「どんでん返し」というお題の不自由さ
クロロニー
「どんでん返し」というお題に感じる怒り
私は「どんでん返し」というお題に対し断固として非難する。
まず前提として、カクヨムのこのコンテストは多様性を守ることを是としていると私は考える。だからこそジャンルの指定もなく、フィクション・ノンフィクションの指定もない。また、それまでのお題はジャンルに引っ張られることのない普遍的なワードであったことからも、そのことが推察できる。
もしこのコンテストがそのような多様性を守るという前提の下に立っているのならば、このコンテストのお題は単に作者への制約を課すだけのものではなく、きちんと作者への手助けとなるものであるべきだ。しかし、「どんでん返し」というお題に前者の効果はあれど、後者の効果はない。
そもそも「どんでん返し」というのは物語構造である。「どんでん返し」というお題は構造を規定しているに過ぎない。それも、かなり抽象的に。「四年に一度」「最高のお祭り」「Uターン」「拡散する種子」他のお題は具体的で自然な語で構成されており、作者の発想の根本になり得た。イメージがしやすく、捻り甲斐もある。きちんと作者への手助けとなっていたのだ。しかし、「どんでん返し」のような物語構造というのはそれ自体が発想の根本になることはない。これは明らかに制約としての意味しか持っていない。単なる制約は多様性を削り取っているだけだ。この点で「どんでん返し」というお題は、多様性を守るという点でかなり悪手だと考える。
具体的に考えてみよう。たとえば「泣ける物語」というお題は果たして多様性が生まれるだろうか? そりゃ各々が「泣ける物語」の形を持っているだろう。しかしそのコンテストは各々が原型として持っているものを放出するだけにすぎず、新しい発想の余地は決して与えないだろう。お題はただただ作者の自由を奪っただけだ。
また、このようなお題は読者の側にもよくない予断を与える。あらかじめ「どんでん返し」と銘打たれた「どんでん返し」を読むことで得られる読書体験と、予断なしに「どんでん返し」を読むことで得られる読書体験というのははっきりと別物である。「泣ける物語」もしかり。自覚的であるということは物語への没入を妨げる要因になりやすい。もっともこれは個人差があるだろうが。
そして何よりこのお題は作品評価に対しても悪い影響を与える。物語構造を規定するということは、その物語構造がどれだけ効果的に達成されているかというのが評価の焦点になりやすい。しかし「どんでん返し」が上手くいっているかどうかというのは読み手の経験に依存する。多くの読書というのはそういうものであるが、このお題ではそれが極端になる。評価の焦点が一つの点に絞られがちになるため、個々人の評価が「成功した」「失敗した」の二元的な評価になりやすく、評価の振れ幅があまりにも大きすぎる。評価の多様性もかなり失われてしまう。作者へのフィードバックとしてこれほど無意味なものもないだろう。極端な話、細部が無視され、プロットだけが重視されてしまう。ならば小説のコンテストではなくプロットのコンテストにでもすればよかろうに。
最後に、このお題による制約があまりにも大きすぎることも挙げておこう。このコンテストは上限が4000字である。「どんでん返し」と銘打つには「どんでん返し」前と「どんでん返し」後のどちらも書く必要がある。「どんでん返し」後は少ない分量でも書けるだろうが、1000字程度だとしても「どんでん返し」前には3000字しか割けない。個人的な見解だが、まず以て叙述トリックは使えない。叙述トリックというのは一つの情報を意図的に隠し、更にミスリードを与えることで何の違和感もなく物語が進んでいるかのように見せかける技術のことだが、たとえそれらを3000字以内に収められたとしても、たった3000字の間だけ欺かれたところで驚きを得られることはほぼないだろう。もちろんミスリードが強烈だった場合はその限りではないものの、大半は「ただ情報を隠していただけの悪文」に終わる。叙述トリックを使わない「どんでん返し」であれば、より没入感とミスリードに気を遣う必要がある。登場人物と視線を同期させて、そこを揺さぶる必要がある。しかしたった3000字で視線が同期出来るほど没入感を生み出した上で更にミスリードをするということが現実的に可能だろうか? 不可能ではないが、かなり難しいだろうと考える。良質な作品を書きたいと思っている作者から、非常に多くの自由を奪っているのだ。
以上の点からお題「どんでん返し」は本コンテストのお題として不適切と考える。
作品数を振るい落とすためなのかもしれないが、それまでの四つのお題は素晴らしかっただけに、最後の最後で考え無しにお題が出されたように感じてしまったのは非常に残念に思う。
「どんでん返し」というお題の不自由さ クロロニー @mefisutoshow
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