孤児を拾ったら魔術の天才でした

月夜桜

第1話 邂逅

「くそっ、流石にこれだけの数を剣術1つで相手するのは処理しきれないぞ……。それに、近接戦になっては少女を危険に晒しちまう……」


 今、俺の後ろには一人の金髪の少女。そして、俺の周りには様々な武器を持った武装勢力が居た。


「こいつら、全員暗殺者スイーパーか? だとしたらこいつは一体何者なんだ……?」


 そんな事を考えていると暗殺者共が銃弾を撃ち放って来た。

 どうする? 少女が襲われているのを見て思わず身体が反応したが……。


 ──慶伊、自らの命を優先しろ。命とは、尊いものだ。


 ──だがな、慶伊。魔術師とは、自己本位なものだ。


 ──だからこそ、慶伊。お前がやりたいように、お前の心が望むままに、後悔のないようにすればいい。


 だから、父さん。俺は、例えここで死のうとも、俺がやりたいようにやる……!


「ふん。こいつが何処の何奴かなんて関係ねぇ。俺はやりたいようにやる。だから、お前らにこの世の奇跡というものを見せてやる」


 俺はそう言い放つと水色の宝石と黄色の宝石を取り出して呪文を紡ぐ。


「《術式高速起動フォーミュラ・イミッド・ロード》」


 その瞬間、宝石にそれぞれ刻まれていた使い捨ての簡易術式が起動し、水の壁が弾丸を受け止め、荒れ狂う紫電が暗殺者達に襲い掛かる。


「こんなもんじゃねぇ」


 そう言いながら魔力伝導率がほぼ百パーセントである真銀ミスリルで出来たナイフを〝何でも入る亜空間収納〟から千本程取り出して投げ上げる。


「ショータイム……と言ったところか?」


 首から下げていた魔宝珠を握り締め、こう唱える。


「《閃槍よクーガル──踊れタンズ》」


 それぞれのナイフの前方と後方に魔術式が出現。後方の魔術式は圧縮空気を爆発させて猛烈な勢いでナイフを射出。

 前方の魔術式を通過すると、ナイフは光を纏い、光線の雨となって敵に降り注ぐ。


「もう二度と俺の前に現れるんじゃねぇぞ」


 そして、和歌うたを歌うようにして呪文を紡ぎあげる。


「《常闇に・輝く花々・蝶となり・今一度ひとたびの・栄華を魅せる》」


 和歌の通りに概念が捻じ曲げられ、事象が改変され、周りに花の蝶が飛び回り、これまでの攻撃で死ななかった暗殺者達の意識を刈り取っていく。


「これが魔術だ。……っと言っても、大したもんじゃないが。……はぁ。流石に、怖がられてるだろうなぁ」


 ちらっと後ろを見る。

 そこには、涙を浮かべながらも目をキラキラさせている少女の姿があった。


「なぁ、お父さんやお母さんはどうしたんだ?」


 前を向きながら少女に語り掛ける。


「わたしは……おとうさまとおかあさまに……すてられました」

「──ッ!?」

「……わたしのみぶんをしめすものはありませんが……わたしは、エスティリアおうこくのおうじょでした」

「廃嫡されたってことか……このまま置いていく訳にもいかねぇよなぁ……。……仕方ねぇか。おい、俺に着いてくる気はないか?」


 姿は見えないが、何処か、彼女の感情が昂つたような気がした。


「いいの……ですか?」

「ああ。魔術師としてのプライドに懸けて、俺が責任を持ってお前を育ててやる。……それに、俺が魔術を使ったの、見られちまったしな」

「──っ! ついていきます! そして、まじゅつをおしえてください!!」


 彼女はそう頼んできた。

 俺は振り向いてこう答えた。


「……いいだろう。今日からお前は、俺の……俺達一族の家族だ」


 彼女の顔に光が射したようだった。


「俺は八雲慶伊。一応、17歳だ。お前の名前は?」

「セシリア=フィア=エスティリア……いまはただのセシリアです」

「そうか。じゃあ、リア。行くぞ」

「はいっ!」


 こうして、呪われし魔術師、八雲慶伊と廃嫡されし王女、セシリア=フィア=エスティリアの生き残る為の旅が始まったのであった。

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