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特にそうしようという意図はなかったのだが、結果としてエ・ランテルの冒険者達を大いに混乱させる原因となったクロクレスとその一行は、エ・ランテルから北へ徒歩で一日程歩いた場所で野営を行っていた。
「へぇ、そうなのか? なるほど、興味深い……」
「そ、そうですか……」
野営の準備を終えたクロクレスはクレマンティーヌと話をしていてその内容に興味深そうに頷き、クレマンティーヌは内心で怯えながら相槌を打つ。
かつてはスレイン法国の特殊部隊、漆黒聖典の一員であり、様々な国で任務を行ってきたクレマンティーヌが持つ情報は、クロクレスにとって非常に興味深く重要なものであった。
スレイン法国を初めとするいくつもの国々の情報。
この世界の魔法がユグドラシルの魔法とほぼ同じという事実。
ユグドラシルには存在していなかった、戦士が使う自身の身体能力を向上させたり攻撃を強化したりする「武技」と呼ばれるスキルの存在。
強大な力を持ち、遥か昔にスレイン法国を建国したとされる「六大神」の伝説。
そしてそれらの情報の中で、特にクロクレスが興味を抱いたのは……。
「『ぷれいやー』、それに神人と呼ばれる存在か……」
クレマンティーヌが語る伝説には、大体百年くらいの周期で常識を遥かに越える力と、この世のものとは思えない知識を持つ者がこの世界に現れるというものがあった。彼らは自分達のことを「プレイヤー」と名乗っていたらしく、プレイヤーの血を引いていて潜在能力が高い者は神人と呼ばれているそうだ。
(そのプレイヤーって、話を聞く限り俺と同じユグドラシルプレイヤーみたいな漢字だな。あのユグドラシルのサービス終了日、俺と同じように最後までユグドラシルにいたプレイヤーは少数だけど他にもいたはず……。そのプレイヤー達もこの世界に来ていたってことか? だけどそれにしてはこの世界に来る時期が違うのが気になるけど……?)
「スレイン法国を建国した六大神も『ぷれいやー』だと言われています。そして六大神で最も強大で死と安らぎを司る神であるスルシャーナ様は、骸骨のアンデッドの姿をしていたとか」
プレイヤーについて考えていたクロクレスは、クレマンティーヌの口から「骸骨のアンデッドの姿をしたプレイヤー」という言葉を聞いて、脳裏に一人の友人の姿を思い浮かべた。
モモンガ。
クロクレスと同じユグドラシルプレイヤー。モモンガの性格を考えると、サービスが終了する最後までユグドラシルの世界にいて、そのままこの世界に来る可能性が高いとクロクレスは考える。
そして六大神の「六」という数字にも、ある心当たりがあった。
ペロロンチーノ。ぶくぶく茶釜。ヘロヘロ。武人建御雷。弐式炎雷。
クロクレスがサービス終了日くらい顔をだしたらどうだと誘ったモモンガと同じギルドのユグドラシルプレイヤー達。彼らとモモンガを合わせれば、丁度六大神と同じ数となる。
(もしかしてスレイン法国ってこの世界に来たモモンガさん達が作った国なんじゃ……それはないか)
クロクレスは自分の考えを首を横に振って否定する。
クレマンティーヌから聞いたスレイン法国は人間至上主義を掲げていて、人間以外の種族を積極的に弾圧しているという話だ。それに対してモモンガ達のギルドは異形種のみで構成されていて、ユグドラシル時代は異形種プレイヤーを攻撃する悪質な人間種プレイヤーを逆に倒す活動を行っており、スレイン法国とは真逆と言えた。
「クロクレス様? どうかしましたか?」
クロクレスが首を横に振ったのを見て、それまで無言で彼とクレマンティーヌの会話を聞いていたシャインがクロクレスに話しかける。
「いや、何でもない。気にしないでくれ。それよりこれから何処へ行こうか?」
「私はクロクレス様が行かれる所へついて行くだけです」
「私は……出来たらスレイン法国以外でお願いします」
シャインに返事をしたクロクレスは、シャインとクレマンティーヌにこれから何処へ行きたいか意見を聞いた。それに対してシャインは無表情のまま、クレマンティーヌは申し訳なさそうな表情で恐る恐る答える。
スレイン法国に裏切り者として追われているクレマンティーヌをスレイン法国に連れていくと、まず間違いなく厄介なトラブルが起こるだろう。その為クロクレスもシャインも彼女の意見に反対はなかった。
つまり三人がこれから何処へ行くかはクロクレスの判断次第ということで、クロクレスは顎に手を当ててこれからの行き先を考える。
選択肢は全部で三つ。
一つ目はこのままこの国、リ・エスティーゼ王国に留まり、エ・ランテルとは別の街へ向かう。
二つ目は東にある隣国、バハルス帝国へ向かう。
三つ目はバハルス帝国よりも遠いが西にあるローブル聖王国へ向かう。
「さて、どうするか……?」
クロクレスはそう呟いてしばらく考えた後、やがて結論を出した。
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