三十階仮眠室
お二人がお住まいになられてるのは三十階仮眠室。ここは六年前の彗星騒ぎの時に作られたのですが、名称こそ仮眠室ですが、はっきり言わなくともお屋敷です。いろいろ経緯はあるのですが、ミサキが騙された格好になって、三十階に仮眠室の名目で家を建てられてしまったのです。
それでも最初は本当の仮眠室だったのですが、宇宙船団騒ぎで地球側全権代表をユッキー社長が務められてからは、身辺がウルサクなり、マンションを引き払ってコトリ副社長と共に住んでしまわれています。
「ここなら静かだし、マスコミとか来ないからイイわ」
それはわかるのですが、
「そやなユッキー。ここなら光熱費も、水道代も、通信代もいらへんし、遅刻もあらへん」
そうなんです。あくまでも仮眠室ですから、維持経費はすべて会社持ちなんです。ここも徐々と言うより日増しに整備されていき、お茶室やアスレチック・ルームまで備えられています。これはエレギオンHDに移行してからも続いています。
エレギオンHDは旧クレイエール本社であるクレイエール・ビルにあるのですが、新築の話もありました。計画段階の構想図に同意を求められたのですが、それこそビックリ仰天。なんと五フロア分をぶち抜いて三階建ての仮眠室を作るとなっていました。
「せっかくだから、ちょっと大きくしようと思って」
「天井も高い方が気が晴れるし」
どこがちょっとやねん。結構どころやなくもめたのですが、幸いなことに三宮再開発計画にひっかかりペンディング。ミサキの目が黒いうちはなにがあっても認めるものですか。
「そこまでのものを作られるのでしたら、土地を買われて建設された方が宜しいかと」
そしたらコトリ副社長が、
「ミサキちゃん、そんなんしたら、固定資産税はかかるわ、光熱費はいるわで物入りやんか」
「そうよ、そうよ」
どれだけ給料もらってるんやと思うのですが、お二人はケチと言うより、節約術が趣味みたいに大好きなのです。
「ほんじゃ、社宅扱いにしてくれる」
「そんな御殿が社宅として認められるわけないじゃありませんか」
「そうでしょ、だから仮眠室で」
「ダメです」
なんだかんだとやってるうちに、
「これで間に合うからエエわ」
「そうなのよ、別に新築しなくとも困ってないし」
そんなクレイエール・ビル三十階への出入りは厳しく制限され、実質的には四女神ぐらいしか入れないようになっています。ですから、外からはエレギオンHDの心臓部と見られて、その内部はあれこれ憶測されていますが、実際のところは、
『コ~ン』
鹿威しが響く、お二人の秘密基地みたいなものです。まあ、こんな状態であることを外部に見せたくないのも本音です。
これだけの規模の会社になるとユッキー社長も、コトリ副社長もお好きでない政治との絡みも出て来るのですが、好みでないのと、実際に出来るのとは話がまったく違うのは、これまた思い知らされました。
政府は下山総理が彗星騒ぎの時からの長期政権を続けておられます。下山政権も彗星騒ぎの時、宇宙船団騒ぎの時に支持率が低迷して危なかったのですが、事態が切迫しすぎていて、
『この非常事態に総選挙は不謹慎である』
こういう空気で危機を乗り切り、危機が去った後の景気回復で人気を取り戻しての政権維持です。この下山総理とはユッキー社長が全権代表を務められた時から強いコネクションが出来上がっています。その下山政権もそろそろ終わりに近づいているのですが、与党で最大の派閥は下山派であり、その下山派のホープと呼ばれているのが斎藤財務大臣です。
斎藤大臣は宇宙船団騒ぎの時には首相補佐官でしたが、ユッキー社長の担ぎ出し、さらにユッキー社長がエラン代表とまとめた合意内容の各国への了解工作で手腕を発揮した点が高い評価となっています。
この斎藤大臣にもコネクションがきっちり出来上がっており、斎藤大臣だけではなく与党の有力者にもコネが広く深くつながっています。コトリ副社長に言わせれば、
「あれだけカネばらまいたら、みんな尻尾振るで」
結果として斎藤財務大臣だけでなく、下山派、さらには与党の最有力スポンサーになっています。ミサキも実態を知っていますが、
『ようやるわ』
これしか感想はありませんでした。
「ミサキちゃん、だから政治に関わるのは嫌なのよ」
イヤだ、イヤだと言いながら、利用し尽くしてあれこれ事業拡大のための許認可や、新法の設立まで後押しやってますからあきれます。
日本だけではありません。社長は全権代表を務められた時から世界のVIPとコネが出来ています。つうか、ユッキー社長自体が世界のVIPみたいなものですが、欧米でのロビー活動もそのコネを利用して活発に行われています。ユッキー社長なんてドライなもので、
「政治家なんて、ほとんどカネで転ぶのよ。一度転んだらポチみたいなもの。エサ代は少々高いけど、エサ代をどう回収するかがポイント。ま、エサやらなければウルサイから、ヤクザと付き合ってるようなもの」
「そんなもの、いつ覚えたのですか」
「シチリア時代よ」
なるほど。シチリア移住後は、クルクルと支配者が入れ替わる中でエレギオン人を守っていましたが、こんな事やってたんだ。千六百年の経験者に人の政治家が勝てるわけないと感じた次第です。
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