短編29-3話 数あるカクヨムな留学生たちの対学園マドンナ策
帝王Tsuyamasama
短編29-3話 数あるカクヨムな留学生たちの対学園マドンナ策
「なぁカタリ」
「むぁんらー?」
中庭にある木製のベンチでこの俺
髪が赤茶色で目が水色の男だ。最近留学生としてこの学校にやってきた。趣味は小説作りと地図集めらしい。
身体は細いが運動神経はいいと思う。
「学園のマドンナに声をかける方法って、なにか知ってるか?」
「はぁ? そんなのあいさつすりゃいいんじゃないの?」
かみかみごっくんしたカタリ。手に持っていたやきそばパンの下の部分をちぎって地べたに置くと、さらに横にいたオレンジ色の羽を持つ鳥が近づいてきて、つついて食べ始めた。名前は『トリ』らしい。いいのかそんな安直な名前で?
鳥っつってもまんまるしてる。丸まったらどこまででも転がっていきそうだ。結構器用でペンを持ったりトロフィーを持ったりすることもできるらしい。
「そのあいさつができないから困ってんだよっ」
やはり留学生だからまだ
「あいさつができないってどういうことなんだ?」
にしてもやきそばパンをうまそうに食べるなカタリ。
「だって
俺の熱弁もむなしくカタリは普通にやきそばパン食べてただけだった。
「うわさねぇ。ま、そんな起こるかどうかわからないうわさとかいうのを気にするんなら声かけないままでいいんじゃね?」
「でも好きなんだよ世恵美ちゃんのことがぁーーー!!」
思わず心の叫びを爆発させてしまった。危ねぇ、中庭には学生が遠くにいただけでさっきのは聞こえてないみたいで。
「じゃ声かければいいじゃん。しゃべればわかるさ!」
「あのなぁ……」
がくっとうなだれる俺。
「あら~角雪様ー、そんなうなだれ方をしていると首を痛めますよー?」
のほほんな声を響かせながら現れたのはリンドバーグだ。カタリと一緒にこの学校へ留学生としてやってきた女子だ。カタリを含む多くのやつらからバーグさんと呼ばれている。ちゃんよりもさんが多いという。
薄い灰色の髪に目がオレンジ色。人の役に立つための勉強ということでこの学校にやってきたらしいが……別にここ進学校でもなんでもないんだけどな……?
カタリとは友達らしく、カタリの重度の方向音痴をサポートする役目も担っているとかなんとか。あれ、地図集めが趣味なのはどこのどいつだったっけ?
「カタリには首じゃなくて心を痛めつけられてんだよ」
俺の右隣にカタリがいたためか、左隣にバーグが座った。
(ち、近いな)
お、俺は普通の男子中学生だからな。女子がこんなに近くに座ったら普通にどきどきするぞ。
「カタリ、またここの学生さんをいじめているのですかー?」
「そんなわけねぇよっ。桜世恵美? に声かけるにはどうしたらいいかって言ってたからあいさつしろって言っただけだ」
「まぁ、角雪様はあいさつができないのですか? 大人になったときに困りそうですねぇ~」
ぐすん。お前ら俺になんの恨みがあるってんだっ。
「僕にはよくわからないな。読みたい本があったら開けばわかる。書きたい物語があったら書けばわかる。じゃあしゃべりたい人がいたら声をかければわかる、それだけだろ?」
「さっきの俺の話をちゃんと聞いてたかぁ~……?」
いや言ってることはわかるけどさ! わかるさ!
(でも周りでうわさされるのも怖いしなにより本人が超絶美少女だから顔見るだけで緊張するってーのぉー!)
「角雪様ー、今回はカタリの言うとおりですよ」
「今回はってなんだよっ」
カタリのツッコミが入った。
「角雪様は、世恵美様と仲良くなりたいのですよね?」
「あ、ああ」
「それ、世恵美様も同じように角雪様と仲良くなりたいと思っている、とは考えられませんか?」
「はぁ~? いやいやないだろーそれはーっ」
俺は右手を立てて横に振ってナイナイポーズをした。
「そりゃ俺は世恵美ちゃんのことを前から憧れに思っていたから、班で一緒になったらなにかと理由をつけて声をかけたり、重そうな荷物持ってたらなにかと理由をつけて持ってやったり、下校時間になったらなにかと理由をつけてげた箱付近で待って現れたら『じゃ!』ってだけして走って帰るとか、そのくらいしかしてない俺と仲良くなりたいなんて思うわけねーだろーっ」
「声かけれてんじゃん」
「もっと普通の話がしたいんだよっ! 趣味とか部活の話とか休みの日についてとか!」
カタリのツッコミに即座に返した。疲れるわっ!
「じゃあ普通の話すればいいじゃん」
「だーーーもぉーーー!!」
「首痛めますよー?」
だれか助けて……。
(ちらっ)
いや、トリは鳥だしな……なんかその場でちょっと浮いてばさばさしてる。もっかいうなだれとこ。
「トリちゃん、こんにちは。よしよし」
(はっ! その声は!)
後ろにうなだれていた首を速攻でまたトリに戻すと、しゃがんでトリをなでなでする世恵美ちゃん発見ー!!
「よぉ世恵美! いいとこに来たな!」
「どうぞこちらへ~」
え? 今のフォーメーションは左からバーグ・俺・カタリ(+トリ)だ。カタリが右に寄ってバーグが左に寄る。
「へ、へっ!?」
「角雪こっち寄れよ」
「え、あ、ちょっ」
カタリにそでを引っ張られちょっとだけ右に寄る。
(あぁ……まぶしい笑顔……)
トリを両腕で抱えてにっこりと……長い髪をふわふわさせながら、あの美少女世恵美ちゃんが……。
「おじゃましますっ」
(おひょうぉわーーーーー!!)
お、お、俺の左隣に、あ、あ、あの学園のマドンナがががが
(てか脚当たってんスけどぉーーー!!)
回避しようにも四人で座るにはそこそこぎりぎりなベンチなので、腕も脚も……あばあばば。
(てかトリおめぇ…………)
あの世恵美様に抱えられながら世恵美様のひざの上でそんなぼへーっとした平和すぎる表情しやがって。くっそ、俺来世鳥に異世界転生するわ。
「角雪が世恵美に話したいことがあるってさ」
「ちょぉおい!」
さらっと言うなよ! しかもそれ誤解されそうな言い方じゃね!?
「私に? なにかな?」
(こ、こんなに近くでなんでそんな笑顔になれるんだよ……)
髪つやつやだしお肌もすべすべなんだろうなー。この世の存在とは思えん……。
「あ、い、いやー、まあそのー」
「ほらほら角雪様、想いを伝えるチャンスですよ!」
「うおぉおぉおおい!!」
確信犯か!? おめぇら悪の組織に手ぇ染めてねぇか!?
「想い? どんなことかなっ」
妙にわくわくされてるし……。
「い、あ、あはー、こ、こいつらがてきとーに言ってるだけでさー、は、ははーっ」
「えいっ」
「きゃっ! もぉバーグちゃんったらぁっ、ふふっ」
「おひょひゃひょひゃー!」
何を思ったのかただでさえ狭めな俺らなのにバーグが世恵美ちゃんにおしくらまんじゅう=さらに世恵美ちゃんの腕脚肩がうおあおあ。
(あぁ……もうこの世に未練はねぇぜ……)
「ほら早く言えよ。さっき叫んでたじゃん。好」
「うおおおおーーー!!」
言うな言うなばか者めーーー!!
「わたくしもばっちり聞こえていましたよ! 好」
「ぬおおおおーーー!!」
俺は悩みを打ち明ける相手を間違ったようだ。
「カタリくんとバーグちゃんには教えてることなの? じゃあ私にも教えてほしいなっ」
「え……そ、それは非常に難しいというかなんというか……」
あなた本人です。俺の憧れの人の。
「えーっ、私だけ仲間外れ? さみしいなー」
うわぁ……ちぇーっ顔をこんな間近で見られるなんて……そろそろ天に昇ってもいいよね?
「そうだぞ角雪。告ればわかるさ!」
「お前ーーーーー!!」
イカ墨スパゲティ食べさせてそのにかーっと白く輝いてる歯をまっくろけっけにしてやろうかこんにゃろこんにゃろ!!
「えいっ」
「きゃー! もうなにバーグちゃんったらーっ、ふふっ」
「……ふぉぉぉ……」
バーグがまたおしくらまんじゅう攻撃を世恵美ちゃんに仕掛けると、トリがばささっとバーグのところへ移った。と同時に空いた世恵美ちゃんの手がよろけながら俺の左手や腕と重なって…………
(はい無理。手の制御抑えられない)
握ってしまった。あの学園のマドンナのかわいすぎるおててと。
細くてすべすべで……なんかこう、すごく優しくて。
「あ、角雪くんに捕まっちゃったっ」
(ちゅどーーーん)
「世恵美ちゃん、好きです。付き合ってください」
………………うん。うん。うん。
「えっ……? か、角雪くん……?」
「なんだ言えるじゃんか!」
「まあ! 角雪様見直しました!」
俺は世恵美ちゃんを見ることしかできなかった。
「……あ、あのっ、えっと……」
握った手から伝わる世恵美ちゃんの温かさ。
「…………私でー……いいの、かな……?」
(ぬ!?)
「世恵美ちゃんがいいです。世恵美ちゃんしか見えません。ずっと世恵美ちゃんしか見てきませんでした」
さっきのセリフはどこの台本から持ってきたんだろうな。ただの俺がこんなセリフを世恵美ちゃんに言えるはずがない。(ライトノベルタイトル風)
そしてこのほっぺた赤くさせながらちょこっとうつむき加減な世恵美ちゃんもたぶん絵画作品さ。俺の目の前でテレてくれてるなんてまっさかー。
「……うんっ。じゃあ、あの、えっと……」
(ごくり)
「……よろしくお願い、しますっ」
(お……う……あ…………)
「やったじゃん角雪! だから言ったろ? 告ればわかるさ!」
「よかったですねぇ角雪様! もう首痛めさせないでくださいねー?」
バーグやたら笑顔。カタリは後ろだから表情わからない。世恵美ちゃんかわいい。え? このかわいい世恵美ちゃんが、お、俺の……え? えっ?
「よよよよよ世恵美ちゃーーーん!!」
「きゃあっ! そ、そんなに泣かないで、ね、ねっ?」
「あらあら首痛めますよー?」
天に向かって俺様涙の叫びが放たれた。
短編29-3話 数あるカクヨムな留学生たちの対学園マドンナ策 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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