高校入学してから一目惚れした美少女がツンデレで振り向いてくれない!

奈名瀬

初恋の金髪幼女を忘れられない僕が黒髪の女子高生に一目惚れした。

 有栖 桜ありす さくらに一目惚れをした。

 高校の入学式で。

 出会った瞬間にこの人だと思って、はじめて会った筈なのに懐かしいとすら思えた。

 けど……結果的に、俺はフラれることになる。


「桜さんっ!」

「へっ? は、はいっ!」


「俺と! 付き合あってほしいっ!」

「なっ――えっ!?」


 突然の告白に彼女は動揺した様子だった。

 だが、あわあわと髪先を指でいじりながら、ちんまりと慌てふためいている桜さんも可愛い。


「急に出会ったばかりの男に告白されて困るのはわかる! でも好きなんだ! だから俺の彼女になってくださいっ!」


 しかし……余裕のない彼女にそう言ってたたみかけた途端――桜さんはぴたりと静止し、きっと俺をにらみつけた。


「……ちょっとまって。あんた、あたしの名前覚えてる?」

「もちろん覚えているさ」


「そ、そうよねだって――」

「今さっき聞いたばかりじゃないか!」


「…………は?」

「それに好きな人の名前を忘れたりしない! だろ?」


「………そうね。ええ、全く」


 あれ? 心なしか、彼女の声色が沈んだような……。


「それで、あの……桜さん? 返事は?」

「……わけないでしょ」


「えっ?」

「返事なんて! する訳ないでしょっ!」


 ぴしゃりと言い放つなり桜さんは背を向けて去っていく。

 そう、俺はこうしてフラれたのだ。


 でも、それくらいで俺は懲りなかった。




「あんたも懲りないわね」

「1度や2度フラれたくらいじゃね」


「いや、あたしもうあんたから告白されるの20回目なんだけど?」

「覚えててくれて嬉しいよ!」


 桜としれっと同じクラスになって以降、日に1回彼女に告白するのが日課になっていた。

 その回数は桜さんが言った通り、今日で20回目。

 もはや、クラスの名物と言っても過言ではない。

 なにせ教師陣からも呆れて黙認されている程なのだから。


「別に憶えたくて覚えてる訳じゃないわよ……っていうか、告白されるなんて普通大事件なんだから忘れるはずないでしょ?」

「そんなこと言いながら、ちゃんと覚えててくれる桜って律儀だなぁ」


「はいはい、あんたと違ってね。ていうか、その……な、馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ」

「俺達、もうこんなに仲良しなのに?」


「『これ』は仲良しとは言わないでしょ。周りから見れば寒い漫才よ」

「俺達は熱々なのに?」


「じゃなくてっ! その、みんなみたいに『アリス』って呼びなさいよ。苗字のまんまだけど……ほら、あたしにとってはあだ名みたいなもんだし。それに……えっと、呼び捨てにされるよりもで呼ばれた方が、なんかこう仲良くなれる気、しない?」

「…………桜」


 彼女から『仲良くなれる気、しない?』なんて言われて、悪い気はしない。

 だけど……俺にとって『アリス』って名前は、特別で。


「悪い、やっぱり俺は『桜』って呼ぶよ」


 身勝手だとは思ったけれど、そう答えてしまった。


「——っ! そっ! 勝手にすればっ」

「ああ、勝手にする! 大丈夫! 呼び方なんて気にならなくなるくらいに好きになってもらえるように努力するよっ!」


 だが。

 その『いつか』が来ない内に夏休みになり……二学期が始まった。


「くっ! 今年の夏は桜と二人きりで色々な場所へデートに行くはずだったのに」

「……思ったんだけどさ。あんたはあたしに好きになってもらうための努力を間違ってる」


「そうかなぁ?」

「自覚なしか。例えば、毎度の告白の言葉だって……毎回毎回違うこと言ってくれたり、変わったシュチュエーションを用意してくれるのは楽しいけどさ」


「もしかしてグッと来たのあった!? 俺のこと好きになった!?」

「じゃなくて! 何回も告白しなくたってあたしを好きなことはわかったから……その、もうちょっと違った角度からのアプローチをね?」


「違った……アプローチ?」


 彼女の意図がわからず、首を傾げてしまった。


「はぁ……もういいわよ。そういえば毎度毎度よく考えつくわよね」

「何を?」


「何をって、告白の言葉よ」

「ああ! でもあれは思い付くと言うより、9割くらいはマンガで見たセリフを引用してる!」


「なっ!? そ、そうだったのっ!? そういうのは自分で考えた言葉で告白しなさいよ!」

「いや、だって毎回毎回思いつかないし」


「だったら、同じ言葉、同じシュチュエーションでいいから!」

「でも、飽きられたりしたら――」


「付き合ってもいないのに飽きるもくそもないでしょ! ていうかあたしだって一生懸命考えて何度も何度も考えなおして『これだ』って言葉で告白したんだから」


「へえ……桜って結構乙女チックなんだな。やっぱりこれからは少女漫画のシュチュエーションを多めにするか」


「ああもうっ!なんにもわかってない!」


 どかっと椅子に座ると桜はそっぽをむいてしまった。

 これ以上は、話題を変えないと相手をしてくれないかもしれない。

 そう思った矢先、髪を染めたクラスメイトが目に入る。


「……夏休みがあけたばかりだからか、まだ髪色を戻してないやつも多いな。生活指導に注意されるだろうに」


 ちらりと桜の目線が戻る。

 彼女は「はぁ……」と大きなため息を吐いた後で話題にのってくれた。


「そうね。まあ、高校に入ってはじめての夏休みだったんだもん。まだ夏休み気分が抜けてないのか、それか――いわゆる高校デビューする子達だっているんじゃない」

「なるほどな、そういうもんか」


 桜に頷きながら、俺はつい彼女の髪に目を惹かれる。


「……桜は、染めたりしないのか?」

「…………染めてたことなら、あるわよ」


「まじか。案外不良だったんだな。でもいいと思うぜ!」

「別に、不良とかじゃないわよ。親の趣味で昔染めてただけ……高校入学してからはずっとこれだし……髪染めたくらいで生活指導に目を付けられたくもなかったし? それに……」


「桜?」

「……なんでもない。ただ、あんたって金髪好きそうだなーって思っただけ」


「なっ!? なんでそれを知ってるんだよ!?」

「うわぁ……」




 そうやって、どこかで肝心なことをはぐらかされたと感じながら俺達は取り留めもない関係を重ねていき……高校ではじめてのバレンタインデーを迎えた。




「言っとくけど、義理だからね」

「でも嬉しいよ! じゃあ、俺からは本命チョコだ!」


 ずいっと差し出した本命チョコを受け取るなり、桜は苦い顔をした。


「……なんで男がチョコ作って来てんのよ」

「えっ? なんで、なんでもない平日に毎日のように告白されてるのにバレンタインっていう大事な日に本命チョコ渡されながら告白されないと思ったんだ?」


「なんか腹立つわね……やっぱりチョコ返しなさいよ」

「やだよっ!?」


「別になくなっても困らないでしょ、そんな安物チョコ。ていうか……ほ、他の子からチョコもらったりしなかったの?」

「なんで、毎日のように桜に告白してることを学校中に知られている俺が、桜以外の子からチョコもらってると思ったんだ?」


「なっ! だ、だって、あんた見てくれはそれなりだし……悪いやつじゃないし……ひとりくらいそういう子がいるかもって」

「あはは、ないない」


「そう、なの?」

「ああ。これまで俺にチョコくれた子なんて桜以外には幼稚園の頃に一人だけだったよ。あ、あと母さん!」


 恥ずかしい戦歴を笑いながら語ると、つられたように桜も笑う。


「……そ、そうなんだ」

「あっ、今バカにしたろ? 幼稚園の頃に金髪幼女からもらったチョコをカウントしてる俺を」


「ば、ばか! そんなことしないわよ」

「そう言いながら笑ってるじゃないか」


「もうっ、知らないっ」


 桜は顔を逸らすと今日はもう、それ以降口を聞いてくれなかった。


 そして――特に関係は発展しないまま、季節は春になる。

 そう、三度目の春に。


 ――卒業式の日。


 俺は、いや……俺達は教室に入った来た桜を見て……言葉を失った。


「桜……その髪」


 彼女は卒業式の日に、髪を金色に染めて登校して来たのだ。


「だから、有栖アリスだってば……アリスって呼んでよ」

「——っ!?」


 まさかと思ったことは何度かあった。

 でも、触れないようにしていた。


 だって、初恋の人の面影を目の前の桜に重ねているなんて……彼女は嫌だろうから。


 だから、まさか二人が同一人物かもしれないなんて……考えもしなかったんだ。


「ちょっと、ついて来て……」


 桜に言われるまま、俺は彼女の後をついていくしかなかった。


 ◆


「——だったの」

「えっ?」


「あたしの方が! 先に好きだったのっ! あんたのことっ! ていうか、髪染めたここまでしたのにまだわからないのっ!? あたしアリスのこと!」


 動揺が、確信へと変わる。

 やっぱり、君が――。


「アリスちゃんっ?」

「そうよ! てか、最初に会った時、気付きなさいよ! あたしが昔、あんたに本命バレンタインをあげた、金髪幼女の幼馴染! アリスでしょ!」


「えっ? でもだって――アリスちゃんは下の名前アリスがで……」

「あんたが! 勝手に下の名前って勘違いしただけでしょ!」


「えっ!? ええっ!?」

「もうっ、ばかっ! 気付いてほしくて苗字で呼ばせようとしても変に強がって名前で呼んでくるし……他にもずっと色々! あたしがこの三年間、どれだけやきもきしてきたかっ――ううんっ、あんたと離れ離れになってから今日まで、どんな想いでいたかなんて! わからないでしょ!」


「どんな想いって――」

「好きだったってこと! 決まってるでしょ!」


「で、でもアリスちゃん俺が告白してもOKくれなかったし」

「そんなの当たり前でしょ! だって――あたしの方が返事待ちだったんだからっ! あんたからのっ!」


「俺からの――返事待ち?」

「一生懸命考えて何度も何度も考えなおして『これだ』って言葉で告白したんだから。でも、離れ離れになっちゃって、あんたが――次に会った時に返事するからって」


「……わ」

「わ?」


「忘れてた……」

「いや、知ってるけど?」


 彼女の呆れ顔が胸にいたい。


「でも……やっと、思い出した?」

「うん……ごめん」


 直後。

 アリスちゃんは謝る口を手で塞いで、別の『言葉』を促した。


「そうじゃなくて……他に言うこと、あるでしょ?」

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高校入学してから一目惚れした美少女がツンデレで振り向いてくれない! 奈名瀬 @nanase-tomoya

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