兄の使命
武州人也
第1話
「彼氏に暴力を振るわれている……」
その話を、忍の兄、
忍に彼氏ができたのは、三か月前のことである。彼氏の
「このような男が好みなのか」
才一は密かに驚いた。小柄で可愛らしい忍の隣にあのような
才一は何となく、嫌な予感がして、忍の身を案じた。自分の家族であるから、心配になるのは当然である。だが、寺崎も、見た目に反して案外優しいかも知れない。人を見てくれだけで判断するのは愚の骨頂である、と自分に言い聞かせ、干渉することなく二人の仲を黙許していた。その結果が、これである。
「学校には、警察には言ったのか」
才一の問いに対して、忍は無言で首を横に振った。そりゃそうだ。言えるはずがない、と、才一は言った後で思った。
当然、このようなことは友達にも親にも相談しづらいだろう。となれば、これはもう、兄である自分が解決してやるしかない。
でも、どうやって解決する……?
「兄ちゃん……」
忍は涙ながらに訴えてくる。才一にはもう、黙って
かつて、中国は春秋時代、
途端に、才一の
「取り敢えず、もうあいつとは会うな。俺が話をつけてやる」
「本当……でも、悪いよ……兄ちゃんまで殴られたら……」
「大丈夫だ。俺はいつだって忍の味方だ」
そうだ。いつだって自分は、忍の味方だった。才一は過去を想起した。まだ二人が園児だった頃、砂場で忍が
才一は、にこやかな笑貌を浮かべながら、忍の頭を撫でた。怯えきっていた忍の表情が、俄かに柔らかくなった。
自分は信じられている。信義に報いぬ者は、男ではない。否、人ではない。生きては百夫の
「鋼の鞭を持ちて憎き汝を打ち据えん」
龍虎斗の一節を
才一が外に出ると、風が
兄の使命 武州人也 @hagachi-hm
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