056

「はーもう、美咲でいいです。美咲って呼んでくださいよ。」


いつまでも橋本さんじゃよくない。

保育園でもそう呼ばれた日には目も当てられない。

と思って言ったのに。


「じゃあ美咲。」


「そこはさん付けないのかよ!」


あっけらかんと名前を呼び捨てにしてくる柴原さんに、私は盛大にツッコミを入れた。


「え、あ、ごめん。そうかー、難しいな。」


「…柴原さんって天然ですか?」


「いやいや、美咲のほうが天然でしょ?」


「はあ?」


食って掛かろうとしたところ、すずが私の袖を引っ張る。


「ねえねもケンカだめだねぇ。」


「ほんとだねぇ。」


「だめだねぇ。」


何故か柴原さんもすずの口真似をして二人で責めてくるので、私はキレた。


「うるさい!早く食べろ!」


ダイニングテーブルをバン!と叩いてから、ドスドスと足音を立てながら洗濯物干しに戻った。


くだらないことでキレてしまったことに少し後悔しつつも、先程のやりとりを思い出すと妙に笑えてくる。


なんだこれ。

柴原さんはもっと冷たい印象だったのに、もうそんな感じは一切なくなっている。

言動が意味不明だしまったくつかめない。


それにすずも、言葉が増えてしっかりしゃべるようになってきた。

子供の成長は早いな。

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