055

私たちのやりとりを見ていたすずが、楽しそうに横やりを入れる。


「パパ、ケンカだめだねぇ。」


「ケンカじゃないよ。」


柴原さんが苦笑する。


「はちもとちゃん?」


すずが私を指差して言うので、柴原さんは慌てて訂正した。


「違う違う。橋本さん、じゃなくて。」


「はちもとちゃーん。あははは!」


何がすずのツボに入ったのか、すずは“はちもとちゃん”を連呼してはその度にゲラゲラと笑った。頑張って訂正を試みた柴原さんだったが、まったく聞く耳持たないすずの対応にガックリしたのか、そのうち眉間を押さえて天を仰いだ。


子供はすぐに回りの人の言葉を繰り返す。

せっかく“ねえね”と可愛く呼んでくれているのに、“はちもとちゃん”になってしまっては困る。


私は大きくため息をついた。

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