ピンポンずラブ
まじろ
僕と卓球と婦女子の青い春
第1話
このぼく、本田森亜(ほんだもりあ)はいわゆる“ホモ”のレッテルを貼られている...
理由は2つある。ひとつはぼくの名前。縦に書いてナイフでスパっと割ると左右対称になるこの名前。
苗字と名前の最初の1文字をとって“ホモ”。あなるというあだ名のアニメキャラがいる現在。別に普通の事に思えてくる。
そして、もうひとつは。。。
「お~い、モリア!部活やろーぜー!!」
放課後、クラスメイトの鈴木拓馬がぼくの体に後ろから抱きつく。周りからヒュー、とぼく達を冷やかす声が聞こえる。
「そうそう、これこれ」タクがぼくから離れるとカバンからラケットを取り出した。
「見ろよこれ!新しくラバー新調したの!この型は、えっと、なんだっけ?」
「ペンホルダー、だろ?」
「そうそう!そのシリホルダー?ってヤツ!とにかく体育館、バスケ部連中に取られる前に行こうぜ!」
ぼく達はみんなの視線を背に教室を出た。そう、ぼく達は卓球部員なのだ。
ぼく達が所属するのはT県 仲田市 向陽町にある 穀山中学校卓球部。
顧問は1年・2年担当の国語教師、竹岡総一郎。練習日は月・火・金の週3日。活動の最大目標は9月1周目に行われる全国中学校卓球大会、略称「ゼンチュー」に出場すること。
でもウチは頑張ってるけど弱小校で、ここ3年間の地方予選では初戦負けが続いている。
「あちゃ~もうバスケ部にハーフコート取られてるよ~」
一足先に体育館のドアを開けたタクが宙を仰ぐ。ぼくが中をのぞくとすでにビブスを着けたバスケ部員達がウォームアップを始めている。
「ったく、ウチの担任ホームルーム長すぎんだよ!」
タクの小言を背にぼくは他の卓球部員が来ていないか、目で探した。隅の方で垂らし髪の生徒がスマートフォンを見てニヤけている。
「あたる!」
ぼくが名前を呼ぶとゆっくりと日野あたるがぼく達の居る入口の方へ首をまわした。
「うはwwww先パイwwwwwww久しぶりwwwwですwwwwwwwwww」
最初に断って置くとこの中学1年の後輩はこういう喋り方をする。wwwwwの部分は笑顔でぅぅぅっ、と小声で発声するのベネ。
彼は卓球部員にありがちなオタク体質で、趣味はスマホによる5ちゃんねる閲覧とギャルゲーである。
本人曰く「言語によるコミュニケートには興味がない」との事でやはりホモ疑惑を持たれている。
「おい、なんでバスケ部共に言って場所確保しておかねーんだよ!」
タクがあたるにすごむがあたるは「wwwwwwwwwwwww」とニヤけるだけでまともに会話が成立しない。
「お、3人来てるじゃーん」
「よし、じゃあ始めるか」
ぼくらが振り返ると入口の方に他の部員達が立っていた。メンバーが揃うとぼくらは倉庫から卓球台を引っ張り出し、サポートを立て、ネットを貼り、ラリーを始めた。
バスケットボールがダムダム、と弾む間をカッコン、カッコンという小気味良い音が流れていく。ぼくの後ろの台でその音が止むとひとりの男が相手のタクに向かって声を発した。
「たくちゃーん。サーブ低いんじゃな~い?」
「そ、そんなことないっすよ、先パイ!」
タクに声をかけたのは卓球部の部長、松田忍。チャラっぽくてニヤニヤしてるけど部のムードメーカーだ。
笑うとき、顔をくしゃくしゃにして笑うのがチャームポイントで大学生の彼女がいるらしいが喋りがちょっとオネェっぽいため、やはりホモ疑惑を持たれている。
ふたりはすでに実践形式の練習をしているようだった。
「そこまで言うんだったら...王子サーブ行きますよ!」
そう言うとタクはピン球を天井近くまで放り投げ、目測を図った。が、その球はタクの額で跳ね返ると乾いた音を立てて体育館の床を転がった。
「はっはっはっ!」
「おい、モリア。ラリーを続けるぞ」
仰け反るタクを見て笑うぼくが正面を向き直ると3年の
半袖を肩までまくりピチピチの短パンといういでたちで、見た目がゴリラっぽいため、やはりホモだと思われている。
「は、はい!ヨロシャース!」
ぼくと初台先パイがラリーを続けると、前の台で練習しているあたるがひっきりなしにこっちの方へピン球を拾いにくる。たまらず部長であるマツ先パイがあたるの向かい側にいる少年に注意する。
「ちょっと~ケンちゃーん、なんでもスマッシュ打てばいいってもんじゃないよ~」
短髪の少年はそう言われて頭をかいた。
「そ、そうっスけど」
「さっきからwwwwwwwぜんぜんwwwwwwwラインに入ってないwwwwwwww」
「うるせぇ!始めたばっかりなんだから仕方ねぇだろ!」
あたるに逆上する少年の名は1年生の豊田ケンジ。長身で強面だが趣味が裁縫と料理のため、こいつもホモ疑惑が持たれている。
「そういえば、あいつこねーな」ラリー練も終盤に差し掛かる頃、タクが呟いた。すると廊下の方で黄色い歓声が響いた。そしてその声は次第に大きくなっていく。
「きゃ~すばるくぅ~ん」
女子の声援をBGMに現れたのは1年の赤星すばる。ファッションモデルの兄を持つイケメン君で「すばるきゅん」の愛称でミーハー女子とファッションホモのみなさまに人気。
他には腐女子のお姉様から「誘い受け」としてホモのレッテルを(以下略)
決してひがみで言っている訳じゃない。どこのセカイの田舎にもこういうヤツはいるもんだ。
その上13歳にしてテクニシャンタイプで(卓球のハナシね)校内でファンクラブが出来る程の人気。
放課後の練習にはいまんとこたくさんの女子が観覧に訪れるが当の本人は中度の中二病をこじらせている。
女子の前ではまともにしているけど、頭の中では自分が勇者で魔物を倒す空想を繰り広げている。
「フフ...混沌の闇を裂き、我、いま君臨す!」「...あのー、すばるーん」
部長がすばるの足元を指差した。スニーカーの下でオレンジのピン球が形を歪めていた。
「今回で5回目ね」「フ...って、そりゃないじゃないですかせんぱーい!」
「おっしゃー、部活終わり楽しみにしてるぜ!コーハイ!」
ぼくらの部活ではピン球5球割ると部員全員にジュースをおごるという暗黙のルールがある。男子部員は7人いるので130×7円で結構な出費だ。
「...みんな、ひどいや!」そういうとすばるは男子更衣室のドアを開けた。
「絶対に覗かないでくださいよ!特に初台先パイ!」「...おれ?」
「やっぱ、カッコつけてても中身は13歳のアマちゃんか」「結構グラスハートだよね~彼」
ドアが力強く閉じられるとすばるの囲い込みである女子共の罵声がぼく達に浴びせられた。
「すばるきゅんをいじめないで!」「なんなの?喉が渇いたら自分らで買ってくればいいでしょ!」「うはwwww正論wwwwwww」
「おめぇら!さっきからピーチク、パーチクと!大体てめぇら揃いも揃ってぶ、、」「はーい、ケンジくん、そこまでねー」
3年の女子マネ、泉はるの先パイが後ろからケンジの口を塞いだ。オトコ臭かった卓球台周辺の空気が霧が晴れたように一気に和らぐ。
ぼくらのひとつ年上の先輩の髪型はロングヘアにヘアバンドといったクラシックスタイル。少し背が高くてすれ違うとホワイトムスクの香りがする。実家は港のそばにある泉ベーカリーだ(たまに差し入れしてくれる)。
彼女の父は元バンドマンで母と姉がいる。主な仕事は部員達のスケジュール管理とツッコミ役。
ちなみに彼女の名前、泉と春はどっちもスプリングという意味になるらしい。これを本人から聞かされた時『ああ、おれこういう洒落た日本語好き』と改めて実感した。
「ちょと!もう練習始めちゃってるじゃないですか~!泉先パイ、抜けがけしないでください!」
泉マネの後ろから背の低い女生徒がひよっこり顔を出した。
「着替えていたら遅れちゃいました!」
そういうとピンクのワンピースウェアを着た眼鏡っ子がこっちに向かって袖をひらひらさせてみせた。
彼女の名は
見た目は割とまともで黙っていれば隠れファンも多い。が、、、頭の中はイケナイ妄想でいっぱいだそうで、ぼくは正直、言っちゃいけないけど、キモいと思ってる(キャハっ、言っちゃった♪)。
微妙にぶりっこで、それがぼくや他の女子の反感を買うきっかけになってるのを本人は無自覚なんで腹が立つ。読者の皆さんは好きな声優さんかなんかで脳内再生してもらえれば少しはイライラが晴れると思う。
「ふふ~ん!春の新物ですよ!可愛いウェアを着れるのも女子の特権ですよ!」
「...おめーは選手じゃなくてマネージャーだろ」
ぼくがぼそっとツッコミを入れてやると咳払いをひとつしてこっちに小さく手を向けた。
「は~い!始めての人もいるから自己紹介しちゃいま~す!ちっちゃなバディな可憐なレディ!妄想ばっかりエブリデイ!悩んでばっかりデイバイデイ!売買ゲームの倍返し!
じぇ・じぇ・じぇのリズムで、お、も、て、な...」
「ごめ~ん、遅れてきちゃった~」
「お~!巨乳マネキター!」Tシャツ一枚で走ってくる女生徒を見てバスケ部連中が歓声をあげる。
田中の不思議系アイドル風の自己紹介にへきえきしていたぼく達もガッツポーズを作る。
「あっぱい、いっぱい、うっぱい、えっぱい、デレッデ、デッデデ!おっぱい!...フゥー!」「ちょっとあんたたちー!」
泉先パイがバスケ部共をたしなめる。「あ、あの~」キョロキョロと周りを見渡す彼女の名は
3年の女子マネで巨乳のショートカットという超優良物件だが部員達がホモ(偏見)のため一切興味を持たれていないというのが外からの意見だ。
全体的に牛っぽくて部のマスコットキャラという立ち位置だ。「も~みんなして私の邪魔して~」
田中が泉先パイと三菱先パイの間を縫って前を出た。「皆さん、見てください!ウチの部の特集が組まれてます!」
そういうと田中が手に握られていたくしゃくしゃになったプリントを広げた。「なんだそれ?」「学校新聞?」
ぼく達は練習の手を止めて田中の元に近づいた。「あっ、ちょっと、近い」顔を赤らめる田中からプリントを奪い取るとぼく達はそれを額をぶつけ合うようにして見た。
先週、新聞部にインタビューを受けたぼくとマツ先パイの写真が掲載されている。「へぇー、カッコイイじゃん!」泉先パイが輪に加わるとぼくは文章の中に気になる文字列を発見した。
「えっと、ちょっとここ読みますね...
『記者:卓球部の皆さんは本当仲が良さそうですね
本田:はい!卓球部はみんな仲良しです!
松田:卓球部は週3日体育館で活動中です!入部者歓迎ですので遊びに来てくださいね~
記者:はい、ありがとうございました! 目指せ、ゼンチュー!ホモ卓球部!』
...あの新聞部」
ぼくはインタビューをしてきた丸眼鏡の記者を思い出した。ホモ卓球部...そのネーミングだけがぼく達の頭の中でぐるぐる回っていた。
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