第5話

 そうしてそうして、気がつけば夕方になっていた。

「じゃあ、そういうことでよろしく」

「この誓約は守れよ! 絶対だからな!」

「分かってる分かってる。しっかり頭に入ったから」

 シャーロットはそう言いながら最後のガラスの加工屋を出た。竜も続いて外に出た。日中降り続いた雨はもう上がっていた。分厚い雲の切れ間から夕日の赤い光が差し込んでいた。

「疲れましたよ、シャーロットさん」

「悪かったわ。悪かったわよ」

 竜は長い一日を終えた。いや、長い長いと思っていたがあっという間だとも言えた。なにせ、激怒したり懇願したりする人たちとなんとかかんとか交渉する内に気づけば夕方だったからだ。間違いの無いことは竜は今までで一番疲れたということだろう。

「まさか、全員が全員同じ契約を結ぶことになるとは思いませんでしたよ...」

 そういう話だった。結局、状況はどの業者も漏れなく一緒だったのである。全ての業者が多少のアクションの差はあってもレッドヒル工房と同じような態度を示したのである。つまるところ、全員拒絶したのである。そして、全員が口を揃えて言うのが『謝肉祭』の話であった。ダンだけでなく、恐らく謝肉祭でシャーロットと関わった人間は全員トラウマを抱えたらしいのだ。

 結果的に全ての業者でレッドヒル工房で結んだ『仕様を変更しない』契約と『変更した場合、仕事を無条件で降りても良くなおかつ報酬は全額払う』契約を結んだのだった。

「悪かったわよ」

 シャーロットは苦しそうに繰り返すしか無かった。 

 しかし、なにはともあれ一応話はまとまったのであった。交渉は主に竜が頑張ったわけだが。まぁ、シャーロットが交渉がまとまった後の仕事の話し合いは頑張ったわけだが。

 結果だけ見れば二人が頑張ってこの一日はなんとか終わったのだった。

 レッドヒル工房に始まり、魔法伝導材の業者『オールドマン工房』とも、魔法炉の材料の卸し業者『ブラックバーン商会』とも、今のガラス屋『ノルデンショルド硝子』とも全て仕事の契約を取り付けることが出来た。

 これで仕事が動いていくわけである。

 やっとかっとだが、これで仕事の土台は整いあとは出来上がっていくのを待つばかりなのである。

「これで、このあとはどうしていくんですか」

「あとはそれぞれの部品が出来るのを待ちながら、私は魔法炉を作るわ」

「それは業者さんに頼まないんですね」

「ええ、あれはまだ作るれる技術者が少ないから。いてもあの大工場だけ。そもそも私の発明だし、自分で作った方が早いのよね」

 魔法炉を発明したのがそもそもシャーロット本人なので、いわばシャーロットこそが魔法炉の製作技術者本人と言えるわけである。自分で作る方が色々調整も出来るし都合が良いのである。

 なので、このまま数日中に届く部品を使って魔法炉を作りながら他の各パーツが各業者で出来上がるのを待つばかりなのである。

「そういえば、組み立てそのものはどうするんですか? レッドヒル工房で頼むんですか?」

「まぁ、場所はあの工房の横の空き地になるんだけど、組み立て自体は私がするわ」

「ええ!? どうやってですか?」

 竜にはあの巨大な部品をシャーロットが扱えるとは思えない。

「そこは私がからくり師と呼ばれているのを忘れないでもらいたいわね。もちろん、私のからくりで行うわよ。こういう大きいからくりを組み立てるための専用からくりがちゃんとあるんだから」

「そ、そうなんですか。ちょっと見直しましたよ」

「ちょっとでも見直して貰えて喜ばしい限りだわ」

 今日一日で竜のシャーロットに対する評価は落ちに落ちていた。

 しかし、さすがに一世を風靡した魔導からくり師シャーロットの名は伊達ではないということだった。

 これでなんとか序盤の山場は乗り切り、その後の段取りも整っているので、あとは流れを見守るばかりということだった。

 二人は夕暮れの第二王都を歩いた。それぞれ帰路に付くのである。まず、竜は第二王都の外に出なくてはならない。正直、竜は今日一日ずっと人間に変化しており窮屈でくたくただった。元の姿に戻ってのんびりしたいと竜は思っていた。

「ちょっと寄り道して良いかしら」

 そんなところでシャーロットが言った。

「寄り道ですか?」

「ええ、ちょっとだけ...ちょっとだけ付き合って頂戴」

「ええ、良いですけど」

 シャーロットはなにか渋い表情だった。なにか非常に申し訳なさそうだった。というか今日一日の有様における罪悪感が在り在りと顔に出ていた。

 つまるところ、シャーロットがなにを考えているかは竜には手に取るように分かるのだった。

 手に取るように分かるがあえて分かっていないふりをして竜は付き合う。

 シャーロットはてくてくと歩き、工房のある通りを逸れて市場の方へとやってきた。市場は夕飯を買う主婦なんかで賑わい大盛況だった。

 竜はこれも珍しく目を丸くした。

 第二王都の市場は大きく、小さな町くらいの大きさがある。石造りの店舗を構えたものから、すぐにたためる露天形式のものまで、見渡す限りにずらりと並んでいる。そして、その間をたくさんの買い物袋を抱えた人々が歩いているのだ。

 竜とシャーロットはその中を歩いた。

 シャーロットは相変わらず気まずそうだ。竜は色々あったものの呆れたものの別にシャーロットを恨んでいるわけではなかったのだが。竜もなんとなく口数が少なくなってしまった。 そして、シャーロットはようやく口を開いた。

「肉は」

「はい?」

「肉は食べるのかしら」

「肉ですか」

 唐突だった。

「食べますよ。好きです」

「そう、それなら」

 シャーロットは一見の肉屋の前で止まった。

 そこにはいろんな牛肉の部位が綺麗に陳列されていた。シャーロットが作った冷気を保つからくりのケースの中に入っている。代わる代わる客が来ており繁盛していた。

 シャーロットはその店先に入り、店主らしき男に声をかけた。

「ジェフさん」

「おや、シャーロットのお嬢ちゃん」

「お嬢ちゃんはもう止めてよ。二十歳過ぎたんだから」

「俺にとってはいつでもお嬢ちゃんで恩人だよ。この店の盛況はお嬢ちゃんのおかげなんだから」

 ジェフは快活に笑う。気分の良い笑顔だった。

「ここは私が初めて冷蔵からくりを作った試作品を使ってくれた店なのよ」

「こっちがお願いしたんだ。肉を冷やすからくりがあったらもっと保存が効くのにって。まだ、お嬢ちゃんが学生だったころの話だ」

「まだまだ、全然だったころね」

「そちらさんは? 親戚の子かな?」

「ええ、まぁそんなところよ」

 シャーロットは詳しく話すと面倒になりそうなのでそういうことにしておいた。

「肉が欲しいの。一番大きいやつ」

「おやおや、今夜はお祝いかい?」

「いえ、色々お詫びよ」

「ああ、そっちかい。お嬢ちゃんはお詫びすることが多いからね」

 ジェフは笑いながら店の奥に行ってしまった。どうやら言われた肉を取りに行ったらしい。少し、いやかなり悲しい台詞を残していった。竜は気にしないことにした。

「今日のお詫びに僕に肉をおごってくれるってわけですか」

「ええ、ええ。今日はたくさん迷惑をかけてしまったから。こんなことだけでもさせて欲しいのよ」

「そんな。疲れましたけど全然迷惑だったとかでは無いですよ。疲れはしましたけどある意味では新鮮な体験でしたから」

「微妙なトゲを感じるわね....」

「それに結局上手くいったんですから。これでなんの問題も無いです。こんなことしてもらわなくて大丈夫なんですよ」

「いいえ、私の気が済まないわ。本当は全部とんとん拍子で行くかと思ってたのよ。なのにこんなことになってしまって。申し訳無いったら無いのよ」

「とんとん拍子なんて夢のまた夢でしたね」

 竜は遠い目をした。全てはシャーロットの想像以上にシャーロットの蛮行が影響を及ぼしていたことによる。

「だから、これいくらいはさせて頂戴」

「いえでも、一匹丸々って。いくらなんでもやりすぎじゃないですか」

「あなたの腹が納まるサイズじゃないと意味無いでしょう」

「だからといって.....」

 シャーロットは罪悪感で若干我を失っているようだった。

 シャーロットはこの一日、竜に散々迷惑をかけた分の埋め合わせをしようとしているわけである。行くところ行くところで全てがうまく行かず、その尻拭いを主に竜に任せてしまったことの罪滅ぼしである。

 呆れる竜が次の言葉を言う前に、

「はい、お嬢ちゃん。うちで一番大きいやつだよ」

 ガラガラと、台車に引かれて巨大な肉塊が運ばれてきた。大きな肉塊だ。豚丸々一匹だった。シャーロットの作った冷凍保存するからくりに入っていたために霜が降りている。シャーロットはゴクリと喉を鳴らした。想像以上に大きかったからだ。

「良いだろう。今日入ったばっかりのやつだからね。いやぁ、太っ腹だねお嬢ちゃん」

 そう言いながらジェフは伝票をシャーロットに渡した。そして、シャーロットは小さく悲鳴を上げた。そこにはシャーロットのひと月分の収入と同じ額が記されていた。目ん球が飛び出るとはこのことだ。

 竜はそれを見て溜め息を吐いた。

「良いですよシャーロットさん。無理しないでください」

「で、でも。前金でもらった鱗を換金すれば」

「僕の鱗をそんなことに使われても僕は嬉しくはありませんよ。とにかく言いたいのは僕は全然ここまでのことは望んでないということです。シャーロットさんは少しパニックになっていますよ。冷静になってください」

「も、申し訳なくて」

 シャーロットは罪悪感から小さくなってしまった。

 なにもここまでならなくても良いと竜は思った。

 しかし、確かにあれだけ不祥事を引き起こしまくったらこんな風に申し訳なさに襲われるのかも知れないとも思われた。そして、やはりお詫びをしたくなるモノなのかもしれない。そもそも、業者が客に不始末の尻拭いをさせたわけだからここまで縮こまるのも当然と言えば当然かもしれない。

 仕方が無いと竜は腕を組んでうなずく。

「分かりました。どうしてもお詫びがしたいというなら、僕が欲しいものをお願いします」

 そう言って竜はケースの中にある肉をじろりと見回しそして指さした。

 それはやや高級な肉であった。安くは無いが値段はさきほどより10分の1ほどである。

「そ、それで良いの?」

「ええ。本人が欲しいものを渡すのが一番のお詫びになると思いますよ。そんな自罰的なやり方なんかよりずっと」

「わ、分かったわ。分かったわよ。そうするわよ」

 竜が若干お怒りモードになっていたのでシャーロットはすぐに同意した。

 竜にはシャーロットが無理なお詫びをすることが、先の不祥事以上に腹立たしいことであった。

 そういうわけでシャーロットは指さされた肉を注文し、ジェフはそれを紙に包んで渡したのだった。

「なんか複雑な話みたいだね」

「面白そうにしないで頂戴ジェフさん」

 ジェフは面白そうに笑っていた。

 シャーロットは受け取った肉をそのまま竜に渡した。

 竜は満足げにそれを受け取った。

「この手の良い赤身の肉が好物なんですよ。脂が乗ってるのよりこっちの方が好みなんです」

「それで満足してくれたなら何よりだわ」

 二人はそうして改めて帰路に付くのだった。竜としてはもう少しこの賑やかな市場を見ていたかったが仕方が無い。もう問題なく子供が出歩くような時間では無くなってしまった。早く門を出なくては子供の姿で一晩を越えなくてはならなくなる。そんなことは嫌でたまらない竜だった。

 二人は市場を出てまた大通りに戻った。

 一気に人口密度が下がり、一息吐いた。

「なんか。重ね重ねごめんなさい。少し取り乱してたわ」

「良いですから良いですから。もう、今日あったもろもろは全部なんの問題も無いですから。家に帰ってゆっくりしてください」

「そうねぇ....」

 シャーロットの目には力が無かった。シャーロットも疲れているらしかった。ここに来て一気にきたのだろう。まぁ、一日あんなにいろんな人間に文句を言われれば疲れるのは当たり前だが。仕方の無い話だが。

 とにかく、今日もどたばたであった。長いような短いような一日がようやく終わるわけである。なんとか万事まとまり、そしてシャーロットの罪悪感もなんとか解消されたわけである。なんとか全部収まったわけである。

 そして、シャーロットは疲れ果てたわけである。

 竜はそんなシャーロットを見てなにか切なくなるのだった。

「帰りましょう。シャーロットさん」

「ええ、帰りましょうか」

「ちなみに明日は」

「魔法炉の部品がいくつか届くから少しずつ組み上げる予定よ」

「なら、ご一緒しますよ」

「ええ、構わないわよ」

 シャーロットの声にも力が無い。

 早く切り上げるべきだろう。

「じゃあ、また」

「ええ。ゆっくり休んでね」

 これまた力無く手を振るシャーロットだった。歩き出す足取りも頼りない。いろんなものに打ちひしがれた人間だった。その後ろ姿を見送る竜。果たしてちゃんと工房に帰れるか心配ではあったが、シャーロットも大人だ。

 竜は後ろ髪を引かれながらも自分は自分の帰路に付くのだった。

「思った以上に不器用な人みたいだな」

 竜はそう独りごちた。



 竪琴の音が響いていた。晴れた午前の日中である。中庭は人気が無く、広々とした草地には静かな時間が流れていた。中庭の構造物にはひとつひとつに細やかでそれでいて豪華な装飾が刻まれている。この中庭がいかに身分の高い人間のものであるかを伺わせた。

 その中庭の真ん中にある東屋で竪琴の奏者が優しい曲を奏でていた。竪琴の音は美しかったが弾いている女性の表情はこの上無く無表情だった。やる気が無いのだ。もはや、技術のみでこの美しい音を奏でているのである。何故かと言えば彼女はかれこれ2週間もこの曲をずっと引き続けているのである。正直、大金を貰っているとはいえ完全に飽きている女性である。

「いや、良い。やはり、『マリアの抱擁』はどれだけ聴いても聞き飽きないな」

 そうやってこの曲の名を自分に酔った言葉遣いで口にしたのはその女性の傍らでハンモックに揺られている男だった。綺麗な銀髪。砕けた服装だったが、そのひとつひとつが相当な上物であることは一目で分かる。この男こそがこの中庭の主であり、竪琴の奏者に2週間も同じ曲を弾かせ続けている張本人である。

「音色が良い。リズムも良い。聴いているだけでで聖母の慈悲深い微笑みが頭に浮かぶじゃないか。お前もそう思うだろう」

「はい。そう思います王子」

 女性は無表情で無感情の声で応えた。

「そうだろうそうだろう。やはり、僕の感性は素晴らしい。この曲をここまで理解出来るんだからね」

「はい。まさしくその通りです王子」

 女性はなにひとつ本心を含まない言葉で応えた。しかし、彼は、第二王子フレデリックは高笑いだった。女性の言葉にひどく機嫌を良くしたらしい。

「まったくお前はお世辞が上手いな。困ったものだ。しかし、全て事実か。ははは!」

「王子のお側にお仕えできて大変喜ばしく思います王子」

 異常に感情がこもった言葉と異常に感情のこもっていない言葉が何故か上手く交わされる。主に王子がおかしいだけだったが。

 彼はうぬぼれを絵に描いたような男であった。救いが無いとは彼のことだった。まさしく、哀れな男だった。

 これが、このアルビオン連合王国第二王都ウィンザーの現王子だった。

 彼こそが第二王リチャードにとっての、魔道からくりの急速な発達に次ぐ頭痛の種だった。

 彼が滑稽な歓談を過ごす午前の王城の中庭。そこにコツコツと新たな人物の足音が響いた。中庭に姿を現したのは女性だった。秘書官のグレイスだ。正装にきっちりと纏めたブロンド。いつもの通りの服装である。

「王子、報告です。王子が作らせたスペンサー大劇場ですが、昨夜経営破綻しました」

「おいおい。冗談はよせよグレイス。朝一番に僕が聞きたいのはそんな下らない報告じゃない」

「ですが、損失は莫大です。元老院はすでに王子の責任を追求するつもりのようですよ。まぁ、完全に王子の不手際ですから当たり前ですが。あんな辺境に作ってお客が入るわけがありませんから」

「おいおい。お前は秘書官なのにどうして僕を持ち上げることを覚えないんだ」

「持ち上げようがありません。特にこの件に関しては」

 グレイスの表情は恐ろしく険しかった。なので、フレデリックはそれ以上言うのを止めた。

「分かった。そこは僕がどうにかする。もっと楽しい報告をしてくれ」

「叔父上のリチャード様から伝言です。この2週間拒否している君主論の授業を今日にでも受けるようにとのことです」

 リチャードはフレデリックの叔父であり、同時に哲学者であり、そしてフレデリックの選任家庭教師だった。王族が王族の家庭教師を担うのは異例中の異例だがリチャードは相当な変わり者なのであるらしい。そして、その授業から逃げるためにフレデリックはここで竪琴を聞いているのであった。

「おいおい。僕は楽しい報告をと言ったはずだ」

「申し訳ありません王子。そんなものはありません」

「どうしてお前は秘書官なのにそんなに辛辣なんだ」

「辛辣にならざるを得ないからです王子」

 グレイスの表情には一切の容赦は無かった。フレデリックは恐ろしくてそれ以上言うのを止めた。

 フレデリックは不祥事だらけであり、その尻拭いをいつもするのがグレイスであり、つまりフレデリックはグレイスに頭が上がらなかった。

「クソ。せっかく良い気分で音楽を聞いていたのにひどい気分だ」

「本来王子はこんなところで良い気分で音楽を聞いている場合では無いのですが」

「うるさいうるさい。お前の説教はうんざりだ。もう報告も聞きたくない。さっさと下がれ」

「かしこまりました。そうさせていただきます」

 下がれと言われてグレイスの表情は若干柔らかくなった。嬉しいらしかった。悲しい話だった。

 その間もずっと竪琴は無表情な女性に弾かれ、美しい音を奏でていた。

 グレイスはくるりと踵を返し、元来た道を帰っていく。

 しかし、そこで思い出したように足を止めた。

「ああそうです王子。楽しいかは分かりませんが一応報告はあります」

「なんだ」

 フレデリックはうっとうしそうに聞き返す。

「竜が城下に来たのはご存じですね」

「ああ、もちろんだ。大騒ぎだったからな」

「その竜がこの王都に来た理由はコーヒーメーカーを作るためだそうですよ」

「なんだそれは」

 フレデリックは珍しくぽかんと表情を崩した。

「さぁ、詳しくは私も知りませんが。少し面白い話かと思いまして」

「ふ、まぁ面白くはあるか。竜がわざわざコーヒーメーカーを作りにこの王都までとは。大した与太話だ。......いや、待てよ。竜が現れのはサウスエンドだったな」

「ええ、そのはずです...が...」

 そこまで言って、グレイスは自分が失言をしたことに気がついた。この話題を出したことが間違いだったことに気がついた。そして、これから壮大な面倒が起きることを理解した。フレデリックは本当に面白そうに口元を歪ませていたからだ。

「間違いない、シャーロットだ。竜がコーヒーメーカーの製作を依頼したのはシャーロット・グランデだ。あの腹立たしいからくり師だ!」

 フレデリックは愉快でたまらないといった調子で高笑いしながらのけぞった。

「やったぞ! これは良い! あの女に目にもの見せる機会が回ってきたというわけだ!」 

 フレデリックの笑い声は中庭中に響き渡った。グレイスは非常に不愉快そうに眉をひそめるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る