第92話 美和ちゃん
めでたく美和ちゃんと婚約した俺だけど、やっぱり生駒家から二人も織田家に嫁ぐのは良くないって事で、美和ちゃんは一度有力武将の養女になってから俺と結婚することになった。
その有力武将も、熊が妻帯者なら熊も候補に挙がったらしいんだけど、俺にとっては幸いなことに熊は独身だったからその話は流れた。
うん。熊をお義父さんとか呼びたくないしな。
ただこの間の稲生の戦いで林のジジイが黒焦げになって死んだのが、俺を怒らせたから神仏が天罰を落とした、っていう噂になってたんで、養女になる先には色々と気を遣わないといけなくなった。
そこで信長兄上が目をつけたのが、熱田神社の長官である大宮司の職を代々世襲している
有力な武家だと家と家との兼ね合いがあるけど、寺社勢力はまた別格というか。とりあえずカドが立たない選択らしい。
中でも熱田神社は信長兄上が贔屓してるところだしな。あの桶狭間の戦いでも戦勝祈願しに行ったわけだし。
千秋家ってさ、凄いんだぞ。元々は藤原氏の一門で、ご先祖さまには何とあの源頼朝公を産んだご生母さまがいらっしゃるのだ。なんでも熱田神宮の中にある屋敷で産んだんだとか。
もう、名門中の名門だよな。
平安時代のお偉いさんの例にもれず、千秋家もずっと京都に住んで所領の運営は下級神官に任せてたんだけど、このご時世だからな、どんどん領地を武家に奪われていっちゃったんで、これはまずいってことで、尾張知多郡の羽豆崎城に移ってきた。知多半島の、一番先端のとこにある城だな。
一説によると、古事記でヤマトタケルが東征する時に水軍を率いていたのが、この羽豆崎城のあたりらしい。確かに西には伊勢湾が、東には知多湾、三河湾、渥美湾がある、海の要所だな。
羽豆崎城は熱田神社とは離れてるんだけど、神社の方にも屋敷があるから、普段はそっちで生活してるらしい。
でさ、熱田神社の大宮司って言ったら、どんな人を連想する?
この時代には眼鏡ないからイメージだけだけど、いわゆる眼鏡系クール青年みたいなのを連想するよな?
でも婚約の顔合わせの時に会った千秋家の当主、
っていうか、むしろ脳筋。熊と話が合いそうなタイプだ。見た目も割と似てる。熊兄弟は無理としても、月の輪熊とマレーグマの従兄弟関係くらいならいけそうだ。
父親の千秋季光さんも、武士として父上に仕えてたけど、加納口の戦いで戦死した。
神職とはいったい……
あと信長兄上、宗教家は武力持つなって言ってなかったっけ? これは個人での武だからいいのかね。
うーん。神主さんの服を着たら、もうちょっと神主さんらしい神々しさとか重々しさとかが出るのかなぁ。なんか槍持って突撃ーとか言ってる方が似合ってそうなんだけど。神社で祝詞を唱えてる姿が想像できないよ。
それにしても、二十二歳で実の子もまだ産まれてないのに、いきなり十三歳の美和ちゃんの父親になっちゃってすまんね。
「わっはっは。たあも、いきなりこのように大きな娘ができて驚いておりました。しかし、神仏の申し子である喜六郎様が私の婿になるとは、いやぁ、まっことめでたいことですな!」
たあ、っていうのが、千秋さんの奥さんの名前らしい。
そして俺の背中をバンバン叩くのはやめてくれ。これ絶対、後で手形が背中についてるぞ。
「あの、喜六郎様……本当に私でよろしいのですか……?」
吉乃さんが信長兄上の側室になることが決まって、自分も織田に嫁ぐとは思わなかったんだろう。しかもまだ本人には内緒だけど、正室として迎えるつもりだ。もちろん、俺が元服してからの話になるけど。
いややっぱり現代の倫理観が邪魔をするっていうかさ、この時代に合わないのは分かってるんだけど、奥さんは一人がいいんだよな。
決して、正室と側室との間で繰り広げられるであろう仁義なき戦いを調停できる気がしないからなんてことはない。うむ。
「み……美和さん。私は、あなたがいいです。あなたじゃないと駄目なのです」
真っ赤になりながらもそう言うと、同じように真っ赤になった美和ちゃんが、蚊の鳴くような声で、
「私も喜六郎様が良いです!」
と、言ってくれた。
くぅぅぅぅぅぅぅ。
幸せって、こういうことを言うんだな!
神様、仏様。俺をこの時代に転生させてくれてありがとう!
「初々しいことだな」
ニヤニヤ笑う信長兄上は、いつの間にか吉乃さんに膝枕してもらってくつろいでいる。
ちょ、信長兄上。妊婦さんに負担かけちゃだめだろ!
妊娠初期は安静にしてないとダメなんだからな!
あと、栄養をたっぷり取って、適度な運動も取らないとダメだぞ。
信長兄上! 聞いてますかー!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます