延命料金

@zakuro0307

プロローグ

これはかつて私が渇望したものであり、そして忌避し恐れ続けたもの。


「――何、やってんの。……逃げなよ。」


私の腕の中で苦痛に顔を歪める少女が声を絞り出す。

腹部に貫通したその穴は私を庇ってできたものだ。

そこからコンクリートの冷たい床へと流れていく生暖かい赤い色は彼女の生命そのもの。

彼女のおかげで傷一つ追わなかったはずの自分の全身から、サァっと血の気が引いていくように感じる。

罪悪感、焦燥感、恐怖、不安、混乱……そんな感情が入り混じった涙が込み上げてきている私に向かって、彼女は強がるように笑って見せた。


もしもこれがもっと早い段階――それこそ私たちが出会ってすぐの段階で発生した出来事だったのなら私は彼女の事を置いて逃げていたかもしれない。

そもそも彼女が私を逃がそうとするような発言をすることもなかっただろうし、何よりもまず私を身を挺してまで守ることもなかっただろう。

出会って間もない、親しくもない人相手をそんなに必死になってまで守ろうとは思えないから?

そういう思いも多少はあるかもしれないが、私達に関してはそれどころの話ではない。

私達の関係はゼロからのスタートではない。マイナスからのスタートだといっても過言ではない。



彼女は何人もの人間を殺してきた残酷な殺人鬼。


私は彼女に目をつけられた被害者のうちの一人。



ずっと、彼女から解放されることを望んでいた。助けてほしいと願っていた。

彼女に目を付けられたのが私ではなくあの子だったなら、なんて残酷なことを考えてしまったこともあった。

けれど今は、彼女こそが私を助けてくれた救世主であり、何にも代えがたい大切な友人になっていた。

もちろん彼女が犯罪者であると知っていながら、心から彼女を友人と呼んで警察にも何も言わないなんてよくないことだとはわかっていたけれど。


「……ねぇ、……頼むから、守らせ、てよ。」


だけど、そんな凶悪な殺人鬼である彼女だけが、私の味方になっていた。

彼女だけが、私にとって唯一心を許して話し合える友人になっていた。


嗚呼、神様。教えてください。

私はこんなにも長く苦しむ罰を受けなければいけないほどの罪を犯してしまったのですか。

そうだとしたら、その罪は一体どこで発生してしまった罪だったのでしょうか。

私はどうすればその罪を生きているうちに全て贖うことができたのでしょうか。


……私はどうすれば、幸せになることができたのですか。

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