理いたしましたので、外へ出ていただいて結構ですよ」




 仕事が早い人だ。


 カードを受け取ると、新たに横にリーダーと書かれ、下にメンバーの名前が書かれていた。




「ありがとうございます。では、行ってきます」


「はい、お帰りをお待ちしております」




 ミンスさんは明るい笑顔とともにマコトたちを送り出してくれた。

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